表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第三幕~その手から零(こぼ)れ落ちるもの~
837/2685

逍遥たる誓いの剣、その26~級友⑤~

***


 ジェイクは一人教室に戻りながら考えていた。ハミッテ女史のことではない、クルーダスのことだ。

 最近ジェイクは、自分が急激に強くなっていることを実感していた。もうミルトレやマリオンですらほとんど相手にならない。彼らとて実戦の経験者ではあるが、その剣は実戦で鍛えた剣ではなく、やはり練習の中で培われた剣である。

 そして何より、何を剣に懸けたかが違うと思った。ミルトレの剣は、養父に対する感謝の剣である。養父に対する恩を返すために振るわれる剣であって、敵を倒すために振るわれる剣ではない。マリオンの剣も、彼が王族であるために振るわれる剣であって、明確な敵を倒すために培われた剣ではないのだ。

 だがクルーダスは違う。彼の剣は敵を倒すためだけに鍛えられた剣だった。迫力も鋭さも、他の生徒とは一線を画している。だがそれでも、ジェイクは何かが違うと感じていた。


「(一回も勝っていない立場でこんな感想を抱くのも変な話だけど・・・クルーダスの剣は怖くないんだよな。アルベルトやラファティとは決定的に何かが違う。それに、神殿騎士団の中にも、怖さだけならクルーダスよりも上の騎士は何人もいる。どうしてそんな差が出るのかな)」


 ジェイクは考えていた。技術でクルーダスに遠く及ばないことはわかっている。その差を埋めるためにあれこれと考えていたのだが、ふとそんなことを思ってしまったのだ。すると今度は、どうしてそんなことを思ったのか考えてしまうのだ。

 普段なら気にも留めないことなのかもしれないが、この疑問はどうしても頭から離れなかった。丁度そんなところにドーラがひょっこりと顔を出す。


「ああ、いたいた」

「おっと、ドーラじゃないか驚かすなよ。救護室に用か?」

「いや、君が倒れたと聞いたから心配になってね」

「いつものことだろ」


 ジェイクは素気ない。生傷の絶えない自分にとって、別段と大した傷でもないはずだ。気を失うことなど、アルベルトとの訓練でもよくある話である。

 だがドーラは、そんなジェイクの顔を至近距離からじっとのぞき込んでいた。いかに気を取られていたとはいえ、それだけの接近を許すとはジェイクは不覚だった。思わず飛びのこうとして、その手をふいにドーラに掴まれた。女性と見間違うほどのドーラの美しい顔が、ジェイクと息のかかる距離にあった。


「な、なんだよ」

「・・・だいぶ頭を強く打っている。まだ目の焦点が定まっていないし、今日はゆっくりと安静にした方がいい。見た目は大したことがなくても、脳に衝撃を負っているかもしれない。癖になるよ?」

「そうかよ。で、わざわざそんなことを言いに来たのか?」

「そうだけど?」


 ドーラは不思議そうな顔で認めたが、ジェイクははぁ、とため息をついた。


「あのなぁ。女じゃあるまいし、なんでそこまで心配するんだよ」

「友達の心配をするのは当然のことだ。僕は旅をして暮らしてきた人間だから、明日の命は保障されていない毎日だった。だから、今日一日一日がとても愛おしい。同じように友のこともだ。いつ、隣にいる人がいなくなってしまうかわからないんだ。みんなそのことを忘れている」

「そりゃあそうだ、ここは平和な都市なんだからな」

「そんなことはわからないさ。危機はいつも傍にあるかもしれないのだから」

「心配しすぎだ。やっぱり女みたいな奴だな」

「ふむ、そうかな。ところで、仮に僕が女だったらどうする?」


 ドーラの突拍子もない質問に、ジェイクは再度めまいを覚えそうになった。


「なんでそんな質問になるんだよ?」

「もしもの話さ。もしもの話は他愛ない話としては、とても面白いと思うけど?」

「そうだな・・・お前の周りにいるのが男どもになる。それだけだろ」

「君も寄ってくる?」


 ドーラの質問に、ますますわけのわからない気持ちになるジェイク。だがドーラの思いのほか強い口調に、ついまじめに答えてしまった。


「いや、俺にはリサがいるから・・・でも、お前が女だったらそれは綺麗なんじゃないかと思う。くるくるの十倍はマシだな」

「そうか。それも面白かったな」

「何が?」

「いや、こっちの話だ」


 ドーラはなんとも言えない笑みを浮かべて、その場を去ろうとする。そして振り返って笑顔でこう言ったのだ。


「あ。デュートヒルデは結構な美人になると思うから、あんまり邪険にすると後悔するかもよ?」

「するわけないだろ、あんなくるくる」

「何が起こるのかわからないのが人生さ。自分に好意を寄せてくれる人間は大切にした方がいい」

「いや、どこが好意?」


 ジェイクは自分に対するデュートヒルデの金切声を思い出し、どこが好意なのかと悩んだ。その隙にドーラが去ったことにも気付かないほど、想像上のデュートヒルデの声はうるさかったのだった。



続く

次回投稿は、2/26(水)14:00です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ