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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第三幕~その手から零(こぼ)れ落ちるもの~
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足りない人材、その133~縁30~

***


 イェーガーの先陣は城壁を乗り越え、ようやく城内に侵入していた。城壁が下りないせいで、予定よりもかなり時間がかかったが、反撃が少ないことが幸いして人的被害は非常に少ない。

 城内に入ると、リサはセンサーで先の様子を探ろうとしたが、城内はより強固にセンサー妨害の魔術が張り巡らされていたため、思うように作業が進まない。当然、斥候も目視に頼らざるをえないから、自然と進軍も遅れてしまう。

 苛立つリサの様子を見て、ミュスカデがリサの肩を叩く。ミュスカデはリサの前で魔術の起点となる方陣をあっさりと見つけると、一瞬で解除して見せた。少し得意げにリサの方を振り返るミュスカデ。リサは仏頂面だった。


「苦戦してるじゃないか」

「・・・そうですね。一つ一つの結界の隙間をくぐる事は可能ですが、時間がかかり過ぎて有効とはいえません。うっとうしいったらありゃしないのです。城や要塞は相当厳重とは聞いていましたが、想像以上なのですよ」

「仕方ないさ。センサーっていう敵の陣形を筒抜けにしてしまう能力者を防ぐために、魔術協会を離れたもぐりの魔術士共すら高額で雇われる。中にはその報酬を求めて魔術協会を辞める者もいたほどだ。センサーを妨害する術とその解除の魔術はいたちごっこの技術発展を続けているが、ここにあるのは大分古めかしい魔術なのだな。流行の魔術を知らないらしい」

「引きこもりの魔女のくせによく知っていますね。同じ魔女でもラーナは知りませんでしたが」

「あの子は森の中で育てられた、純粋培養の魔女だろう? 魔女としては純粋だが、知識も経験も足りないさ。それに私はこう見えて傭兵稼業も長くてね。市井の魔術も勉強しているのさ」

「こう見えてって、見た目通りじゃねえかよ」


 すれ違いざまにロゼッタが文句を垂れる。一瞬ロゼッタとミュスカデの間に火花が散ったのをリサは逃さなかった。どうやら二人は似た者同士、ウマが合わないらしい。


「同族嫌悪ですね。生業は正反対ですが」

「何か言った?」

「いいえ、独り言です。ではミュスカデ、この調子で頼めますか? 徐々にこの砦内を丸裸にしてやりましょう」

「いいわよ、徹底的にやってやるわ!」


 ミュスカデがリサとの任務に気合を入れる中、アルフィリースは辛抱強く正面で鉄柵が上がるのを待っていた。そしてその鉄柵が重苦しく上がると、彼女はオズドバと共に入城したのだった。

 なぜアルフィリースがオズドバを連れてきたのかというと、もし何らかの理由でこの城攻めが上手くいかなかったときの保険である。オズドバがいれば、傭兵団が勝手に暴走したことにはならないと踏んだのだ。もちろん成功した時の戦功第一はオズドバに譲るという条件で、である。

 だがアルフィリースにしてみれば体よくオズドバを利用する形になっている。アルフィリースとしてみれば、オズドバがこんな危険度の高い任務を引き受けるためにはもっと好条件を提示する必要があるかと思っていたが、思っていたよりもあっさりとオズドバはアルフィリースの提案を受けてくれた。


「上手くいった今だから言うけど、仮にも正規軍の貴方が来てくれるとは意外だったわ」

「私がこんな伸るか反るかの作戦の指揮官役を引き受けたことかね?」

「ええ。何か裏があると考えていたくらい」

「まさか。私はそんな人の裏をかけるがほどの頭脳を持っていない。人より多くの小作を持ち、彼らの使い方を知っているだけのただの田舎領主さ。人が良すぎると、他の領主や使用人に馬鹿にされるくらいだ」

「人の使い方を知っているというのは才能だわ。現にあなたのことを信用している兵は多い。人が良いのもいいことよ。時に指揮官としては不適切でも、私にとっては好ましいわ」


 信用されるということは、そのまま指揮官の資質になる。オズドバは人の好さで人を惹きつける種類の指揮官だった。グランツという冷徹な指揮官が他にいるせいで、オズドバの資質は余計に際立つ。

 だがオズドバはさも嬉しそうなわけでもなく、謙遜した。


「若い御嬢さんにそう言われると悪い気はしないがね、私がどうにかなるのは顔の見える範囲の人間だけだ。500人動かせと言われればそれなりにやり遂げて見せるが、1000人、2000人となると無理だろうな。すぐぼろが出る。

 だが君は人を乗せるのが上手い。それはやがて何万という人を動かすかもしれん」

「よしてよ、傭兵がそんな数の人間を動かすことがあるわけないじゃない」

「それはわからん。かつて諸国の軍を預かった傭兵王なる者もいたとか」

「寓話の類でしょう? 数字は盛られているでしょうし、一つの進行や目的のために集まればそういうこともあるかもね。国民の安全に対して責任のある、常駐の軍人となると話は違うわ。私たちが責任を持てるのは自分の命だけ」

「そうだろうか。他の者は知らぬが、少なくともそなたは違う気がする」

「買い被りよ」


 アルフィリースは苦笑いで会話を誤魔化したのでそれ以上オズドバも追及しなかったが、オズドバにしてみれば割と真面目に考えた上での発言だった。魔王もこれだけ出現しているのだから、この世界はもはや何でも起こりうるとオズドバは考えるようになった。事実、昨日からの戦いで起きた事実はどれも馬鹿げていた。だから『あんな報告』も馬鹿げていて、もはや真面目に聞く気にもなれなかった。

 アルフィリースはオズドバと馬を並べて進めながら、城内の様子を確認する。そこかしこで戦闘の痕は見られるが、どうも死体として転がる敵兵の数が少ない気がした。敵の鎧や武器は散乱しているが、死体はあまり見られない。その光景は先に進むほど顕著になり、アルフィリースは城内からの抵抗の激しさと敵の数が合わない事に気が付いた。転がる死体の数より、敵の手数の方が多い気がしたのだが。


「これは・・・いつぞやの人形が城内にいたのかもね。なるほど、単純な応戦なら彼らでも手数の上で有利になるわね」

「アルフィリース殿、何か?」

「いえ、こっちの台詞よ」


 倒した敵が崩れて消える。アルフィリースたちの傭兵隊はこの敵の存在は知っていたが、まだ人形の件に関してはギルドにも秘密にしている。言ってどうなるでもなし、むしろ混乱を広げることになりかねないからだ。ヘカトンケイルの危険性については既に傭兵ギルドでの通達が出されたが、人形はアルネリア側も発見と対策を講じることができないでいた。

 アルフィリースはオズドバに兵をまとめるように頼むと、自分はロゼッタとその直下の特殊兵を連れて先に進んだ。先ではラインが同じく精鋭を率いて前線を確保しており、さらに砦の先を探っているところだった。同じ場所にはリサとミュスカデもいる。



続く

次回投稿は、9/20(金)14:00です。

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