アルネリア教会襲撃、その7~アルネリアの猛者達~
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一方こちらは深緑宮の外である。
「なかなかやるわね、人間達・・・もう随分と逝かせてもらったんだけど?」
外周で足止めをしていたリビードゥであったが、既に他の魔王達は倒されていた。神殿騎士団は見事な連携を見せ、最初こそ苦戦したもののまたたく間に魔王達を倒していった。
アルネリアの神殿騎士団は元々守備に優れた騎士団である。彼らが全力で守備に回ったらその牙城を崩すのは容易に出来ることでない。歴史上神殿騎士団は戦場において援護を主な目的として派遣されてきたため、その性質・得意な戦法は守備寄りに特化していた。何隊かの小隊でかく乱し、相手の意識が分散したところへ攻撃に特化した仲間を送り込む。これが彼らの得意戦法だった。
その突撃を行う能力を持つ者が隊長格になって行くわけだが、特に各大隊の中隊長以上の活躍は目覚ましく、一撃で確実に深手を負わせていっていた。それを分散して行い、2、4、5番隊の面々は大きな痛手も無く魔王を上手く仕留めていった。
その様子を見ていたのは上空の2人、ライフレスとブラディマリア。この2人はドゥームがアルネリアに潜入した時からずっと様子を窺っている。その2人があーでもない、こーでもないと勝手な感想を述べながら高みの見物をしていた。
「魔王との戦闘経験があるわけでもないじゃろうが、平和な世の中の軍隊にしてはよく鍛えられておるの」
「ああ。だけど本当に強いのは1-7の各大隊と深緑宮勤めの連中だけ。およそ8000ってところか。あとの一般兵が雑魚なのは否めない。他国の軍隊と比べても変わりないだろう」
「あのような練度の兵士が一般兵ならば、魔王が何体いても足りぬじゃろうよ。この神殿騎士団を全滅させるのに必要な魔王は、そなたの判断ではおよそ何体じゃ?」
「そんなものは指揮官や戦闘条件にもよるだろう。一概にこうとは言えまい」
「ではそなたが指揮官で、何の障害物もない平地ならばどうじゃ?」
「・・・500もいれば確実にやれる」
ライフレスは自身をもって言い切った。ブラディマリアも満足そうに頷いた。
「では妾達のお師匠が目標としてる戦力はかなり正確なのじゃろうな。ここアルネリアを潰せば東側の諸国など自然に瓦解しよう?」
「そこまで脆くはないだろうが、連携は取れなくなるだろうな。だがおそらく、アルネリアを潰すのはだいぶ先だろう」
「なぜゆえに?」
「ここを潰してもミリアザールが存命なら意味がない。もし教会を潰せばあの女は地下に潜って各地のシスターや神殿騎士を引っ掻きあつめ、また各国と密かに連絡を取り合うようにすなるだろう。大戦期のアルネリア教の得意戦術はかく乱とゲリラ戦術だった。あの女には身動きのとりづらいアルネリアの最高教主でいてもらった方がいい」
「なるほどの・・・まどろっこしいと言わねばならんが。妾に任せればちょちょいのちょい、で終わらせるのじゃが」
ブラディマリアが指先をくるくると回しながら残酷な笑みを浮かべたが、ライフレスが
「その代わり大陸の東は焼け野原だろうよ。繰り返し言っておくが、俺達の目的は人間の全滅じゃない。だから君やドラグレオの運用は非常に難しいと言わざるをえないのだ」
「わかっておる。こういうときにはヒドゥンなどの方が使い勝手がよかろう。妾はゆるりと出番を待つとするよ」
「順調にいけばそんなに遠くないかもしれないがな・・・む、下では趨勢が変わりそうだな。リビードゥが撤退しようとしている」
「おお、思ったよりもたなかったの」
2人が下に目をやると、リビードゥが他のメンバーに合流しようとしている。だがその彼女が目にしたものは・・・
「なんですって・・・」
リビードゥは思わず立ちつくした。彼女が見たのは既に倒されたマンイーター、インソムニアであった。マンイーターは相当何度も大剣を打ちこまれたのだろう。体がほとんどバラバラであり、その傍らには大剣を携えたモルダードが立っている。マンイーターが最後の抵抗を試みるが、モルダードは何の慈悲もなくその剣をマンイーターの頭に突き立てた。
インソムニアも髪を根こそぎ切り取られ、胴体を両肩から斜めに切りおろされていた。やったのはラファティ。息一つ切らしておらず、あたかも当然であるようにインソムニアが消えゆく様を見下ろしている。
そしてオシリアもマナディルの神聖魔法に完全に捕縛されており、消滅は時間の問題のようだ。
「く、ならば私だけでも」
「そうはいかん」
はっと声のした方をリビードゥが振り向きかけるが、声の主を確かめる暇もなく彼女は神聖魔法に焼き尽くされた。
「ギャアアアアア」
「悪鬼めが」
リビードゥを焼き尽くし、悠然と姿を現した僧侶に騎士達が跪く。
「これはドライド大司教!」
「教会で説法の時間だったのでは?」
「戦闘中により礼は略してよし。説法などやっとる場合ではあるまいが! マナディル!」
「なんじゃ」
「いつまでそのような輩にてこずっているか! さっさと片付けろ」
「人ごとじゃと思いよって。この娘こう見えてかなりしぶとい・・・ん?」
「皆やられちゃった・・・?」
先ほどまでマナディルの神聖魔法で身動き一つ取れなかったオシリアが、キョロキョロと周囲を見渡し始める。
「なんじゃと・・・?」
「この遊び方・・・飽きた」
そして何事も無かったかのように、神聖魔術の捕縛範囲から歩いて出ていこうとする。
「行かせん!」
だがマナディルがさらに魔力を強めるとさすがに効いたのか、動きが鈍る。だがオシリアはマナディルの方を見るとニヤリと口の端を歪め、手をマナディルの方にかざした。その時、マナディルは体が軋む音を確かに聞いた。
「ぐ!?」
「マナディル様、御免!」
ラファティが寸でのところでマナディルを突き飛ばす。だがラファティはオシリアの放った波動の余波を受け、吹っ飛ばされた。
「ぐお!」
「ラファティ様!」
騎士やシスター達が吹き飛ばされた二人に駆け寄っていく。残った者達は全員でオシリアを取り囲んでいた。
「マナディルよ、これは・・・」
「うむ、元は高位の巫女、魔術士の類じゃろうな・・・ワシらの魔術が大して効かぬ。それに念動力の使い手と見た」
「となると」
「肉弾戦しかなかろう。うむ、久々にやりがいがある」
互いに顔を見合わせニヤッとする2人。この2人は元来魔術を連発するような僧侶タイプではない。若かりし頃僧兵の中で1、2を争う武闘派として馴らし、神殿騎士団の隊長格と素手で互角に渡り合った豪の者である。
「やりすぎてぎっくり腰になるなよ、マナディル」
「貴様こそ五十肩が悪化するんじゃないのか? 昔と違って若くないのじゃぞ?」
「ぬかせ!」
「おじさん達・・・遊んでくれるの?」
オシリアが天を指さすと、周囲に転がる剣・槍・矢といった武具が空中に浮かび始める。そしてオシリアが手を握りこんだ瞬間、それらの武器が四方に凄まじい勢いで発射された。
異様を感じとった周囲の兵士たちは盾や自分の武器で防御するが、突風のように襲い掛かる武器の数々に、一瞬で負傷者を多数出してしまう。だがマナディルとドライドは雨のような武器を何するものぞと、オシリアに向かって突っ込んで行く。オシリアが念動力を放つがマナディルが魔術で防御し、ドライドは地面に刺さった槍を抜いて聖別を施し、そのままオシリアに斬りかかる。
だがオシリアもひらりとかわし念動力で反撃しようとするが、それこそがドライドの狙いだった。
「かかったな!」
念動力を防御魔術の応用で反射し、逆にオシリアのバランスを崩す。そしてドライドの陰にいたマナディルがオシリアの鳩尾に全力の拳を叩きこむ。
「ぬぅん!」
もちろん拳にはありたけの聖の力を込めている。流石にこれを喰らってはオシリアもたまらず吹っ飛び、はるか後方の壁まで吹き飛ばされていた。
続く
次回投稿は12/8(水)12:00です。