足らない人材、その120~縁⑰~
「大丈夫ですよ~、私は戦ってみたいだけですから~。黒の魔術士とかいう~、人外の戦力を持った集団と~」
「? どうして彼らの事を知っているの?」
「大戦期が終わったのにも関わらず~、大陸には不自然に戦いが溢れているじゃないですか~。彼らの名前を知らずとも~、死の商人アルマス以外にもそのような連中の存在しているとは~、識者の間では随分と前から囁かれていました~。 ここにきてその輪郭がはっきりとしましたが~、誰が彼らに対抗するのかということに私は注目していたのです~。
最初はアルネリア教会か魔術協会かと思っていましたが~、予想外の勢力が現れました~」
「それが私たちだと」
「そうです~。団長にだけは正直に申しましょう~。私は幼い頃から大戦期の英雄譚に憧れていました~。それこそまるで、夢物語を描く少年少女のように~。ですが悲しいことに~、私には武勇も魔術の才能もありませんでした~。
そこで私は学びました~。その才能がある人の隣で発揮できる~、万人にも勝る戦略を~。幸いにして私は一度見た事はほとんど忘れませんし~、手先が器用で工作は大好きです~。メイヤーのトリアッデ大学では刺激的な学友も沢山いましたし~、戦争に勝つための学問を修めました~。
ですが~、平和な時代では私の能力を発揮する場所がありません~。黒の魔術士がいたことは~、私にとって幸いと言わざるをえません~。彼らを駆逐することで~、私は望みを遂げられる~。不謹慎だと思わないでくださいね~?」
「不謹慎だけど、戦いの中で数多の英雄が出現することは事実だわ。それよりも、彼らを倒す手段があると?」
「もちろんです~、そのための私の能力と識者の集団です~。トリアッデ大学の連中は条件次第でこちらに簡単になびくでしょうし~、それ以上の素材を持つ連中もいずれ紹介できるでしょう~。特にカザスは欠かせない存在ですよ~。彼の能力の素晴らしさは~、戦争でこそ発揮されるでしょうから~。多少人が良すぎるせいで~、その利用価値を認めていませんがでしたが~」
アルフィリースは一瞬噴き出しそうになった。カザスの偏屈さでお人好しとなれば、トリアッデ大の学者連中は余程常識の通じない連中に違いないと思ったからだ。
コーウェンは続けた。
「ともかく~、私が貴女に戦略を授けましょう~。黒の魔術士たちに勝てるように~。ですが私と貴女はもう同じ方向を向いていると思います~、城攻め屋への対応を見る限りでは~」
「同じ方向・・・そう、そうなの」
「この戦いが終われば~、少しは私の事を気に入ってもらえると思いますよ~? 私が貴女に近づいたのも~、貴方がアルネリアという大陸最大の潤沢な資金を背後につけているからこそですから~」
「強欲ね、あなた」
「いえいえ~、団長ほどでも~」
「どこまでその欲望が本当なのかしら」
「それは信じていただくしかないかと~」
コーウェンが場にそぐわぬ爽やかな笑い方をしたのを見て、アルフィリースはつられて笑ってしまった。まだ彼女の本音は見えないが、想像以上に恐ろしく、また心強くもある味方を得たのかもしれないと考えると、嬉しくもあった。
***
「片付いたかな」
「ああ、これで全部」
ルナティカがマチェットを深々と差し込んでいた敵から刃を抜くと、兵士の形をした人形がどうと倒れた。ルナティカと肩を並べて戦っていたのは、勇者アーシュハントラ。いかにしてここに辿り着き、どのような理由で自分に協力したのかをルナティカは知らない。ただ一つわかったことは、アーシュハントラの化け物じみた強さだけだった。
いや、そもそも人間ではないのかもしれない。なぜなら、ルナティカの背後に横たわる死体はゆうに200は超えたろうが、アーシュハントラの背後に積み重なった死体は軽くルナティカの三倍は越えていた。ルナティカは一息で2~3体は殺していたはずである。その自分より殺す速度が速いなど、現実離れしすぎていて全く実感がなかった。
少なくともアーシュハントラは魔術を使っていた。魔術を施した剣で一度に数体を薙ぎ払い、対側に魔術を放つ。一度の攻撃で10体以上に致命傷を与えていく戦い方は、魔法剣士としての一つの完成形に見えた。
ルナティカは改めて問いただす。
「なぜ私を助けた」
「うーん、正直に言ってしまうと、君を助けたわけではないんだよね。彼らは私にとっても宿敵でね。私の傭兵としての誓約のようなものなのさ、ああいった『命ならざる者』を倒すのはね」
「誓約、命ならざる者・・・お前は何者?」
「辺境探索が趣味の、ただの風来坊さ。勇者なんて呼ばれ方は本来似合わないんだ。それよりも君達に用事があるんだ。君達に合わせたい人がいてね」
「?」
「それはこちらでやるとして、君は余裕があるなら別の場所に援護に向かった方がいいだろう。まだ敵はこれくらいでは終わらせてはくれないようだ。むしろ、これだけ多くの人形が動くなら、操っている本体はかなり近くで活動しているはずだから。それを探して倒した方が早いだろう。これは危機であり、好機でもある。早くしないと、君の弟子が命を落とすよ?」
「! レイヤー!」
ルナティカはアーシュハントラの言葉を聞くと、疾風のようにその場を離れた。なぜアーシュハントラがそのようなことを知っているのか、気に留める暇もなかった。
ルナティカが走り去ったのを見て、アーシュハントラが手招きをする。
続く
次回投稿は、8/27(火)15:00です。