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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第一章~平穏が終わる時~
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最高教主の依頼、その2~幼きシスターと神殿騎士~


「初めまして。アルフィリース様で間違いないでしょうか?」


 小さなシスターは、とても丁寧かつ優雅な仕草でアルフィリースに挨拶をしてきた。アルフィリースは聞きなれないほど丁寧な挨拶に、あたふたと返事をする。


「え、ええ。そうだけど、貴女は?」

「これは申し遅れました。私はアルネリア教会所属、シスター・ミリィと申します。背後に控えますは、神殿騎士アルベルト=ファイデリティ=ラザールと申します。以後お見知りおきを」


 背後の騎士も簡単ではあるが、胸に手をあて礼儀正しく一礼をする。


「なぜ私を知っているの?」

「シスター・アノルンから連絡をいただいております。彼女とは火急の要件にて、ここミーシアで落ち合う手筈となっております。ご一緒でないということは、彼女は教会に向ったのでしょうか?」

「ええ、そのはずだけども」

「そうですか、では行き違いでしたね。そういうことであれば私はこれから教会に向かいますが、アルフィリース様はどうなされますか?」

「私も教会に行こうかな、行き違いは嫌だし。ああ、それで『様』付けはくすぐったいから、どうぞ呼び捨てにしてください」

「ではアルフィリース、と。私のことはミリィとお呼びくださいませ。よろしければ御一緒させていただいても?」

「もちろんよ」


 笑顔でアルフィリースに微笑んだシスター・ミリィは、アルフィリースを誘導するように先に歩きだした。神殿騎士のアルベルトは、彼女に目で先に行くように促している。仕方がないのでアルフィリースはミリィに並んで歩きだす。


「(にしても隙がないわ、この騎士)」


 後ろについて歩き出した騎士が周囲に警戒心を振りまいているのがわかる。おそらく半径10m以内に害意をもって近づいた者は、瞬きする暇もなく斬り捨てられるだろう。アルフィリースがこのシスターに何かしようとしても、きっと同様だ。


「(それでいて嫌な気持ちはしない・・・こういう周囲警戒のしかたがあるなんてね)」


 機会があれば後ろを歩く騎士に一度手合わせを願いたいものだ、もし手合わせするとしたらどうなるか、アルフィリースがあれこれ考えながら歩いていると、ミリィがいつの間にかアルフィリースの事をしたから見上げていた。


「ふふ、アルベルトのことが気になりますか?」

「あ、ごめんなさい。すごい腕前の騎士だなと思ったから」

「アルフィリースも剣士ですものね。確かに、アルベルトほど腕の立つ騎士は神殿騎士団内にもあまりおりませんわ」

「そうなんだ。少なくとも私が今まで見た剣士の中では、一番かもしれない」

「まぁ、そうなのですか」


 ミリィは楽しそうに笑っている。それほどの騎士が守るからには、彼女は教会にとって重要なのかもしれない。それからも他愛のない会話を交わしているうちに、この少女の知性に驚かされるアルフィリース。言葉づかいが大人びているのは育ちにもよるからまあわかるとしても、都市情勢、国家情勢、商業の流通から露店に並ぶ宝石やら、挙句にはどうでもよさそうな変な格好の人形にまで詳しい。

 アルネリアのシスターとは皆このような者かと思いつつも、自分が知っているシスターとは随分違うなとアルフィリースは思った。


「ミリィは随分と色んな事に詳しいのね」

「私もシスター・アノルンと同じく、巡礼の任務を負う者ですから」

「(アノルンはお酒やら俗語やら、そういうことにばかり詳しかったような・・・人間の差か。ん? そういえば、なんで私がいる場所がミリィにはわかったんだろう?)」


 聞いてみようとアルフィリースがミリィに向き直ると、


「着きました」


 とミリィが穏やかに言う。気がつけば、ちょうどミーシアにあるアルネリア分教会の目の前に到達していたのだ。


「とりあえず中に入ってみましょう」


 すたすたとミリィが中に入っていき、アルフィリースもそれに続く。


「祈りを捧げているシスターがいますね・・・」


 扉を開けて中をそっと覗いてみると、夕日が天窓から差し込む中、扉を開けたアルフィリース達に振り向くこともなく一心に祈りを捧げるシスターがいる。教会創設者といわれる聖女アルネリアの像を前に、両膝をついて両手を組み、祈りの言葉をつぶやきながら微動だにせず祈りを捧げている。純白のシスターローブに夕日がキラキラと反射して、まるで高名な一枚絵をみているようだ。

 そうしてアルフィリース達が時間を忘れたように立ちつくしていると、祈りが終わったらしく、シスターが立ち上がりこちらを向く。祈りのことなどアルフィリースにはさっぱりだが、素人目にもこれだけ敬虔な祈りを捧げるシスターには興味があった。が、振りかえったシスターは・・・


「ア、アノルン?」


 普段の彼女のイメージとかけ離れすぎており、すっかりその可能性を失念していたため、アルフィリースは思わず素っ頓狂な声をだしてしまった。

 アルフィリースの声に反応するように、アノルンが祈りを止めて振り返った。


「あらアルフィ。宿で待っててよかったのに」

「お姉さま!」


 アノルンが反応しきる前に、ミリィがアノルンに抱きついた。


「お姉さま! もうずっと連絡いただけないから、ミリィとても寂しかったんですのよ?」

「え、あ・・・ミ、ミリィ?」

「もう! 私の顔を忘れたんですか!? 私、お姉さまとずっとお話したかったんですのよ? 教会からも火急の要件を承っておりますし、まずはこの教会の一室を借り受けましょう! それではアルフィリース、一端失礼してシスター・アノルンをお借りします。アルベルト、アルフィリースに失礼なきように! では後ほど」


 言うが早いかミリィはアノルンの手をぐいぐいと引いて、ドアの向こうに消えてしまった。後にはぽつんとアルフィリースとアルベルトのみが残されている。


「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「(・・・・・・・・・間が持たない、どうしよう)」


 沈黙が続く。男性と話す機会などほとんどないアルフィリースには、酷な状況だったかもしれない。


***


「ちょ、ちょっと!」


 ミリィはずんずんとアノルンの手を引いて進んでいる。


「どこ行くのよ!」

「あそこの部屋なら誰も来ないでしょうから」

「とりあえず手を離してよ!」


 手を振りほどこうとアノルンが力をこめるが、まるで離れる気配がない。


「(この子!?)」


 大の男を吹き飛ばすアノルンの腕力である。今度はかなり力をいれて振りほどこうと試みるが、万力のような力で締め上げられた。


「ツッ!」


 あまりの力に、アノルンが思わずうめき声を出す。


「(―――なんて腕力。これは普通の人間のものではないわ)」


 アノルンの顔が青ざめる。

 そのまま部屋に投げ込まれるように連れ込まれると、ようやくミリィがアノルンの手を離した。そしてミリィが一瞥すると、後ろで鍵がガチャリ! と自動的に締まる。


「くっ、あなた何者? 騎士を連れて巡礼をするようなシスターに、ミリィなんて人間はいないはずよ!? だいたいこの任務に、あなたみたいな若いシスターはつけないわ!」


 するとややうつむいているミリィから、くっくっくっ・・・と忍び笑いのようなものが聞こえてきた。


「ようやく会えたな、シスター・アノルン?」


 顔を上げたシスター・ミリィの顔は、先ほどまでの愛くるしい笑顔が嘘のように、口の端をニヤリと吊り上げて邪悪に笑っていた。



続く


次回は平日ですが、10/12(火)20:00に投稿します。まだアップし始めなので、お試しの意味も込めて色々な時間に投稿してしまって申し訳ありません。どの時間帯が一番良いか確定したら、一定時間の投稿になると思います。

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