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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第三幕~その手から零(こぼ)れ落ちるもの~
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足らない人材、その123~縁⑳~

「醜悪な結界ですね、私の好みとはほど遠い」

「その言葉、女性団員が聞いたらどう言うかな」

「何を当たり前な事をおっしゃる、みな同意してくれるに決まっているではないですか!」

「だといいが」


 軽口をたたきながらも、二人の傭兵は状況を把握した。捕まっているレイヤー、そして肩口を抑えながら後ろにとびずさったサイレンス。醜い結界内部とサイレンスを見比べて、グロースフェルドがサイレンスに軽蔑した視線を投げた。


「そこのあなた。優雅な見かけとは裏腹に、とんだ邪悪な心根をお持ちのようですね。生きているだけで害悪になりそうなほどに」

「ふふ、人間よりましですよ。私はまだ、人間より醜い存在に出会ったことがありません」

「醜い者もいれば、そうでないものもいる。それが人間の醍醐味だと思いますが」

「いえ、一皮むけば皆醜い者ばかりですよ。皆美しく見えるように取り繕っているだけです」

「偽善も善のうち。どうやらあなたとは愛について一度じっくり話し合いたいですが、そうもいかないでしょうね」


 グロースフェルドはちらりとヴァルサスの方を見やった。そのヴァルサスは、ひゅんと剣を振ってサイレンスの方を見たのだ。


「話はもういいのか、グロースフェルド」

「こんな愛のない場所ではどうにもそんな気分になりません。それに、団長はもう待てないでしょう?」

「ああ、あと3秒も話が続いていれば、どちらにしても攻撃を始めていた」

「せっかちなんですから」

「それだけではない」


 ヴァルサスはじろりとサイレンスの手元を見た。


「あの男、ずっと会話の間も魔術を発動させようとしている。抜け目のない男だ、時間をおくと逃げられるぞ」

「ふむ、団長は私が彼を逃がすほど間抜けだとお思いで?」

「そうは思わんが、万一ということもある」

「確かに、彼は黒の魔術士ですものねぇ。私もそれなりに本気で相手をするとしましょうか。ここは幸い結界の中ですし、他の団員にもばれないでしょう。よろしいですか、団長?」

「構わん。むしろそうでなければ仕留めきれまい」

「それでは」


 グロースフェルドがずいっと前に出た。相当な長身であるグロースフェルドは、ヴァルサスよりも頭一つ以上大きい。その彼が前に出ると、それだけで威圧感があった。

 対するサイレンスは地に片手をついた姿勢のまま。グロースフェルドを冷ややかな目で見ていた。余裕のつもりなのかもしれない。


「あなた、初めて見る顔ですが、私の事を黒の魔術士と知っているのですか?」

「ええ、もちろん。有名人ですからね、あなたたちは。全員の顔と名前は確認させていただいております。人形使いのサイレンス、でよろしかったでしょうか?」

「・・・よく調べましたね。どこでその情報を?」

「私、こう見えても顔が広いんですよ。私の愛を理解してくれる人が大陸中にいましてね。自然とあなたたちの情報は私の元に集まってきます。

 またそのくらいでなくては、この傭兵団の後衛を任されませんよ。私がいないと危なっかしい連中ばかりですから。突っ込むことしか頭にない彼らの援護は、とっても難しいんですよ。まったく、盛りきった童貞でもないんですから、もう少し焦らす楽しみも覚えればいいのに」


 グロースフェルドが突如として下世話な事を言ったので、サイレンスがじろりと睨んだ。


「ふざけた男ですね、下品な言葉は嫌いですよ。とても神父の服を着ている者の言葉とは思えない」

「残念ながら私は破戒僧でして。それに心根の下品な者が上品ぶるより余程マシかと思いますよ。それともあなた、童貞でしたか?」

「・・・死になさい」


 サイレンスが余った左手で氷の槍を放った。一直線に放たれた槍はグロースフェルドに襲い掛かったが、氷の槍はグロースフェルドの目の前で削れて消えてしまった。グロースフェルドが常時張っている防御魔術が、氷の槍の侵入を阻んだのである。


「ダメですよ、そんな初級の魔術では。私が常に張っている魔術障壁を突破することはできません。仮にもあなたの結界に音もなく侵入できるだけの私ですよ。せめて二節以上の詠唱を持つ魔術にしたらどうですか?」

「なるほど、そのようです。ならばそう――」

「できないでしょうけどね」


 サイレンスが詠唱しようとした瞬間、グロースフェルドの横を黒い疾風が駆け抜けた、グロースフェルドの長い法衣が舞い上がり、黒い塊と化したヴァルサスからサイレンスに向けて剣が振り下ろされた。

 サイレンスは魔術を詠唱しようとした手で剣を持ち慌てて防御したが、あわや唐竹割になるところであった。


「ぐっ! 奇襲とは卑怯ですね!」

「戦いに卑怯もくそもあるか。敵を倒せばそれでいい」

「戦いにも美学は必要ですよ?」

「そういうのは俺以外とやってくれ」


 ヴァルサスの剣を持つ手に力がこもる。サイレンスは打ち込まれながらもそのまま剣での押し合いに持っていったが、ヴァルサスが焦れて剣を一度離す瞬間を狙っていた。体勢が悪いのはサイレンスだが、金の魔術で補強した筋力ならば、人間相手に押し込まれても耐えることが出来ると思っていたのである。

 だが――



続く

次回投稿は、9/2(月)15:00です

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