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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第三幕~その手から零(こぼ)れ落ちるもの~
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獣人の国で、その17~家族⑥~

「そろそろ出てきてくださいよ、アムールさん」

「鋭い子ねぇ。いつから気付いてたの?」


 アムールが気配を消すことを止め、すっとカザスに並んで歩く。


「最初からですよ。ロアさんが意識を失うちょっと前からいましたよね?」

「あなたって戦士でもセンサーでもないのに、妙に鋭いわよねぇ」

「あなたに後ろに立たれると、落ち着かないんですよ。なんとなく」

「同じことをロアも昔言っていたわね。『お前に背後に立たれると、ケツがむずむずする!』って、蹴飛ばされたわ。失礼しちゃうわ、あんなゴツイ尻は私の趣味じゃないのよ!」

「そんなこと、『知り』ませんよ」

「まっ、洒落? 洒落なの!?」


 アムールが目をきらきらさせたので、本当にカザスはげんなりして鬱陶しそうに無視して違う話題に切り替えた。


「で、何の用だったんです?」

「久方ぶりに旧友との交流を温めようと思ったのにね。ほら、手土産も」


 アムールが手の中にある酒をぷらぷらと揺らしてカザスに見せた。


「嘘つきなさい。あなたがそれだけで出向くとは思えませんが」

「でも本当よぉ、旧友と飲みたくなったのはね。アタシも本当の意味での友達はもうほとんど生きていないから、たまにはこういう時間も持ちたくなるのよ。いけないかしら?」

「要件の内容によるでしょう」

「そうねぇ。何だか殺伐としていたし、アタシの話題を出すのは空気が読めなかったでしょうね」

「で、私を追いかけてきたということは、それでも話しておきたかったと」

「そういうこと。あなたには無関係じゃないしね」


 アムールがにっと笑った。


「話してもいいかしら?」

「道すがらでよければ」

「むしろその方がいいわ。まずアタシとロアちゃんの馴れ初めね。アタシたちは軍のほぼ同期よ。アタシの方がちょっと上。アタシたちの世代前後は人材豊富でね。今の獣将の半分がアタシ達の世代の連中よ。ロッハやヴァーゴもそう。アタシたちは同じく頂点を目指す者として、互いに技量を切磋琢磨したわ。もちろんアタシもその一人だった。当時、一番獣将に近い男と呼ばれていたわ」

「それがどうしてこんな変な口調に?」

「そこを聞いちゃう? それを語ると夜が三回くらい明けちゃうから、また今度ね」


 そんなに込み入っているのかとカザスは思いながら、逆に聞いてみたくなった。時間はたっぷりあるのだから、今度聞いてみようかとも思う。

 しかし今は大切な話を聞かねばと、酒に多少酔った自分を律した。


「話の腰を折ってすみません。続きをどうぞ」

「ロッハは今よりやさぐれた感じでしょっちゅう揉め事を起こしていたし、ヴァーゴはもっとヘタレだった。今でこそあんなだけど、当時は訓練がつらいとか言って、しょっちゅう脱走しては湖のほとりで泣いてたわ。あだ名は『泣き虫』ヴァーゴだった」

「ええ!? 本当ですか、それ?」

「本当よ。それを言うと烈火のごとく怒るから、今は言わない方が無難よぉ? まあ当時は誰も彼が獣将になるなんて思っていなかった。アタシたちを変えたのは、ゴーラの爺様かしら。

 本来、獣将を期待されていた面々ってのは、実は今はほとんど生きていないの。勇猛な兵ほど早く死ぬ。彼らの多くはアタシと同じ任務に就いて、そして死んでいった。アタシたちの意識を変えたのは、ゴーラの爺様とドライアン。強さの概念はゴーラの爺様の強さを目の当たりにして代わり、そしてドライアンの『獣人はもっと外の世界を知るべきだ』という意志に従って、アタシたちは諸国を巡った。

 外の世界は刺激的だった。でも危険も多く、アタシたちのほとんどは人間社会の闇に触れて死んでいった。その闇こそが、人間たちの間で古くから暗躍する組織。『アームズ』とも、『アルマス』とも呼ばれている輸送業者よ。彼らが扱うのは表向きまともな品だけど、実質のところ武器と戦争を扱う死の商人ね」

「アルネリアとは別、ということですか?」

「良い質問ね」


 アムールがにやりとする。


「その点がもっともアタシが重要視した点よ。アルネリアともし同一、あるいはアルネリア旗下の組織なら、話は大幅に変わってしまう。まさかアルネリアと喧嘩するわけにもいかないし、ドライアンも表向きはアルネリアと獣人の融和を推し進めた王様だからね。立場ってものがあるわ。

 だからこそドライアンは悩んでいた。人間世界の事を深く知るにつけ、おかしなものが沢山存在することに気が付いた。ドライアンは表だって何も動いていないように見えるけど、そういった工作のできる人材をドライアンは探し、運用していたわ。南の国々や、未開の土地との戦争は副次的なものに過ぎない」

「なるほど。やがて来るその闇との戦いのための、予行演習というところですか。あるいは他の国の目を欺くための芝居」

「そういうことね」


 アムールはいつの間にか手の中にあった酒を開けて煽っていた。アムールが酒を飲むのは珍しい。いつもは酒場にいても、飲むふりだけで終わらせているのだが。今日は何か思うところがあるのだろうか。


「ドライアンの目論見はおおよそ上手くいっていた。大半の国はドライアンを戦いが好きな、最も獣人らしい獣人だと思っている。だけど実質は逆ね。あの人ほど色々なことを考える獣人はいない。およそ従来の獣人らしくない獣人よ。

 魔王との戦いは正直、ここ最近で湧いて出た問題なの。もしかしたら出所は同じかもと思っていたけど、まさか伝説の5賢者が絡んでいるとはね。でもこっちもゴーラの爺様を動かす理由ができたし、上手いこと行けばあの武器商人たちも排除できるかもしれない。状況はより複雑になっているけども」

「そう簡単にいくとは思えませんが・・・仮にうまくいったとしましょう。それで貴方自身の目的はなんなのです? まさか獣人の天下統一なんて、荒唐無稽な事を言いだす性格にも見えませんが」

「アタシの目的・・・そうね。戦争のない世の中、なんてのはいけないかしら?」


 アムールの言いだした事にカザスは我耳を疑ったが、どうやらアムールの遠い眼差しを見る限り、彼が嘘をついているようには見えなかった。



続く

次回投稿は、11/17(日)21:00です。

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