足らない人材、その106~縁③~
次回投稿は、7/31(水)18:00です。
「(お前は傭兵に向かないよ、正義感が強すぎる)」
ラインは今さらながら、その言葉を実感していた。
「(うるせぇよ、ヴリル。俺は俺だ、どこにいっても変わらんさ。騎士でも、傭兵でもラインはやはりラインなんだよ。
まあ偽名使っといて、どの口がほざくって言われるかもしれねぇがな)」
ラインはふぅと一息ついてレイヤーの質問に答えた。
「昔俺に剣を教えてくれた騎士がいた。俺に騎士道を説いた騎士がいた。俺に、常に弱き者の味方たれとその背で語った騎士がいた。誰も彼も、俺には格好良く見えた。幼いながらこうなりたい、男とはああいう風にありたいと考えたものさ」
「そうならなかったの?」
「・・・現実は厳しかった。俺は全部守りたかった。だけど、だから、一番守りたかったものまで失くしちまった。その時から何を守りたいのかわからなくなった。俺には騎士であるだけの度量がなかったんだろう。それだけのことだ。
だが染みついた習性は消せねぇ。俺はいつまでも中途半端な騎士なのさ。さっきの言葉は確かに俺が俺自身に向けたものだ。困った奴がいると、つい手を差し伸べちまう。タチの悪いおせっかいだよ」
「そうなんだ。でも――」
レイヤーは素直にラインの言葉に応えた。偽らざる、レイヤーの言葉であった。
「そのおせっかいで救われる人もいるんじゃないの? 今、僕は少なくとも感謝している」
「・・・小僧が余計な慰めを言うんじゃねぇよ」
「いいじゃないか。それより帰ったらだね、楽しみにしておくよ」
レイヤーはラインの返事を待たずしてその場を去った。後には多少呆然としたラインが残されている。
「・・・ははっ、ガキのくせに言いやがる。こりゃあみっちり鍛えてやらねぇとな。人に何かを教えるのはいつ振りだろうな・・・」
ラインは少し、心のわだかまりが解けたような気がしていた。
***
レイヤーがラインの元を去ってからすぐに、彼の前には別の人物が立ちはだかっていた。
「ちょっといいですかぁ~?」
レイヤーの前に立ったのはコーウェンであった。レイヤーとそう背丈の変わらない女性は、くったくのない笑顔でその場に立っている。
だがレイヤーは知っている。意味のない笑顔を浮かべている者は、本物の阿呆か、その本性を笑顔で隠して知らせないためか、あるいは人をだまそうとしている者だった。レイヤーの見立てでは、この女性は阿呆には見えず、後者のどちらかだろうと判断した。
レイヤーはコーウェンを無視すると、その脇を無言で通り過ぎようとする。
「う~ん、見事なまでの無視ですぅ~。でもその態度はよくありません~。貴方がとっても強いこと、幼馴染にばらしてもよいのですかぁ~?」
「・・・何者だ、あんた?」
レイヤーは荷物をその場に置くと、一瞬でコーウェンを羽交い絞めにして後ろからいつでも首を絞める体勢になっていた。軽く腕に力を込めると、華奢なコーウェンの首などぱきりと折れてしまいそうなくらいたおやかな感触だった。
だがコーウェンは驚くでもなく、少し息苦しそうにしながらレイヤーを説得にかかる。
「まずは力を抜いてもらえませんか~、これではまともに話せません~。心配しなくても、私にはあなたをどうこうする力はありませんから~」
「・・・油断はしない。体勢はこのまま、質問はこちらからだ」
「いいですよ~、どうぞ~」
コーウェンがレイヤーを促した。
「どうやって僕の事を調べた?」
「簡単です~。私は学者ですが、雑学の一環として簡単な魔術は修めました~。私の使い魔がこの砦や戦場には最初から放たれています~。彼らを使って、特に気になる人物を追っていまして~。
あなたとルナティカさんは特に興味深い存在です~。なぜあなたたちにもっと活躍の場を与えないのかと~」
「活躍?」
「ええ~。ずばり、暗殺です~」
続く