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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第三幕~その手から零(こぼ)れ落ちるもの~
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足らない人材、その132~縁29~

「ぎ、がっ」

「思ったよりも素直な性格だな、サイレンス。戦闘経験が浅いというのは、ヴァルサスの見立て通りのようだ。馬鹿正直に魔術戦をやっても私が間違いなく勝つだろうが、私が好きなのは魔術による強化を施した接近戦でね。時間は無限にあったし、狂ったリシーの傍でできる鍛練など、格闘術くらいしかなくてね。恨むなよ?」

「き、さまっ」


 サイレンスが氷の槍を作り出して背後に突き出した。その槍がテトラスティンに当たった感覚がサイレンスにも伝わり、何とか彼は顔を背後に向けて槍がどこを貫いたのかを確かめようとした。

 氷の槍は確かにテトラスティンの心臓を貫通していた。だが、サイレンスを貫いた腕の力はますます強まるばかりで、まるでひるむ様子がない。逆にサイレンスの体からは徐々に力が失われていく。


「な、ぜ・・・?」

「理解できてなかったのか? 私は『死なない』んじゃなく、『死ねない』んだよ。どれほどの死に方を試したと思う? 今さら心臓を刺されたぐらいで怯むかよ。

 死に方を探して彷徨っていると言ったつもりだったが、お前はあまり頭が良くないようだな。人の話はきちんと聞くものだ――と言っても、もはや聞こえないだろうがな」


 テトラスティンがその言葉を言い終えた時には、既にサイレンスの全身は猛烈な炎に包まれていた。腕を乱暴にサイレンスの体がら引き抜き、背中を蹴飛ばすテトラスティン。地面をがらくたのように転がったサイレンスを見て、テトラスティンは汚い物でも見るように、その残骸を見下ろしていた。


「ふん。影から人を操ることしか能のない奴が、欲をかくからこうなる。操る事に徹するか、あるいは最初から前に出る気概を持てばよかったのだがな」

「どちらもできない貴方が威張る事ではないわ、テトラ」


 テトラスティンの結界の中に侵入してくる女の姿。テトラスティンの忠実な僕を務めているリシーであった。彼女の姿は普段のように奇をてらったものではなく、まるでこれから式典にでも参列するかのように、きちんとした襟付きの正装に身を包んでいた。少し内側のシャツをはだけ、蒸し暑そうに自らの体をあおぐことくらいが普段と違う点であった。


「そう言うなよ、リシー。それより、思ったより早かったね」

「ええ、私も思わぬほどね。おかげで汗を本格的にかく前に終わらせることが出来たわ。アルフィリースの部下、ルナティカとか言ったかしら? たいした腕前ね。もはやサイレンスの人形程度じゃ、紙を斬り割くように殺していたわ。

 でも本当に凄かったのは、勇者アーシュハントラと、大陸一の暗殺者ウィスパー。彼らがいたおかげで、私の負担は半分で済んだ」

「その三人がかりで殺した人数を、リシーは一人で殺したんだろう? 君が一番凄いよ」

「ただの人形よ、予想外の事態に対応する意思も持たないわ。千までは数えてたけど、後は面倒くさくて数えていないもの。どれほど狩っても自慢になりませんからね。それより、サイレンスを殺してしまってよかったの?」

「ん、ああ。そうだね」


 テトラスティンはしょうがないという風に、腕を広げておどけて見せた。


「本当はどうしようかと思っていたんだけど、こいつは色々と余計な事をしそうだったから殺しておいた。仮にこの件でオーランゼブルに睨まれることになるとしても、それはそれで構わないさ。どのみち私たちを止めることなど、彼らと言えどそう簡単にできるものではない。逃げる事だけに徹すれば、彼ら全員がいたとしてもできる自信はあるね。

 加えて、少し黒の魔術士は優勢すぎる。勢いをここで削いでおかないと、本当に誰も止められないかもしれない。

 もしこのまま彼らが例の計画を発動させたら、全てが彼らの意のままに進んでしまう事だろう。それは私たちにとってもあまりよろしくない事だからね」

「だからあまり私たちにとって益にならないサイレンスを、とりあえず殺したと?」

「そうとも言う。必要があれば、残りの者たちも一人ずつそうする」

「それは別に構わないのだけど、オーランゼブルの目的は何? テトラは肝心な事を言わないから困るわ」


 リシーの質問に、テトラスティンが少し困った顔をする。


「私も本当の目的を理解しているわけではないけどね。おそらく彼らは数多の犠牲を欲している。誰が死んでも構わないし、誰が生き残って恨まれても関係ない。これは想像だけど、『オーランゼブルには』関係ないんだ。彼はこの計画が終わったら、死んでもいいと思っているのかもしれない。

 だから次の戦の規模は大きければ大きい程よいだろう。今回の戦はひな形であり、隠れ蓑だ。次の大きな戦に備えてのね。そしておそらく仕込みは終わっている。あとは時が熟すのを待つだけ」

「時とは?」

「まあ間違いなく―――アルネリア400周年記念祭だろうね」


 テトラスティンが呟いた時に、風が何かを恐れるように揺れた。リシーには既に何かを恐れるような感情は存在しないが、それでもなおただ事ならぬ何かが近づいていることは察することができた。



続く

次回投稿は、9/18(水)14:00です。

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