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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第三幕~その手から零(こぼ)れ落ちるもの~
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足らない人材、その107~縁④~

 レイヤーの腕の力が一瞬緩んだ。その可能性はレイヤーも考えなかったでもない。ルナティカはもちろん考えていただろうが、彼女はアルフィリースやリサには決して自ら意見しない。まだ長年の、使役される者としての習慣が抜けていないのだ。

 だがレイヤーはそんなルナティカに師事しながら、まるで頭を使わないわけではない。自分の力を最も活かす方法。それは誰にも見られることなく戦える『暗殺』が最も適していると、レイヤー自身も気が付いていた。

 ふっと油断したレイヤーの手が緩むと、コーウェンはするりとその手を抜け出した。どうやら何も武芸を身に着けてないわけではないようだ。動きが明らかに素人ではなかった。


「・・・その動きも雑学の一環?」

「一人旅する女性のたしなみです~」


 コーウェンの言葉にレイヤーは毒気を抜かれてしまった。どうやら会話における間の取り合いでは、レイヤーに分はないようだ。


「で、具体的には?」

「話が早い人は好きですよ~。次の戦い、ルナティカさんと協力して砦に先行、正門を開けてほしいんです~」

「それはいいけど、傭兵団が砦に来たときに門が開いていると不自然じゃないか。それに僕が逃げ出す時間がない」

「大丈夫です~、砦の中には小規模ながら街もあるので、市民が外に出入りするために普段は門を開いています~。向こうは既に戦闘があるとは思っていないでしょうから、門は開け放っていてもおかしくないです~。 

 それにヴィーゼル側の拠点の砦の正門は相当大きくて、人の手ではなく巻き取り式の鎖で開け閉めするのです~。だから門を開けたあと仕掛けを壊して固定しちゃえば、十分撤退の時間は取れますよ~」

「わかった、なら今夜にでも動こうか。闇に紛れて潜入、陽が上ると同時に動き始める。襲撃の予定は?」

「夜半に出撃、夜明けと同時に攻撃します~。こういうのは速度が命ですから、相手に時間はあげません~。徹底的にやっちゃいましょう~」

「怖い人が仲間になったね」

「褒め言葉としていただきます~」


 コーウェンはぺこりと礼をすると、その場を去って行った。レイヤーもまた荷物を片づけると、すぐさま準備に取り掛かった。今度は折れないように剣を磨き、仮眠を取って夜の出撃に備えたのである。


***


「準備は整ったかしら?」

「もちろんです~。元気な者を集めて、物資も補充~。言われたとおり『彼ら』にも連絡しましたし~、いつでもどうぞ~」

「ターシャを連絡係に使ってしまったから、偵察ができないのは痛いわね」

「それはそうですが~、リサさんの性能があれば大抵のことは問題ないかと~。それに私の使い魔もある程度なら使えますし~」

「うん、まあ突発的な作戦ならこんなもんか」


 アルフィリースは出陣前の最終的な確認をコーウェンと行っていた。コーウェンは自ら売り込むだけあって、その手際、指示の飛ばし方は非常に的確そのものであった。ラインから団の資料を渡されると半刻と経たず全てを把握し、夕刻までには大方の準備を整えていた。

 もちろんジェシアの補給が絶妙な時に行われたことも幸いしたが、コーウェンの手際がよかったおかげで、アルフィリース達は出撃させる者に食事と仮眠を取らせることまでできたのだった。

 さらにコーウェンの恐ろしいところは、自ら雇っていた傭兵団はもちろん、砦の兵士の一部まで傭兵として雇い入れた所である。砦の兵士は元々農民などの徴収兵であることが多く、軍人としての矜持や出世などとは無縁の者が多い。彼らはアルフィリース達に窮地を救われ、また提示された傭兵としての待遇に惹かれてアルフィリースの傭兵団に入る決意をしたのだった。

 数としては戦力にならない程度だったが、軍から傭兵に鞍替えしたというその事実がアルフィリースの名声を高めることとなる。アルフィリースの本来の仲間は傷つき疲れていたが、熱にさらされた兵士達のおかげで士気は高いままだった。

 既に仮眠を終えた兵士達は出陣の準備を整えている。リサがそのことを告げに来ると、コーウェンがさらなる提案をした。


「アルフィリース殿~、一ついいですかぁ~」

「何かしら、もう準備は終わったはずだけど」

「この傭兵団は~、戦勝の儀式はやらないので~?」


 コーウェンの意見は彼女に似つかわしくない原始的なものだった。確かに出陣前に檄を飛ばすなどの行為をやることはあるが、まさか儀式とまで言ってくるとは思わなかった。そういった儀式はもっと大掛かりな戦でやると思っていたからだ。

 アルフィリースが少々返事を渋っていると、コーウェンが察したように次を続ける。


「次の戦は簡単なものになるでしょうが~、この傭兵団にとっては絶対に負けられない戦でしょう~? こちらの戦力は万全とはいえず~、また傷ついてもいます~。勝てるために可能な事はしておくべきでしょう~」

「それはわかるけど・・・でも、儀式ってどうやるの?」

「この傭兵団の人となりは把握しました~。こういう時にうってつけな人がいますよ~」


 コーウェンはにこりとして、アルフィリースに進言していた。しばしの後、砦の正門前に集められた人間達。そこにはルイとレクサスもいた。



続く

次回投稿は、8/2(金)18:00です。

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