獣人の国で、その25~修行①~
「ドライアンも大人になったのう」
「そういえばカプル老は、ドライアン王が就任する前から獣将でいらっしゃいましたね。こう言ってはなんですが、以前は王も非常に猪武者だったとか?」
「イノシシ、なんてものではない。周囲の全てを巻き込んで走り出し、そして全てを突き壊す。そんな男だった。その強引さに惹かれて集まったのがお前たちの世代だろう?」
「まあ、そうです」
やや気恥ずかしそうにするロッハを見て、カプルがほっほ、と笑う
「以前は獣将ももう少し大人しい者が多かったのだが、お前たちの代が入ってきて一気に血気盛んになった。一時はどうなることかと思ったが、ドライアンの成長に合わせてお前達も成長したからな。まさか奴が国外との交渉に才覚を見せるとは思わんかった。あの暴れん坊が、人間との融和政策を進めるような王になるとはのう・・・長らく獣将はするものじゃて。
じゃがそれも新しい局面に来ておるのかもしれん。ロッハよ、一つ頼まれてくれるか?」
「はい、老カプルのおっしゃる事なら」
カプルは穏やかに微笑みながら答えたが、その笑顔をロッハはとても信頼していた。彼は何一つ自慢しないが、それだけ長く獣将の座にいるということは、間違いなく彼が有数の実力者という事でもあり、また彼の代わりを務める者がいないということでもある。
そのカプルがロッハにした頼みとはロッハにとっても一大事で、彼は目を丸くして動揺しながらも礼をし、その場を足早に去って行ったのだった。
***
ニアの修業は激化を極めた。朝起きて個人の鍛錬をし、軍に顔を出しては獣将3人の隙を見計らい、組手を行う。昼以降はゴーラの元で修行をし、日が暮れてからは個人での修行と鍛錬を行っていた。
その過程でニアはより自分の種族の特性について考えるようになる。そもそも獣人の中で最強と言われるゴーラが、種族として戦いに向いていないにもかかわらず最強と言われるのはなぜか。もちろん年季がそうさせているのはわかるが、そもそも年季とはなんなのかをニアは考えたのだ。
そしてニアはゴーラに頼み、一度獣将たちと手合わせをしてもらうことにした。
「面白い申し出じゃのう。まあよかろう」
たまには小僧どもの鼻を叩いておくのもよいか、とゴーラは思ったよりも快く引き受けてくれた。そしてロッハ、ヴァーゴ、リュンカと組み手をすることになったのである。
宮殿の中庭にて訓練することにした面々。獣将であることの体面も考え、他の者にはあまり見せたくはないとのことだった。彼らも結末はわかっているのだろう。ドライアンだけは面白そうににやにやしながら眺めていたが。そして話を聞きつけた他の獣将も集まってくる。
「先輩たち、格好良いとこ見せてくださいよ?」
「チェリオ、テメェも参加しろや!」
「嫌ですよ、勝てない戦いはしない主義なんで」
「ちっ、それでも獣人かよ」
ヴァーゴが悪態をつきながら、構えを取る。目の前には自然体で構えすら取ってないゴーラがいた。
「爺さんと手合わせするのは久しぶりだな」
「そうじゃったかの? いつもべそをかいていたのだけは覚えておるが」
「なっ、それは言わねぇ約束だろうが!」
ヴァーゴが顔を赤らめながら、猛突進と共にその豪拳を繰り出した。破城鎚にも勝ると言われるその拳は、小さなゴーラには受けきれないであろう勢いであったのだが。ゴーラは躱すでもなく、ヴァーゴのその拳は繰り出した時の勢いが嘘であるかのように、柔らかに受け止められていた。
「ぬぅっ!?」
「拳の勢いは増したが、基本的な事は変わらんかの。いかに勢いがあろうとも、当たらなければ意味がない」
「ぬかしやがったな!?」
ヴァーゴが吠えながら拳の連撃を繰り出す。通常無我夢中で繰り出す攻撃は精度を欠くもので、さらに隙も大きくなるはずなのだが、ヴァーゴの拳はそのどれもが一撃必殺の威力であり、また隙もまるで見えなかった。
「(素晴らしい・・・! あれほどの攻撃を間断なく繰り出せるとは、さすがは獣将)」
ニアの内心での賛辞も余所に、ゴーラはヴァーゴの拳を全て受け止めていた。そう、一撃も躱していないのである。その様子を見てさしもの獣将たちもわが目を疑ったが、チェリオは口笛で答え、ドライアンは面白くてたまらないと言った風にニヤニヤとしながらその様子を見守っていたのだ。
「(くそっ、全く拳が当たっている気がしねぇ! まるで柳相手に訓練しているみてぇだ!)」
「それだけしかやることがないか、ヴァーゴよ?」
「まだだ!」
余裕のゴーラを見て、ヴァーゴはそれでも拳にこだわりたいと思った。連打をさらに細かくし、手数で圧倒することはできる。それに蹴りなどの足技を加えることも。それでも拳にこだわったのは、ヴァーゴの意地だった。
続く
投稿遅れてすみません。次回投稿は、12/2(月)20:00とします。連日投稿です。