表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第一章~平穏が終わる時~
86/2685

アルネリア教会襲撃、その14~襲撃の後始末②~

***


数日後――


 深緑宮の改修も始まり、破られた外壁も見かけ上は取り繕われた。深緑宮はミリアザールにしてみれば広過ぎたのでちょうどいいと主張したのだが、最初に建てた時も同じ問答をして、「教主たるもの、これぐらいの場所に住まなくてどうしますか!」と言いくるめられた気がする。彼女を崇める立場にある者としては、自分達の主が威厳がある方がよく、ミリアザールを普段拝めない分、建物だけでも威厳ある物にしたいというのが周囲の考えだった。ミリアザールも最初は嫌がったが、予算の許す範囲でならということで渋々承諾させられた。無駄遣いをほとんどしないミリアザールだから、予算など毎年余っていたのでその繰越金を使えばいくらでもお釣りはきたのだ。

 だが今回の襲撃で出たのは建物的な被害よりも、やはり人的被害が多きい。最終的な死者数378名――これはここ何十年かのアルネリア教が出した死者数で最も多いものであった。アルネリア教は前に述べたとおり孤児出身が多いものの、それらは死者のうち100も数えず、また孤児であっても現在家庭を築いている者も多かったから、人が死ねばどうしてもその報告をせざるを得なかった。表向きは何もなかったことにしたかったミリアザールであったが、何も無く済ませるには少し事件が大きすぎた。どこからともなく少しずつ噂は広まり、やがて大なり小なり事情は各国にも知れることとなる。

 ミリアザールもその事は覚悟してはいたが、アルネリアの市民が今回の事件にかこつけて教会を非難するようなことが無いのは救いだった。アルネリアの市民もよく教会の気持ちは分かっていたのだ。これも普段の善政と、死者に報告をした者達の対応によるものだろう。優れた集団というのは、すべからく中間層に良い人材が多い。直接ミリアザールが指示を飛ばさずとも、その意をくんで上手く立ちまわれる者が多いことが、アルネリア教会の真の強みかもしれない。

 そういった事後処理もほぼ終了し、通常業務にミリアザールが戻れるようになるころ、ジェイクは彼女に呼び出された。


「何か用か、ぺったんこ」

「ああ。真面目な話じゃ」


 ミリアザールがからかうのに応じない。またその表情で真剣な話だとジェイクもすぐ気付いた。


「・・・何の話?」

「奴らが最後に残したセリフ、覚えておるか?」

「ああ、何か俺に恨みを持ったみたいだったね。それにリサ姉のことも知ってるみたいだった」

「実はリサ達にはこっそり護衛をワシがつけてある。それゆえ大抵のことは大丈夫だし、またリサの周りにいる奴らも相当強い。あの小僧程度なら彼女達は当座心配いらないかもしれないが・・・」

「要は俺は完全に標的ってことだよな? で、俺がリサ姉の足枷になるかもと」

「言いにくいがその通りじゃ」

「だよな・・・俺はどうしたらいい?」

「うむ・・・」


 ミリアザールはジェイクの切り替えの早さに感嘆するとともに、少し言い出しにくくもあった。いずれはしようと思った話ではあったのだが、いくらなんでも10歳の少年にとって早いのではないかと考えていたのだ。


「ジェイクお主・・・神殿騎士団に入れ」

「わかった」

「いや、いきなり決断しろとは言わないから・・・って、即断か!?」

「今でもやってることあんまり変わらないだろ? ならいいよ」

「だがしかし騎士団に入れば生活は拘束される。少年らしい自由はなくなってしまう。ワシはそれを心配してじゃな」

「かまやしないさ。俺は人生全てリサ姉のために使うって決めたんだ。男だったら自分の言ったことを曲げたら駄目だろ?」

「こやつ、口だけは一人前じゃ」

「当り前だっての・・・いてっ!」


 ミリアザールがこつんとジェイクの頭を殴る。ミリアザールはこういった気概ある若者を沢山見てきたが、彼らの成長はいつでも彼女の楽しみでもあった。


「では今日中にでも手続きをしておこう。まずは外周部の部隊に所属させる。そのため深緑宮には自由な出入りはできなくなる。だが守衛には話は通しておくから、手続きが必要にこそなるものの出入りは出来るようにしておく。チビ達にはきちんと話はしておけよ?」

「わかった」

「またラファティないしアルベルトとは、必ず鍛錬の時間をもうけさせる。少なくともあ奴らに近い実力を身につけんと、リサを守るなど不可能じゃからな」

「どのくらいであそこまでいける?」

「先を急ぐなと言いたいが、全てお前次第じゃ・・・まあ1年後にどのくらい強くなっているかじゃな」

「そっか・・・やってみないとわからないか」

「こればっかりはな」

「話はそれだけか?」

「ああ、とりあえずはな」

「じゃあネリィとかに説明してくるよ。また戻って来る!」

「うむ」


 ジェイクは小走りに部屋の外に出ていき、それを見てからミリアザールはアルベルトとラファティを呼ぶ。


「お呼びで?」

「うむ、ジェイクは今日から神殿騎士団団員じゃ。じゃが奴には魔術訓練・戦闘訓練・勉学を優先させよ。お主たちとの訓練も優先して毎日行わせる」

「それは・・・大変ですね」

「ああ、色んな意味でな。肉体的にも限界に近い毎日が続くじゃろうが、それよりも精神的にきつくなるだろう。周囲には理解されずやっかまれ、同世代には敵視される危険もある。かつてお主たちがそうだったようにな」

「・・・そう、ですね」

「じゃがそれは奴が選んだ道じゃ。そこまでわかっておるかと言う気はするがな。だがジェイクは鋭い。言葉では表現できずとも、なんとなくはわかっているかもしれん」

「その可能性は高いかと」

「じゃがどれほど大人びていても所詮は子ども。お主らだけでもちゃんと見守ってやれよ?」

「「御意」」

「それでも間に合わんとは思うがな・・・奴らは早ければ今にでもやってくる。ジェイクが強くなるまでなど、待ってはくれんじゃろうな」

「ミリアザール様、1つ質問が」


 アルベルトが尋ねる。


「なんじゃ?」

「ジェイクのあの能力。あの悪霊にダメージを負わせたあの能力はなんでしょうか? 聖別をほどこした我が剣や、ミリアザール様の拳より有効だったように思えたのですが」

「ワシも確証はない。だがなんとなく推測はついておる」


 ミリアザールは手を顎に当てながら話す。


「それはどのような」

「お主ら、聖騎士の発祥は知っておるか?」

「発祥・・・ですか?」


 アルベルトとラファティは顔を見合わせる。


「うむ。まだ大戦期といわれる時代、大魔王が存在していた時代のことじゃ。魔王の中に死霊・悪霊の軍団で構成されておる奴らがおっての。当時はアルネリア教もまだ軍隊としては用を成しておらず、神殿騎士という概念も無かった。そのため通常の武器が効かない死霊・悪霊の類いを倒すためにはシスター・僧侶が前衛に立たなくてはいかんくての。多くの死者を出した」

「アルネリアの記録で読んだことがあります。聖属性の攻撃魔術が多数開発された戦いですね」

「うむ。そんな折、とある若者が召し出された。彼は何の練成や聖別も施しておらんなまくらの銅の剣で、悪霊の群れを次々切り刻んでおった。もちろん彼の真似ができる者など誰もおらんかったが、彼の戦い方を見て現在の神殿騎士の概念が出来たと言ってもよい。

 今ではそれらは『特性』という言葉で片付けられるが、その時死霊や悪霊を倒せる騎士・剣士を指して『聖騎士』という概念が発足したというわけじゃ」

「ではジェイクは聖騎士の能力を?」

「それはわからん。ワシもその聖騎士の戦いを見たのは数回じゃ。同じ戦線におりながら別の方面を受け持つことが多かったでの。じゃがジェイクに関してはその可能性が一番高いのではないかと思っておるよ。だからこそお主達に鍛えて欲しい。もしかするとあのドゥームと呼ばれる存在に対する切り札になるかもしれん。もっとも護衛の意味も含めておる」

「「御意にございます」」

「しっかり頼むぞ・・・全く、何をするにしても時間が足りんのぅ」


 ミリアザールは思わず天を見上げた。最初は有り余る力で色々なものを守り始めたミリアザールだが、そのたび守るべきもの、守りたいものは増えていき、その都度必要とされる力を求めていく。この連鎖を繰り返しながら過ごしてきた。

 そして繋がりは増え、今では守りたい者が多すぎるくらい存在する。ラザール家、ミランダ、アルフィリース、リサとチビ達、アルネリア教会に属する人間達・・・その全てをこの戦いを通して守りきれるだろうかと、思い悩まざるをえないミリアザールだった。



続く


次回投稿は12/14(火)12:00です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ