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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第三幕~その手から零(こぼ)れ落ちるもの~
725/2685

足らない人材、その104~縁①~

***


 混乱した砦内の後かたづけをする中で、フォスティナはある人物を探していた。確か彼女もこちら来ているはずだと、姿が見えないかどうか探してみる。


「傭兵団の補給部隊はいるでしょうか?」

「ああ、それならさっき後方から来たばかりだ。全く、粋な時に来てくれるよ。もう包帯も薬もまるで足りない所だったんだ。今回はアルネリアの援助がないからな、こんな原始的な治療に頼りっぱなしだ」

「だけどそれが普通でしょう。普段の生活にアルネリアの奇跡は期待できないのだから」

「辺境の小競り合いじゃこんな治療はいつものことだがね、それでも人が死に過ぎさ。もうちょっとなんとかなろうってもんだろう、あんたもそう思わないか?」

「戦争ですから」

「俺らがやりたくてやってんじゃねぇ、上がやれっていうから」

「その上もやりたかったとは限らないけど」


 フォスティナは兵士の不満の聞き手にならないよう、会話を切り上げてその場を離れた。兵士の愚痴ももっともだが、今は自分にはやる事がある。自らが使命と定めた案件を追わねばならない。そのために、彼女の協力が必要だった。

 フォスティナは確信していた。この手際の良さは、きっと彼女が現場に出向いていると。フォスティナは足早に人の間を縫って求める人物の姿を探す。すると、その人物はほどなくして姿を見せた。


「やはりいたか、ジェシア」

「あら、フォスティナじゃない。こんなところで出会うなんて奇遇ね」


 二人はにこやかに歩み寄り、そして軽く抱擁をした。だが抱擁した瞬間、互いに鋭い目つきになったのだ。


「フォスティナ。あなたがここにいるってことは、連中がらみ?」

「ここにいるのは別の要件だけど、結果的にそうなりそう。少し時間を取れる?」

「もちろんだわ、私の馬車に行きましょう。そこなら話を聞かれないわ」


 ジェシアは自分の馬車にフォスティナを案内すると、さっと幔幕を閉めた。ジェシアの馬車は緊急の商談などのために防音の処理をひっそりと施してある。これはジェシア以外は知らない事実であった。

 荷物を全て運び出したその馬車の中で、二人はさらに声を控えめにして話し始めた。


「さて、事情を聞こうかしら」

「実はね――」


 フォスティナとジェシアはしばしその馬車から出てこなかった。だがその事実に気が付いている者はほとんどいなかったのだが、暇を持て余していたインパルスだけが二人の姿を見ていたのである。


***


「レイヤー、少しいいか?」

「・・・何?」


 ラインは荷物を持って動き回るレイヤーを呼び止め、建物の一室に招いた。そこは簡易の作戦会議室であり、防音の魔術を施してある部屋であった。本来なら正規軍しか使えないが、実質もはや軍の中では稼働していない。ラインもそのことを知っているから、大胆な行動に出ているのだ。

 ラインは誰にも見られていない事を確認すると、扉を閉めた。中ではレイヤーが少し距離をおいて立っている。その場所は知ってか知らずか、ラインの間合いの外だった。


「(俺の間合いを知っているのか? 居合は見せていないはずだが・・・)」

「ねぇ、何の用ですか? 僕はまだ仕事が忙しいから、もう行かないといけないんだけど」


 あくまで冷静に話すレイヤーに、ラインは少々呆れるところだった。だが言葉尻に騙されるほどラインは愚かではない。レイヤーの足運びは、口調とは裏腹にいつでも戦えるように油断のない構えであった。だがそのことを悟られるあたり、まだ戦闘経験が浅い証拠だろう。ラインは少し安堵したように笑い、レイヤーに無防備に歩み寄った。

 逆にレイヤーはそんなラインに戸惑い、どうしていいのかわからずそのまま突っ立っていた。


「なあ、レイヤーお前、強くなりたいか?」

「・・・あなたに隠すのも今更か」

「ああ、そうだ。で、どうなんだ?」

「・・・ああ、なりたい。以前はどうでもいいと思っていたけど、今は強くなってみたい」

「なぜ?」

「自分が剣一本で何ができるのか、知りたい。だから僕に、剣を教えて」


 その言葉はレイヤーの本心であった。自ら自分の能力を化け物と思い封印するようにしていたが、その能力を解放してもなお届かぬ領域の者達が多数いることがわかった。ならば、自分はいったいどこまで強くなれるのか。戦う者としてごく自然な闘争心が、そこには存在していた。

 レイヤーはラインの戦い方を見て悟った。力と勢いに任せて剣を振るうだけではなく、戦いの中における動きの美しさ。理論と法則に基づく無駄のない動きが、自分には足りないとわかったのだ。

 はたして獣のごとき自分が、ラインのような動きを学ぶことが可能なのか。レイヤーは戦いが終わってから、そのことを自問自答し続けていた。だが学べなければ、これからの戦いは厳しいと理解していた。少なくとも、最後の声の主には抗う術すら持たないだろうと。

 それは自分の望みを表現する術を持たぬレイヤーにとって、初めて抱いた望みであったかもしれない。だからこそ、レイヤーは少し前の自分であれば信じられないような行動に出た。まさか自分が頭を下げて、人に物を頼む時が来るとは。

 一方ラインはレイヤーのまっすぐな瞳を見て、いとおしい物をみたかのようにその頭を撫でた。レイヤーは意外な事をされたせいか、撫でられるがままにされていたのである。



続く

次回投稿は、7/28(日)19:00です。

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