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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第三幕~その手から零(こぼ)れ落ちるもの~
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逍遥たる誓いの剣、その31~地下水路①~


「で、犯人はこの中を移動していると?」

「もちろんこういった施設があるからには、点検する人間が存在しますぅ。ただアルネリアの水路は非常に複雑で広大なので、中にはまだ手つかずの部分が多いかもぉ。この中を縦横無尽に駆け回れるとしたら、犯人はそうそう捕まらないでしょうねぇ」

「それに妙に早い時間であちこちに出没する理由になるかも、ですか。調べる価値はありそうです」

「そう思いますぅ。では行きましょうかぁ」


 浄水場を守る役目の者を促し、鍵を開けさせると水路に入っていこうとするイプス。その後をリサはついていきながら、疑問に思ったことを告げた。


「応援は呼ばないので?」

「必要ありませぇん。多数の人数を投入すれば、相手にも気取られるかもしれませんしぃ。貴女のセンサー能力は実際大したものだと思うのでぇ、貴女一人がいれば索敵に困りませぇん。それに戦闘は私一人で十分ですぅ」

「相当腕に自信がおありのようで」


 リサは多少皮肉を飛ばしたつもりだったが、イプスはさらりとそれを流した。


「もちろんですぅ。巡礼の上位一桁に選ばれる条件の一つとしてぇ、単独で魔王を討伐した経験が要求されますぅ。そうそう並の魔王に遅れはとりませんよぉ?」

「相手が並ならばよいのですが」

「確かにおっしゃる通りぃ。だから困ったらそこにいる貴女の護衛さんにも手伝ってもらおうかとぉ」


 イプスが指摘したことにリサが内心で舌打ちをした。リサはすっと顎を動かすと、その先からはルナティカが姿を現す。もちろんリサは単独でこの仕事にのこのこと望むような真似はしない。リサはルナティカにこっそりと後をつけ、何かあれば自分を援護するように言いつけていた。

 だがいつからイプスは気が付いていたのか。さも当然と言わんばかりににこにことリサの前で微笑んでいるであろうその顔の動きをリサは感じ取り、軽薄な口調も相まって相当に腹を立てていた。


「さすが巡礼の任務に就くつわものですね。いつから気付いていました?」

「最初からけられているのは気が付いていましたぁ。ただ敵意はないのであまり気配は探っていなかったのですがぁ、水路に入る時にはさすがに方向が限定されますよねぇ。

 ここから先はぁ、さすがに協力した方が能率もよいと思うんですけどいかがですかぁ?」

「なるほど。おっしゃること、いちいちもっともです」


 リサがそうやって頷くと、ルナティカは心の中の構えを解いた。もしリサがその気なら、このイプスを排除する可能性もあるかとルナティカはひそかに考えていたのだが、その必要はどうやらなさそうだった。それにルナティカも自分で考えないでもない。もしここでこのイプスと敵対すれば、自分たちがどのくらいまずい立場に置かれるかはわかる。具体的にどうまずいかまではわからないが、それはとても好ましくないということだけはルナティカも考えられるようになっていた。

 だがリサはイプスの発言を鵜呑みにしたわけではない。完全な仲間でさえ手の内を明らかにすることは早々ないというのに、どうして会ったばかりの人間にそんなことができようかとリサは警戒を解いていなかった。そのような考えはリサの内心に適切にしまわれていたはずなのだが、イプスはそれすら見抜くようにリサに声をかけた。


「あはぁ、表面だけの協力でもいいんですよぅ。いきなり背中を預けてくれって言われても、信用できませんものねぇ。むしろそのくらいの方が、私も信用できますぅ。ではでは、ここから先の方針と簡単な合図だけ決めておきたいのでぇ、打ち合わせをよろしいですかぁ?」


 くったくのない笑顔を見せるイプスにリサもルナティカすらも戸惑いながら、彼女たちはイプスとの作戦を練るのだった。

 この時点で、リサの予想はおおよそ正しい。イプスは確かに油断ならない性格で、リサにはほとんど肝心なことを話していない。そう、たとえば彼女の初期の実績はそのほとんどが魔物討伐によるものであり、純粋な魔物討伐ではエルザの三倍近くの実績があることなど、リサには知る由もない。



続く

次回投稿は、3/8(土)13:00です。

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