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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第三幕~その手から零(こぼ)れ落ちるもの~
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逍遥たる誓いの剣、その33~異変②~


 そして階下に向かうと、そこはまだ夕餉の場だった。団員たちが楽しく語らい合い、中には飲めや歌えの大さわぎをする連中までいる。その中には必ずロゼッタの姿があるのだが、今日もいつも通りロゼッタがその中心にいた。羽目を外しすぎるのは彼女の悪い癖だが、こうやって悪たれどもをまとめる力は団にとっても必要不可欠だ。ミランダがいない今、ロゼッタがいないとやりにくい場面も多々あるだろう。時にターシャが捕まって無理矢理飲まされているのが可哀想といえば可哀想だが、いざとなればラーナを差し向ければ強制的に静まるので、別段どうということはないだろう。

 盛り上がる場の反対では、エアリアルやエクラ、それにラーナとミュスカデが静かに語らっている。ミュスカデはロゼッタと同類なので、てっきりあちらにいると思っていたのだが、今日は魔女として何事かをラーナと話し合っているらしい。アルフィリースはそちらに足を向けた。


「私も混ぜてもらえるかしら」

「仕事はもういいのですか、アルフィ?」

「え、ええ。あまりはかどらなかったわ」

「人生初のデートは刺激が強かったかい?」


 ミュスカデが無遠慮な物言いをしたのでラーナが敵意の眼差しを向けたが、ミュスカデはさらりと受け流した。ラーナが同じ魔女であり、上級者でもある自分に何もできないのを知っての暴言だ。

 だがアルフィリースもまた平然と、洒落を混ぜて返す。


「ええ、とても刺激的だったわ」

「そいつは何よりだ。で、どんな話をあの魔法使いとしてきたんだ?」

「色々よ。隔絶された大地のこととか、この大陸の生物のこととか、言語が一つしかないこととか」


 アルフィリースの言葉に、ミュスカデがグラスを落としかけた。またラーナも目をむいてその質問に驚いている。その反応にさらに驚いたのはアルフィリース。まさか二人がそんな反応をするとは思っていなかった。


「そんな顔をするなんて、そんなに意外?」

「・・・わかってないのね」

「アルフィ、その問いかけは魔術士全体にとって永遠ともいえる命題の一つです。魔術士とは元来、世にある疑問を解き明かすこと、あるいは実現できていないことを目指すのを目的とするのです。魔術はそのための手段であって、目的ではない。今の魔術協会は俗すぎる者が多いゆえに忘れられがちですが、魔術士の在り方とは、元来そういった疑問を解決するためにこそ用いられるべきなのです。

 で、どういった話合いを?」


 身を乗り出すようにする二人に少々アルフィリースは気圧されながらも、会話の内容を話した。その内容が明らかになるにつれ、二人の顔色が変わっていったのが印象的である。エアリアルとエクラは、その内容がなんのことかわかっていなかったが。

 そして会話が終わった後しばらくして、ミュスカデがゆっくりと口を開いた。


「アルフィリース団長・・・あんた、とんでもない人物だね」

「? 何が?」

「それをわかっていない、いや、自慢しないからこそあんたには真竜やら魔法使いやらが語り掛けてくるんだろうが、それにしてもなんて人物となんて会話をしてきたのか。魔術士だったら何を対価にしてもあんたと代わりたいと、掴みかかってくるだろうよ」

「正直、私も同じ気持ちです」


 ラーナまでミュスカデに合意した。意外な言葉にアルフィリースは反論しようとしたが、ラーナがそうはさせなかった。


「アルフィ。そのユグドラシルとかいう者は、我々魔術士すべての問いかけに答えを持っている者かもしれません。ならば会話してみたいと思うのは道理。もし、不死の法を知ることができたなら。もし、過去に起きた運命を変えることができたなら。もし、未来に起こりうることを事前に知ることができたなら。全ての真理に到達することができたなら。 

 それらは全ての魔術士の願いであり、そして行動する起源ともなります。ばかげた願いと知りつつも、皆がそこに向かって努力する。その過程こそ素晴らしいと、私と信じていますが。

 ですが聞けるものなら聞いてみたかった。虚ろなる者とは何かと」

「虚ろなる者?」

「ええ、あなたが――あなたの体を借りたであろう何かが話した言葉です。意味はわかりません。このミュスカデに聞いても、ウィンティアに聞いてもわからなかった。マイアですら知らないと言いました。現在手詰まりの状態なのですが、どうしても気になるのです。何かとても大事なことを聞かれた気がする。並の人ならともかく、私たち魔女は聞き逃してはならないと思えるのです」


 ラーナの思いのほか真剣な表情にアルフィリースは唸った。彼女には当然そのような言葉を発した記憶はない。だが自分の言葉がラーナを悩ませるならなんとか解決案を示したいとも思うのだ。


「うーん、他に聞いていないのは誰かいるかなぁ?」

「導師、とかかな」


 ミュスカデが幾分か歯切れ悪そうに答える。その様子にアルフィリースはおや、と首をかしげるのだ。



続く

次回投稿は、3/12(水)13:00です。

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