足らない人材、その124~縁21~
「ぐ・・・う?」
ヴァルサスは一向に剣を放さず、そのまま剣での押し合いに持っていったのだ。剣の性能が互角なら、腕力で決まるとサイレンスは思っていたが、ヴァルサスの膂力はどう考えても辻褄が合わない。レイヤーすら上回るように補強した筋力で負けるなど、ありえない事である。
「馬鹿、な! 貴様、どんな腕力をしている?」
「あなた、剣技はそれなりですが剣士としては二流以下のようですね。その状態では、腕力の差が出るのではありませんよ」
グロースフェルドの呆れたような声がサイレンスの耳に入ったが、現状それどころではなかった。鍔迫り合いに負け、ヴァルサスの剣はサイレンスの喉元に迫ろうとしていた。サイレンスは焦りながらも防御魔術があれば大丈夫だとどこかでたかをくくっていたが、ヴァルサスの剣が防御魔術の内側に食い込んでくるのを目にして、初めて背筋が凍るような思いをしていた。
「ひいっ!」
サイレンスは防御魔術が役に立たない事を知り、防御に使っていた魔力を筋力に変えてヴァルサスの剣を押しのけた。ヴァルサスは大人しく後退したが、その背後からグロースフェルドの魔術が発動するのが見えた。
「そら、隙ができました」
「はっ!?」
グロースフェルドの光の魔術が、ヴァルサスがよけた背後から飛んでくる。サイレンスは慌てて防御魔術を張り直すが、突発的に張った魔術では防御が間に合わず、衝撃に押されてサイレンスは吹き飛んだ。後方の肉の壁にめり込むようにして叩きつけられるサイレンス。
「かはっ」
「あの間合いでも防ぐか」
「すみません団長、私の詰めが多少甘かったようで。本来は魔術の方が得意で、剣は付け足しなの魔法剣士のようですね。ですが――」
グロースフェルドが頭上に形成した光の球は、人を一人飲み込んであまりある大きさだった。突如として現れたその魔術に、サイレンスの目が驚愕に見開かれた。
「馬鹿な! そんな高度な光の攻撃魔術を使える者がアルネリア以外にいるとは。貴様、何者だ!」
「言ったでしょう、破戒僧だと。ただ私が攻撃魔術を使えるのはヴァルサス以外には秘密で、副団長のベッツも知らないことですよ。ブラックホークのみなさんは、私がただの卑猥な防御専用の神父だと思っていますから」
「自覚があったのか」
「そりゃあもう」
余裕さえ感じられるヴァルサスとグロースフェルドの掛け合いに、サイレンスは屈辱を感じて歯を噛みしめた。だがグロースフェルドは勝機を逃すようなことはしない。
「さて、そろそろ仕留めさせてもらいましょう。時間の流れに関しては外も中も同じでしょうから、あまり私がいないとなると、団員に危険が及ぶかもしれませんからね」
「何、どういう事だ?」
「別行動中ならともかく、私がブラックホークに加わってからは、団長が率いる戦いではどんな激戦に巻き込まれようと、死者が一人も出たことはありません。
その秘密はね、私が広域にわたる自動回復魔術を使用しているからなのですよ。私の影響下にいる限り、我がブラックホークの団員は致命傷を一撃で喰らわない限り、死ぬことはありません。だから私たちは少数でも最強の傭兵団なのですよ」
「なんだと――」
サイレンスが事実を知った瞬間、グロースフェルドの魔術が放たれた。いかに強力な魔術障壁を用いようと、防ぐことがかなわぬほどの強力な攻撃魔術。グロースフェルドもヴァルサスも必殺だと思っていたのだが、サイレンスはなんと剣で光の球を斬り割いたのだった。サイレンスの剣に斬られ、霧散するように掻き消えた光の球。グロースフェルドとヴァルサスの目が初めて大きく見開かれた。
「なんと、魔術を無効化する剣ですか。妙な形の剣なので、何か付加属性があるかとは思っていましたが」
「あれは剣そのものに付属している属性のようだな。厄介だな、お前の攻撃が通じない事になる」
「ふ、ふふふ」
サイレンスが気味の悪い笑いをこぼした。もはやサイレンスも取り繕うことはしない。その凶暴な本性を徐々にむき出しにし始めていた。青く鈍い光を放つ剣に舌なめずりをし、頬ずりをしながらにやついていた。
「これは汚れた血の剣。大戦期に知られた魔剣の一つですよ。この剣の前では、あなた達の魔術は一切通用しません。ですが、私はこの剣に魔術を込めて魔法剣を使うことができる。使用者の意図を理解し、また敵と主人を認識しながら自我を持たない非常に使いやすい剣。全ては持ち主たる私の意志次第ということです。便利でしょう?」
「なるほど、中々に厄介だが倒せないというわけではあるまい。何事もやってみない事にはな」
「ほう、ですが私に先ほどのような隙はありません。一瞬ひやりとしましたが、もはやそこの下品な神父の魔術が通用しないとわかった以上、私はなんとでもあなた達を料理できる。
さしあたっては――」
だがサイレンスがまたしても言葉を言い終わらないうちに、ヴァルサスが猛然と斬りかかっていた。先ほどと同じ状態にサイレンスが表情を醜く歪めたたが、今度は体勢も先ほどと違い互角であった。
また先ほどと違うのは、サイレンスの表情がもはや優雅さを取り繕っていないことだった。その表情は彼の内面同様、醜く歪んでいた。
「だから私の話を聞けと言っているだろう、人間風情が!」
「聞く耳持たんと俺も言ったぞ? グロースフェルドの魔術が通用しないのなら俺が押しつぶすまで」
「やってみるがいい!」
その言葉を最後に二人は激しい剣の応酬を始めたが、グロースフェルドはその様子をため息をつきながら見守っていた。ため息は気落ちしたからではない、呆れていたからだった。
続く
次回投稿は、9/4(水)15:00です。