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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第一章~平穏が終わる時~
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アルネリア教会襲撃、その8~子ども達~

「やったか?」

「いや・・・当たる直前、念動力で防御された。あやうく拳を潰される所じゃったわい。加えて自分で後ろに飛んでおるから、大したダメージはあるまいな」

「ぬう、しつこいな」


 マナディルの言うとおり、実際にオシリアはすぐさまむくりと起き上がり、何事も無かったのように立ちつくす。そしてふと深緑宮の方に目を移すと、そちらに向かって歩き出した。


「行かせるか!」

「・・・邪魔」


 オシリアが地面をダン! と踏みならすと、地面が渦を巻き、その負荷に耐えられなくなった地面がベキベキと陥没・隆起を始めた。


「おおお!?」

「念動力で地面を捻じ曲げておるのか?」


 とんでもない力だとマナディルが考えるが、気付けばオシリアの姿は既にない。同時に、深緑宮の手前にオシリアが現れる。そこでも同じように地面を踏みならすと、今度は地面が隆起し、まるで壁のようになる。高さは5m程もあるだろうか。


「これで時間が稼げる・・・打ち合わせ通り・・・」


 オシリアはニヤリとして、その姿を再び消した。


***


ドォォォォン・・・ガァァァァン・・・


 遠くで雷鳴が落ちるような戦いの音が響いていたが、どうもその音が徐々に近くなっているようだった。

 ここは深緑宮でも最も奥まった場所のはずなのだが、戦闘の音がどんどん近付いている。その音を聞いてミルチェやトーマスなど幼い子供達は怯えている。慰めるのは専らネリィやルースの役目である。ジェイクは外の様子を見てくると言って、侍女が止めるのも聞かず出て行ってしまった。侍女も口無しの一員なのだが、ジェイクの行動は思いのほか素早かったのだ。


「あのおと、なに?」

「だんだんちかづいてきているよ?」

「心配しないで。ジェイクが大丈夫だって言ったでしょ?」

「でもこわいよ~・・・ふああああん!」


 ついにトーマスが泣きだしてしまった。その声を聞いて連鎖的に泣きだす子どもたち。ネリィやルースはなんとかなだめようとするが、自分たちだって泣きたいのだ。2人とも涙目になるが、その時ふわりと頭をなでてくれる女の人がいた。この部屋に避難した時に一緒になった女の人である。ネリィが見たこともないような不思議な服を着た人だなとは思っていたが、一緒にいる人達も同じように帯を使った服を着ている。周りの人に守られるように座っていたから、きっと偉い人なんだろうとネリィは考えていた。

 今その女の人がとても優しい表情で自分の頭をなでてくれている。漆黒のとても長い髪に光が当たって輝いており、ネリィは神々しいとも取れる光景に思わずぼーっと見惚れてしまった。


「お姉さん誰・・・?」

「私は詩乃と申します。貴方は?」

「ネリィ・・・」

「そう・・・ネリィは良い子ですね、皆の面倒を見てくれて」

「うん、だって私がこの中では一番年上だから」

「そうですか。でも後は私にお任せなさい・・・」


 そういって泣いている子どもたちを一人ずつ慰めながら、子守唄を歌っていく。するとぴたりと子どもたちは泣きやむが、


「そのうた、しらない~」

「お姉さん、歌が下手だね」

「リサねえとちがって・・・おおきい・・・」

「す、すみません・・・」


 一転して子ども達はてんで勝手なことを言い始め、トーマスに至っては指で詩乃の胸をつついている。詩乃は子どもたちの容赦のない突っ込みとトーマスの行動に、真っ赤になりながら両手を頬に当てている。


「トーマス! 失礼だろ?」

「かっこつけるなよルース。自分だってやりたいくせに」

「ば、ばか! そんな・・・まぁ、ちょっとは・・・」

「ルースの変態!」

「まだなにもしてないだろ!?」

「ぼくたちはこどもだから、たしょうオイタしてもいいんだよ」

「トーマス! どこでそんな言葉覚えたの!」

「とジェイクがいっていたことにしておこう」

「トーマス! 待ちなさい!」

「ああ、詩乃にはどうしようもありません・・・」

「し、詩乃様・・・」


 あのリサが育てた子どもたちである。ミリアザールにすら手に負えない子どもたちの面倒を見るには、この詩乃という女性にはちょっと荷が重すぎたようだ。子どもたちは詩乃の膝に座ったり、長い髪を引っ張ったりして自由気ままに遊んでいる。詩乃のお付きもあまりの出来事におろおろしている。子どもたちが暴れ始めると、深緑宮の侍女達の手にも負えないようだ。男を手玉に取るくのいちも形無しである。だが子どもたちが泣きやんだのは、この詩乃の仁徳であろうことは間違いなかったが。


***


 その頃部屋を抜け出したジェイクは深緑宮を小走りに進んでいた。子ども達を任されたジェイクであり、自分が出て行っても何もできないことはよくわかっていたのだが、何か嫌な予感がしたのだ。こういうときには素直にジェイクは自分の直感に従うことにしている。

 だが一体自分が何をすべきかわからないまま走っていた。本能が叫ぶのだ、今走らねばならないと。ここで走らねば、何か大切なものに乗り遅れると。そのために動いた足は、鍛え抜かれた戦士である口無しの手をいともたやすくかいくぐっていた。ジェイクが意識してそうしたわけではない。

 だがジェイクの本能が告げる通りなのか、はたまた何かの運命のいたずらか。前方からす聞こえた剣が空気を切り裂く音に、彼は思わず身を隠した。誰かが戦っている。


「(あれは・・・アルベルト?)」


 廊下の向うから、アルベルトが子どもらしき人物を追いたててくるのが見えた。だが普通の子どもあるはずがないだろう、周囲におかしな顔のようなものが浮き出た黒い渦が見える。ジェイクは「なんて気持ち悪い」と思ったが、戦いそのものはアルベルトが優勢なようだ。


「(それにしてもアルベルト・・・凄い! あれがアルベルトの全力か!)」


 柱や壁すら構わず破壊するアルベルトの剛剣に、思わずジェイクの手に力が入る。そしてアルベルトが少年を両断すると、ジェイクは隠れたまま小さく拳を握りしめる。だが・・・何か変だとジェイクは直感した。アルベルトはそのまま少年を見下ろしているが、このままではいけないと感じた時にはその身を乗り出してジェイクは叫んでいた。


***


「まだだ、アルベルト!」

「!」


 誰かが叫ぶ声がアルベルトに聞こえた。油断こそしていなかったが、反射的に防御姿勢をとる。だがそれで正解だった。剣に何か強い衝撃を覚え、数m程後退させられる。防御姿勢を取っていなかったら完全に吹き飛ばされていただろう。


「ちぇ・・・真っ二つになったら多少油断するかと思ったんだけど。誰だ、余計なことを叫んだのは?」


 真っ二つになったはずのドゥームから声が聞こえる。そのまま真っ二つになった体がゆらりと起き上がり、周囲に飛び散ったはずの血までが元に戻って行く。


「飛び散る血まで演出したのに・・・迫真の名演技だったはずなんだけどな」

「貴様、不死身か?」


 アルベルトの問いかけにドゥームは大胆不敵に答えた。


「どうだろうね~? まあ真っ二つ程度で死なないのは確かだよ。それにしても君は大した剣士だ、素直に認めるよ。その上で飛びきり残酷に殺してあげよう」

「やってみろ。真っ二つで駄目なら、コマ切れにするまでだ」

「できるかな・・・と、その前に」


 ドゥームが横目でちらりとジェイクの方を見る。ジェイクは思わず身を乗り出してしまっており、目線がドゥームと交差する。


「君の名前は?」

「・・・名乗る必要あんのか?」

「フフフ、慎重だね。それでいい。だがよく僕が死んでないってわかったね。どうしてだい?」

「なんとなくだ」

「なんとなくか・・・フフフ、アーッハハハ!」


 ドゥームが高らかに笑いだす。ジェイクはその様子を不審げな顔で見、アルベルトは剣を構え斬りかかる隙を窺っているが、ドゥームはジェイクと話しているにも関わらず隙が見当たらない。


「何笑ってんだ、気色悪ぃ」

「遠慮のないガキだね。なんとなくで僕の作戦は潰されたわけか。面白いけど・・・万死に値するよ!」


 ドゥームが手をジェイクの方にかざすと悪霊達の形が渦のようになり、ジェイクの方に飛んでいく。その厚みこそあまりないが、勢いは先ほどアルベルトに放ったものよりはるかに速い。


「!」

「ジェイク!」


 アルベルトの叫びも間に合わないほどの速度で、悪霊の塊がジェイクの立っていた場所を直撃した。



続く


次回投稿は12/9(木)12:00です。

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