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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第三幕~その手から零(こぼ)れ落ちるもの~
805/2685

獣人の国で、その38~裏切り者③~

***


「この作戦、本気か!?」

「冗談じゃこんなこと言えませんよ」


 チェリオの発言に、思わず怒号が飛んだ。チェリオに食ってかかっているのは、ヴァーゴ、ロッハのみならず、冷静で知られたバハイアまでもが声を荒げて彼に食って掛かっていた。カプルはいつもと変わらぬ顔でそれを見つめ、リュンカがチェリオの援護をする。


「落ち着け、三人とも」

「これを聞いて落ち着けってのか? 俺たちの中に裏切り者がいるだけでも驚くべき事なのに、それがよりにもよってアムールだとぅ!?」

「その通り。彼は口調や性格こそ、まあ・・・あれですが、誰よりもグルーザルドに尽くしてきた軍人に違いない。それをよりにもよって裏切り者扱いとは!」

「だけど、彼の仕事の全容を知っている人は誰もいない。ドライアン王でさえね。王様に確認したから間違いのない情報だ」


 チェリオの言葉に、獣将達は言葉に詰まった。


「彼は情報を集める中で、各国、あるいは各組織の重要人物たちと連絡をとっていた節がある。その中で彼を勧誘する動きも多くあったろう。もちろんだからといって彼がグルーザルドを裏切っていたとも限らないが、彼自身それと知らずに情報を流していた可能性はある」

「確かにその可能性は否定できぬ。だがそんな間抜けな奴か、あの男が」


 ロッハは自らが仕事を頼んだ経緯からアムールの有能さを十分に知っている。アムールが誰かに踊らされるような人物ではないことは。

 だがチェリオは冷静だった。


「間抜けかどうかは知らないけど、相手の方が上手だったということはあるでしょうよ。とにかく、俺は与えられた仕事をやるだけなんで。結構大規模に準備して仕掛けるんで、先に先輩たちにはお知らせしとこうと思いましてね。手伝ってもらえるなら歓迎しますが」

「・・・」


 だが誰も即答はできず押し黙っていたので、チェリオは全員の顔を一瞥した後、背を向けた。その彼にリュンカが続く。


「大規模とはいえ、あまりおいそれと知らしめるわけにもいかない。また相手の技量を考えると、一般の隊員では相手にもならんだろう。もし来るなら、それなりの手練れを連れてきてくれ」

「待て、お前らは誰の命令で動いている?」

「・・・おかしなことを言う人ですね。俺達に命令できる人物なんて、一人しかいなでしょうよ」


 そう言い残すと、チェリオは颯爽とその場を後にした。


***


「俺が裏切り者、だと・・・?」


 アムールはカザスの言葉の意味がわからず、問われた内容を呟いていた。カザスは畳み掛けるように話しかけた。


「最初から、可能性の一つとして考えたことではありました。裏切り者がいるとして、それは一体何者なのか。ドライアン、ロン、ゴーラ、そしてあなたといった切れ者たちをたばかって行動できる逸材が果たして何人いるのか。私は軍内を探りましたが、残念ながらそういった人材は獣将とその補佐以外に見当たりません。

 ですから彼らの様子を注意深く見ていたのですが、確証を得たのはつい最近です。雪に閉ざされたグルーザルドと、獣将のほとんどを伴った大規模な遠征。主たる人材は外に出てしまい、中にはほとんど人がいなかった。私は早速ギルドの人材を使って、情報収集をしました。獣人の連絡者がどれほど動いているのかと。どんな連絡方法であれ、痕跡が一切残らない、なんてことはありませんからね。

 ですがグランバレーが雪に閉ざされた月ではなんら動きがなかった。もちろんグランバレーから動くことが出来なかった事も考えられますが、遠征により身動きが取れなかった可能性も否定できない。

 そこで私は飛竜の使用を制限させ、雪解けの季節に使用可能になるように仕向けました。結果、飛竜が解禁になった日に大量の申請がありました。それが全部あなたの部下だった」

「・・・証拠は?」

「もちろんあります。彼らが全員あっさりと自白しましたよ。そりゃあいくら隠密と言っても、国王の命令は絶対ですからね」 

「国王だと?」

「アムール」


 その時、カザスの声に続いて低く重い声が聞こえてきた。いつの間に近づいたか誰も気が付かなかったが、それは国王ドライアンその人の声であった。


「アムールよ、お前が使っていた隠密はあらかた抑えた。あいつらを締め上げてみたが、どうにも要領を得なくてな。なぁ、アムールよ。お前は誰にどのような伝令をやろうとしていた? 俺に教えちゃあくれねぇか?」

「ドライアン・・・俺は・・・」


 しばしの間。ニアとヤオがアムールの表情をちらりと振り返ると、アムールの表情は今までニアが見たこともないくらい、汗をだらだらとかいていた。黒い毛並が光って見えるほど、アムールは大量の汗をかいていたのだ。

 そして追い打ちをかけるように、ドライアンの声がアムールを追い詰めた。


「どうした、答えないのか? ・・・いや、お前自身も知らない。そうなんだろ?」

「ア・・・ガアアアァァァッ!」


 ドライアンの問い詰める声に、突如としてアムールが絶叫を上げた。ニアはその瞬間、動物的本能でヤオを押し倒してその場に伏せた。

 その瞬間、アムールの執務室の壁を突き破って獣人の精鋭部隊が突撃してきた。いずれもドライアンが直接率いる、精鋭中の精鋭。壁を打ち壊すための力型の獣人達の背後から、速度に優れた獣人たちが素早くアムールを取り押さえるべく仕掛ける。

 だがアムールは絶叫した後、だらりと力なく項垂れたため大人しく取り押さえられるかと思ったが、その状態から5体の精鋭を一瞬で退けて見せた。あまりに速い徒手に、多くの者がただ衝撃を受けて後方に勢いを流すのが精一杯だった。下がった獣人たちと共に、ニアとヤオも下がる。そこに扉を開けて入ってきたカザスが彼女たちの元に駆け寄った。

 


続く

次回投稿は、12/28(土)18:00です。

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