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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第三幕~その手から零(こぼ)れ落ちるもの~
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逍遥たる誓いの剣、その17~盗難事件②~

「そろそろ一軒家が欲しいですね。今の傭兵団の寄宿舎も気に入ってはいるのですが、ジェイクも正規の神殿騎士になったことだし、報酬を合わせればチビたちの面倒が見れるくらいの収入にはなっているでしょう」


 そう、リサは以前のように子供たちを手元に呼び寄せ、共に暮らすつもりでいた。深緑宮が気に入らないわけではない。むしろあそこは環境も整っているし、女官やミリアザールの教育も手厚い。それでも、やはり彼らは戦う者なのだ。生きるために戦うことを当然とし、そして必要とあれば血に汚れることをいとわぬ者たち。だが、本来平和な土地ならばそのような人間は、ほんの一握りのはずである。

 リサは自分やジェイクも戦う者だが、いつまでもそのような仕事に就いている気はなかった。自分の階級が十分に上がり、黒の魔術士の件が片付いたら、リサは血なまぐさい世界からは完全に足を洗い、危険のない依頼だけを受けて、そこそこの収入で平和に暮らすつもりでいた。その上で、チビたちをゆっくり育てたいと画策していたのである。リサが目指すは、平穏な家庭と貞淑な妻である。


「ふふふ、これぞ完璧なる我が家計画。残念ながら、デカ女のように行きあたりばったりで生きているわけではないのですよ。チビたちの情操教育を考えれば、深緑宮からは引っぺがしておいた方がよさそうです。

 ですが、そうするとジェイクとの水入らずの生活が・・・はっ、リサは何を考えて?」


 リサが誰もいないと思い、人知れず悶えていたが、ここはアルネリアの中央広場である。散々通行人に目撃されることとなった。

 だが何も考えなしにリサはここに陣取ったわけではない。


「ふう。冗談と妄想はこの辺にして、始めましょうか」


 リサは精神を集中する。今回の戦いで、リサにとっては大きな出来事がいくつかあった。一つは、戦争という場に触れたことで、巨大なセンサー妨害や、その他に優秀なセンサー達の張るソナーに直に触れたこと。実戦は100の修練に勝る。リサの能力は、既にセンサー潰しや妨害すらある程度かいくぐれるよう成長していた。 

 そしてもう一つは、ドラグレオが山を吹き飛ばした光景。圧倒的な出来事は、人に大きな衝撃を与える。精神力や想像力が能力に直結するような場合、一つの事件をきっかけにして能力が開花する事例はままある。リサもその典型だったようであり、ドラグレオが山を吹き飛ばした時、リサは本能でその規模を察知していた。後から冷静になってよく考えてみれば、その規模の出来事をリサのセンサー能力で感知できるはずはないのだが、本能が危険を察知したからか、リサはいつの間に飛躍的にセンサーの距離が延びていた。

 最後の一つは、ブラックホークの神父であったグロースフェルド。彼の力の使い方は、センサーと魔術の複合である。広大な魔術領域を維持しながら、その範囲内で傷ついた人間を自動回復する能力。魔力の総量も信じられなかったが、センサーとしての能力もまだ凄まじい。センサーとして登録していれば、間違いなく大陸で十傑に入るであろうその能力に触れたことで、リサの中では一つのコツが体得されていた。

 そのような複合的な出来事を経験し、リサの能力は誰に知られることなく、格段に上昇していたのである。既に中央広場に陣取って方を限定さえすれば、アルネリアの城壁内のどこにでもセンサーが届いてしまう。


「む・・・う」


 リサは精神を極限まで集中し、センサーを飛ばす。あまり盛大にやると、いろいろな警戒網などにひっかかるため、罠だらけのアルネリアの中をよけるようにセンサーを飛ばす。それらを維持し、さらに自分を中心として、360度回転させるのだ。これで引っかからないわけがないと、リサは確信していた。


「結構きついですね。慎重にやるとして、アルネリア内を一回転させるのに、半刻以上はゆうにかかる。二回転もさせればリサの集中力は限界でしょうが、何がひっかかるか。まあやってみますしょうか」


 リサは中央広場の噴水周囲に腰かけている。何も知らない人が見ればただ座っているようにしか見えないが、リサは真剣そのものだった。じっとりと、汗が背中をつたう。

 そしてじっくりとセンサーを回転させ、目論見通り二回転が終わるころには、確かに太陽が中天をゆうに過ぎていた。始めたのは早朝だったはずである。


「ふう・・・収穫は無しですか。まあ私がセンサーを巡らせている時間帯で窃盗が起きないと無理ですね。とりあえずこういったことができることはわかったので、あとは根気でしょうか。能率を上げるなら、少し情報もほしいですね。

 さて、誰に相談しましょうか・・・ああ、そうだ。適切な人物がいるではないですか」


 リサは何を考える必要があるのだとばかり、足早にある場所に向かうのであった。



続く

次回投稿は、2/8(土)15:00です。

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