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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第三幕~その手から零(こぼ)れ落ちるもの~
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足らない人材、その105~縁②~

「いいだろう、俺でできる事なら教えてやる。ただ俺が使うのは騎士剣だ。お前が今使っている人を殺すための剣とはまるで違う。ルナティカの教えとは随分違うだろうから、混乱するかもしれないがいいか?」

「! ルナティカに教わっているって知ってたの?」

「当たり前だ。戦い方だけでも想像はつくがな。俺だけでなく、当然リサも気が付いているだろうよ。おそらくはアルフィリースもな」

「あの人も?」


 レイヤーの目が丸くなった。リサはともかく、アルフィリースが気付いているとは夢にも思っていなかったからだ。だいたいアルフィリースがそんなそぶりは微塵も見せていないと、レイヤーは感じていた。

 そんなレイヤーの表情を見て、ラインが少し呆れたように物を言う。


「おまえなぁ、あいつがリサのいうように本当に鈍い女だと思っているのか? そんな女相手にこれほどの人は集まらんよ」

「でも、それならなんで一言も何も僕に言わないの?」

「あいつは良くも悪くも人を差別しない。だからシーカーだろうが、ハルピュイアだろうが仲間に入れる。ひょっとしたら魔物でも関係ないかもな。それは子供のお前達でも同じだ。それが良いか悪いか、はたまた度量の広さか何も考えていないかは別にしてな。

 だからあいつはお前達が最初にスラスムンドからついてきた時から、自分の道は自分で選ぶ大人としてお前達を扱っている。だから仮にレイヤーがルナティカの技術を悪用してただの人殺しになろうと、アルフィリースは一言もお前を非難しないだろうよ。だって、そりゃあお前が選んだ道だからな。

 だがその道がアルフィリースにとって何らかの障害となる、あるいはアルフィリースの大切な何かを傷つけると知った時にはお前の事を容赦なく、全力を持って殺すだろう。おそらくは、目に涙を浮かべながら。

 わかるか? そんな女だから放っておけないんだ。少なくとも、今傭兵団の中核にいる連中は皆同じような考えだろうよ」

「・・・そっか」


 レイヤーは少しの間黙りこくっていた。今までアルフィリースの事について本気で考えたことなどなかった。ただ自分達を救ってくれたことに恩義は感じていたものの、それ以上でも以下でもなかった。機会があれば恩を返し、その後は関係ない。そのくらいに思っていたのだ。

 だがどうやら自分達はアルフィリースに守ってもらっていたらしいと知り、レイヤーは何とも言えない感情が内に湧き上がってくるのを感じていた。この感情をレイヤーは言葉で表現できない。おそらくは感謝と尊敬という言葉を。

 レイヤーは自分達を誰より人間扱いしてくれたアルフィリースに、多少興味が出てきた。


「ねぇ、僕が強くなったらアルフィリースの役に立つかな?」

「何を目指して強くなるかだ。目的のない強さなんぞ、ただの暴力と変わらん。カラツェル騎兵隊とかいう連中と会ったろ? それが良い例さ」

「良い例?」

「あいつらは何らかの理由で、強くなる目的を失くした連中だ。奴らの振るう力は何かに捧げた物でありながら、既にその対象を失っている。だが得た力は失われない。だからこそ、奴らはその力を振るうはけ口を求めてさまよい続ける。

 良く言えば大陸を自らの意志で渡る自由騎士団だが、その実情は手段と目的をはき違えた、亡者と化した戦闘狂の集まりだ。奴らに騎士の本懐は決して遂げられん」

「まるで自分に言っているような口ぶりだよ、それ」


 レイヤーの言葉に、ラインがぐっと言葉に詰まる。レイヤーにとってはなんの気なしに放った一言だったが、さすがにまずいと思ったのか慌てて話題を変えた。


「それで? いつから剣を教えてくれるの?」

「・・・この戦いが終わったら、毎夕、食堂の前で剣を振るう」

「え? それじゃあ皆に見られてしまう」

「だからこそだ。お前が力を振るいたくないのはわかる。あれほどの力、人前で振るえば恐怖の対象になることをお前は恐れている。あるいは、もっと他の何かを。

 だからこそ人前で剣を振るわせる。力を押さえることを学べ。他人の目線がお前の枷だ。癖を抑え込んで、一つの型式をお前の中に沁み込ませる。そうするのには、中途半端に強いよりはど素人の方がいい。それにいつまでもその力、人に見せないわけにもいかないだろう。血の匂いに気が付く連中も出てくる。お前が思っているほど、周りの人間は鈍くはない」

「・・・わかった。思ったよりも相当厳しい修行になりそうだ。でも最後に一つだけいいかな」

「なんだ」

「どうして僕に剣を教える気になったの?」


 レイヤーの素朴な質問にラインは詰まった。確かにどうしてかと言われれば、それはラインがお人好しだということに他ならない。問題は、ラインがどうしてお人好しなのかということだ。

 ラインはお世辞にも優しいとは自分で思っていない。泣かせた女は数知れず、裏切った友人は数知れず。だがクルムスで死んだ数少ない友人の言葉が響いた。



続く

次回投稿は、7/29(月)18:00です。連日投稿になります。

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