アルネリア教会襲撃、その3~悪霊の横行~
「うーん、さすがにめんどくさいかなぁ?」
なんとか騎士の中隊を蹴散らしたドゥームであるが、思ったより消耗していた。なにせアルネリアの騎士達には悪霊である彼の力が効きにくく、聖別が施された武器は悪霊達にとっては致命的になりかねない。もちろん彼らほどの格の悪霊ともなれば早々消滅させられることはないが、やりにくいことに違いはなかった。
「(こちらの攻撃は効きにくくて、向うの攻撃はよく効く。ずるいなぁ・・・思うように殺せないじゃないか!)」
実際に足止めをした聖騎士達は100も死んではいないだろう。彼らは適当なところで負傷者をまとめて撤退していった。その様子を見ながら、物足りなさと共に、ふと面白いことに気がついたドゥーム。
「なるほど。単純に目標以外を相手にする時は、殺しきるより半殺しにしたほうが能率がいいか。メインディッシュの前の前菜と考えればいいんだな。これは勉強になるね」
「で、どうするのドゥーム? そろそろ次が出てきそうだけど、今度はかなり多いわ。ざっと聖騎士だけで1000をゆうに上回ってるわね」
「そんなに相手にはしていられないな・・・と、いうか飽きた! やっぱり殺すなら女の子をゆっくりじっくり殺す方がいいな。すぐにやっちゃうと、色々と楽しめないもんねぇ」
「あら、そんなに楽しみたかったら帰って私がじっくり相手してアゲルわよ♪」
「えー、リビードゥでは一通り遊んだからなぁ。だって、リビードゥって殺しても気持ちよさそうにするんだもん。やっぱ嫌がってくれないと燃えないよ!」
「たまには相手してよぉん。だって、貴方ってば全然遠慮なくて最高なんだもォん!」
「今の僕には奥様がいるんですけど。彼女の面前で堂々と浮気を勧めないでくれるかな」
「いやぁん、ドゥームちゃんってばそんなに愛妻家だったかしらん?」
「だって、僕から結婚してくれって言ったしね」
「私は別に気にしないけど・・・」
リビードゥとドゥームの軽薄な会話の傍で、オシリアが呟く。だが目線はこちらに向ける様子も無い。
「あら~新妻の許可が出たわよ、だ・ん・な・さ・ま」
「・・・僕って愛されてないのかな・・・」
「ねぇねぇ、どぅーむ。次が来るよ?」
左手から聖騎士隊の新手が向かってくる。今度は大隊だろう、リビードゥの報告通り数が多い。一糸乱れぬ進軍からも、先ほどのよりもさらに質が高いことは明らかである。
「あらら、やっぱり相当訓練されてるね。リビードゥ、ここは任せるよ」
「いくらなんでも、私1人じゃ足止めは厳しいわよ?」
「大丈夫、預かってる連中を呼ぶから」
【召喚】
ドゥームの周囲に魔法陣が次々と浮かび、魔王と目される合成獣たちが召喚される。その形は多様であり、海生生物、獣、植物、鉱物、加えてどれともつかない生物たち。最初にアルフィリース達が戦った魔王に似ている個体もいた。
「これだけあればなんとかなるでしょ?」
「ええ。でも全滅、とはいかないかもね。敵の練度次第では足止め程度にしかならないわ」
「構わないよ、四半刻も足止めしてくれればいい。その間に終わらせてくる」
「はいはーい」
魔王たちと共に騎士団に立ちはだかるリビードゥ。その前に群がる聖騎士達。
「ふふ、沢山来たわね・・・人間達、私をいっぱい逝かせてね?」
自分が沢山の騎士たちに貫かれる様を想像しながら、恍惚とした表情で魔王を率いて聖騎士達に向かっていくリビードゥであった。
***
「で、この門を突破する方法だけど」
大隊の足止めをリビードゥに任せ、ドゥームが立っているのは第二の門の前だった。今度は先ほどと異なり、守るのは神殿騎士。しかも完全武装であり、門の頑丈さ、防護結界の強力さも第一の門とは段違いである。先ほどのように魔術で一気に吹き飛ばすわけにはいかない。
「これは無理だね、諦めよう・・・なーんてね。よろしく、インソムニア」
「・・・」
インソムニアが一歩前に出るとその長い髪がざわざわと揺らめき、そして一斉に伸び始めた。インソムニアの髪は結界の影響を受けないのかその髪が結界の隙間を縫うように侵食していく。
そして門に到達すると門の隙間から中に侵入していき、門の閂に絡みついた。
「あの髪を切れ!」
「本体を矢で貫くんだ」
「聖属性の攻撃魔術を使え」
インソムニアの髪を神殿騎士達が切ろうとするが、聖別を施した鋼の剣が全く通用しない。ようやく切れたとしても、次々に伸びる髪はきりがない。
本体に射かけた矢は全てオシリアが曲げ落とし、魔術もドゥームの周りに出現した靄が全て防いだ。そうこうするうちにインソムニアの髪が閂をひしゃげさせ、門を開けてしまった。
「御開帳、っと」
そしてドゥームが堂々と中に入ると、大量の神殿騎士や僧兵たちに行く手を阻まれた。
「ククク、僕とやろうってのか? お前たちみたいな雑魚が?」
ドゥームは挑発してみるが、無言で騎士達は距離を詰める。
「挑発にも乗らないくらいには冷静か。なら仕方がないね!」
ドゥームが一度左目を閉じ、すぐにぎょろりと眼球を見開く。すると彼の左目は血を垂らしたような深紅に染まっており、その目を見た騎士たちは悲鳴をあげ、崩れ落ちたり、あるいは仲間に襲いかかり始めた。
「ぎゃあっ!」
「うわあああ!」
「ひいいいいい」
「やめろお前達! 何をする?」
「俺達は味方だぞ?」
「発狂の魔眼だ、奴を見るな! 精神を侵食されるぞ!」
詠唱なく使える魔眼は戦闘において非常に便利ではあるが、いつでも使えるわけではなく使用回数・条件に制限があるのは難点ではあるが。
「もう魔眼を使うのね」
「だって、いちいち相手をするのも面倒だもん。よし、今のうちに進もう」
「待て!」
混乱した兵たちを押しのけるようにして現れたのは、ラファティとその父であるモルダードだった。
続く
次回投稿は12/5(日)10:00です。