獣人の国で、その13~家族②~
「甘いな、この酒は。ドライアン王なら飲まないだろうな」
「私も甘いと思うのですよ。獣人は基本的に辛口なのですか?」
「種族による。体格の大きい種族、肉付きがよい種族は甘いものが好きだな。逆に細い種族は辛い物や、さっぱりした物を好む傾向にある。もちろん個体差はあるし、ドライアン王の好みは少し種族の割に変わっていた。ちなみに獣将のヴァーゴ殿は、大の甘党だ」
「それは面白い。ちなみにネコ族の好みは?」
「熱い物が苦手だ。本来は根菜よりも肉、特に新鮮な魚類だな。それ以外は個体差による」
「・・・そのままですね」
カザスが多少面白くないというような反応を見せたが、ロアは黙ってその反応を流し、ヤオは興味深そうにそのやりとりを見守っていた。ヤオはカザスとロアのやり取りが面白いのだろう。耳と尾をぴんと立ててその話に聞き入っていた。まだまだ好奇心旺盛な年頃なことに違いはない。無口ではあるが、何とか会話に入ろうとその隙を窺っている。そのヤオが唐突に口を開いた。
「カザス・・・義兄様は、ニア姉さんのどこが気に入ったのですか?」
「ブフーッ!」
ニアが噴いた、盛大に噴いた。おそらくは両親達ですら見たことがないほど、それはもう盛大に。まあカザスですらむせこむほど唐突な一撃だったので、致し方ないといえば仕方ない。ロアとアビーも目を丸くしながらそのやり取りを聞き入っていた。
カザスが聞き返す。
「ヤ、ヤオ。突然なんですか?」
「気になりました。ヤオは発情期がまだなので、どうやって男性を選んでよいのかわかりません。もっとも多くの獣人は発情期になると、およそ誰でも関係ないのだと聞きました。
ですが私の父母は違います、お互いに愛なるものがあるという。そして人間も同じだと本で読みました。ならば人間の男性であるカザスさんが獣人であるニアを好きになるということは、至上の愛があるか、または異種性愛者という変態だと考えましたが、いかに?」
「いかに、と言われましてもね。やや論理の飛躍を感じますが」
カザスが頭をぽりぽりとかいた。ニアがダン、と机を叩く。衝撃で食器が揺れる。中身がこぼれそうになったものだけを掴むあたり、さすがロアもアビーも獣人と言わざるを得ない。
だがニアはそんなことを気にかけないほど動揺していた。
「な、な、何を言う! カザスがそんな変態なわけ――」
「いや。告白する前は一時、本気でそうなんじゃないかと自分での悩みましたけどねぇ」
「悩んだのか!?」
ニアが驚いたようにカザスの方を見たが、カザスはさらりと言ってのけた。
「まぁそんな事を考えている時期もありました。ですが私の愛は純粋なものです。ニアさんと一緒にいるとそう感じるのですよ。例えばニアさんが笑っているときとか、訓練で必死に努力をしているときとか、純粋に彼女を好きなのだと感じるのですから。
至上の愛と述べるには些か稚拙かもしれませんが、純然たる愛情だとは思いますよ。最も、愛情などどこか偏屈で独りよがりではあるかもしれませんが。このような回答でいかがでしょうか?」
「・・・うん、とりあえず納得した」
アビーは目をキラキラ輝かせながら、ロアはなんと言った物かと思案顔だったが、ヤオは無表情のままこくりと頷いた。そして安堵したようにため息をついたのだ。
「もし姉さまがろくでもない人間を番に選んだとしたらどうしようかと、ずっと考えていたのです。ですが杞憂だったようですね」
「・・・ちょっと待て、番、だと?」
「はい、違うのですか?」
ヤオは首を捻って疑問を示した。どうやらヤオには腑に落ちない点があるらしい。それはロアやアビーも同じのようだった。
「だって、姉さんは発情期を迎えているのだから、当然もう契っているでしょう?」
「な、な、な・・・そんなわけあるかー!」
ニアが真っ赤になりながら否定する。ニアにしてみれば、親の前でなんて話題を出すのかと羞恥で意識が飛びかけたのだが、ヤオはそれどころではなかったようだ。
その様子を見て、ヤオが目を丸くして驚いた。そしてロアとアビーの方を見ると、ロアが頷いたのだ。そしてヤオの目が丸いものから、とても厳しい目つきへと変化していく。
「・・・なるほど、姉さんはまだカザスさんと契ってはいないと・・・」
「そ、そ、それがどうしたぁ! 何か問題があるか!?」
「ええ、大有りです」
ヤオはがたりと席を立つと、ニアの前に立ちずいと胸を張った。まだニアの肩の高さほどしかない身長のヤオだが、強者が纏う雰囲気をもう持ち合わせている。身近でヤオに凄まれると、思わず後ろに引いてしまいそうなニアだった。
「姉さん。私は姉さんに正式に決闘を申し込みます」
続く
少し短かったので、次回は11/9(土)22:00投稿とします。