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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第三幕~その手から零(こぼ)れ落ちるもの~
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足らない人材、その150~楔⑭~

「今回の戦い、こんな結末にならんかったらどうやって止めるつもりやったんや?」

「ああ、そんなことですかぁ、簡単ですよぉ、今回の戦いではヴィーゼルが最終的には圧倒的に勝つでしょうが、ファイファーの悪事をあげつらってしまうことで、戦争の帰結自体を有耶無耶にしますよね? するとクライアは国際的に非難を受けますがぁ、元々盗賊の国であるクライアは倫理的な問題にゆるぎもしないでしょお?

 そしてファイファーは身分を追われ、クライアは何らかの口実をつけて再びヴィーゼルに攻め入りますぅ。ヴィーゼルは先の戦いで膨大な資金を投入した割に、戦利品が何もないですからぁ、今度は有能な傭兵を雇うこともままなりません~。最終的にはクライアが勝って、ヴィーゼルが賠償金を支払う形で決着がつくでしょうねぇ」

「なるほど。そしたら多少なりとも、ヴィーゼルとクライアの最終的な均衡が保たれるか。だが長期的な視点で見ると、なんの進展もないと」

「その通りですぅ。クライアの将来を見据えて長期的な見方をしているのは、おそらくファイファーその人だけでしょうねぇ。だから禁忌に手を染めてでも、自分が実権を握るきっかけが欲しかった。そのきっかけを彼は今回得たわけですがぁ、今後が大変でしょうねぇ。

 ですがぁ、最終的な戦争の規模を考えるとうまく収まったと言えるでしょう。次の戦争はクライアも総力を挙げてくるはずでしたから、もっと大きな規模の戦争になっていたはずですぅ。つまり、予想もせず戦争は未然に防がれたことになりますねぇ。結果だけ見ればぁ、最上にも近い終わり方ですぅ」

「山一個吹き飛んだり、森が焼け落ちたりと、とてもそんな風には見えんへんけどな。まあ紛争解決の専門家が言うならそうなんやろな」


 ブランディオは納得したようにうんうんと頷いていた。その彼をイプスは不思議そうに見ていた。


「あなた、そんなことを聞きに来たのですかぁ?」

「ああ、せやで? それなら色んな事に納得がいくからな」

「? 何のことですぅ?」

「こっちの話や」


 ブランディオは不思議がるイプスを尻目に、高速で頭脳を回転させていた。一見そうとわからないが、未然に防がれた二つ目の戦争。そして結果的に少なくなった死者。さらに、思いのほか投下されなかった武器の数々。色々なものが、予定と食い違ってきているとブランディオは知ったのだ。


「(ウィスパーが独自の意志で動き始めたか。黒の魔術士の意図を外れようとしとるんやな。そして黒の魔術士は一つ手駒を失ったように見えるが、さて、次はどんな手を打ってきますか。何もなかったら次の手も予想しやすかったんやけど、これでまだまだ荒れるんやろなぁ)」


 ブランディオはイプスの頭を撫でながら、そんな事を考えていることを悟られないようにした。イプスはブランディオに頭を撫でられるのを嫌がり何とか離れようとするが、そうは問屋が卸さない。

 ようやくイプスはブランディオの手を振りほどくと、ブランディオをやや鋭い目線で睨んだ。


「そんな事より~400周年祭に向けた準備はよろしいのですかぁ? 確か表向きの準備も結構な量を任されているはずですぅ」

「ああ、せやな。合同会議に夜会、統一武術大会。今回は面白そうな企画を考え中や。賞品も豪華にしたらんとなぁ」

「ふぅん・・・まあ仕事しているならいいんですよぅ」

「任せとき!」


 ブランディがびっと親指を突き出したが、イプスは無視して去って行った。ブランディオは出した指の下げ先に困ったが、誰もいなくなってはその場で立ち尽くすわけにもいかないので、乾いた笑いと共にその場を去らざるを得なかったのである。


***


 アルフィリースはミランダと別れを惜しみながらも離れると、自分の陣営に戻ってきた。傭兵団は一応まだカンダートの城内に駐屯を許されているが、クライアの正規軍がもうじき到着すれば占領は彼らの仕事になる。その段階でアルフィリース達は報酬を頂き、今回の仕事はお役御免になるだろう。

 それまでに自分の陣営の撤退準備を終えなくてはならない。傭兵が我が物顔で振る舞うことを、基本的に正規軍はよしとしない。当然といえば当然だが、傭兵は戦いが終われば即座に荷物をまとめて去るのが常だ。戦死者の霊を弔う間もろくろく与えられないのが常道。

 アルフィリースは少なからず出た戦死者の事を考えていた。彼らに家族、遺族がいれば何かしらの手当てをしたやりたいと思うのがアルフィリースの本心であった。

 だが陣営に帰ったアルフィリースを待っていたのは、想像以上に重たい報告であった。項垂れた顔でふらふらと飛んでくるのはユーティ。


「アルフィ・・・」

「どうしたの、ユーティ。あなたがそんな暗い顔をするのは珍しいわね」

「うん・・・私、あなたに謝らないと」

「?」


 だが続きをユーティが口にする前に、ラインが先に口を開いた。


「いや、お前が謝る必要はない。お前はむしろよくやってくれたさ」

「でも」

「でももへったくれもねぇ。アルフィ、嫌な報告だ。ロイドが死んだ」

「ロイドが!?」


 アルフィリースは唐突に聞かされた報告に、驚きを隠せなかった。今まで大隊長の一人として頼りにしていたロイドが死んだことは、アルフィリースにとって初めての主要人物の死亡であった。



続く

次回投稿は、10/24(木)11:00です。

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