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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第三幕~その手から零(こぼ)れ落ちるもの~
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足らない人材、その100~戦略家45~

「私の知っていることなどそのくらいだ。あの薬品は組織から渡された。投与方法に関しても組織の男の指示に従っていただけだ。それ以上のことは本当に知らん。

 そして私から忠告だ。組織には気をつけろ。やつらはどこにでも現れるし、大陸中の国家で要人が暗殺される時は奴らが全て関わっているといるとさえ言われている。お前達もこれで関わりを持ったことになるし、そもそも組織の人間を雇い入れるなど正気の沙汰とは思えん。奴らはしつこい。どこまでも追ってきて、その女を殺そうとするだろう。巻き添えを食うぞ?」


 ファイファーがルナティカの方をちらりと見たが、アルフィリースはその視線を間に立つことで遮った。


「どんなことがあろうと、一度仲間とした者を私は見捨てないわ」

「それは理想だ。優れた指揮官、指導者とは最低限の犠牲で最高の成果を出す者だ。犠牲の伴わない勝利などありえないのだから」

「だとしても。私は自ら仲間を必要な偽性だと割り切って、見捨てることをしたくない」

「それは人を率いる者としての見解の相違だな。よかろう、そう信じるのならとことんまでやってみるといいだろう。だが忘れるな。やるなら徹底的に貫き通せ、中途半端にはなるな。中途半端になれば、私のような結末になるだろう」

「言われるまでもなく、私はやりきってみせるわ」


 アルフィリースは力強く答えたが、内心では不安でいっぱいだった。用事は済んだとほとんどの者が出て行こうとした時、アルフィリースはさらにファイファーに話しかけた。


「ところで将軍、一つお願いがあるのだけれど」

「なんだ、取引は終わったはずだが?」

「取引は終わったわ、だけど借りは返してもらっていない。貴方の命を助けたわ、一つくらい追加でお願いを聞いてくれてもいいのではないかしら? それに、貴方にとっても悪い話ではないはず」

「言ってみろ、内容による」


 アルフィリースはにっとすると、ファイファーに耳打ちした。するとファイファーがしかめっ面をする。


「なぜそのような事を今さら頼む? どうするつもりだ・・・まさか」

「その、まさかよ」


 アルフィリースの得意げな顔を見て、ファイファーは初めてアルフィリースを見たような呆然とした顔をした。そして呟くように言ったのだ。


「いつだ? いつからそこまで考えていた?」

「最初からよ。この戦争の落としどころはずっと考えていたわ。その一連の流れとして、考えて当然のことだわ。本格的に考えたのは、サラモに帰ってきてからだけど。今なら目がある。むしろ、今でないと目がないはずよ」

「だがどうする? 手数が足らな――あ」


 ファイファーはアルフィリースが何を考えているのかを察した。ファイファーも納得がいったようだった。


「なるほど・・・もしそれができるのなら・・・」

「やれるわ、私ならね」

「よかろう、オズドバに命令して整えさせよう。なんとか集められるだろうからな。早い方がいいな?」

「ええ、すぐにでも」

「よし」


 ファイファーは生き返ったように立ち上がると、急いで命令書を一つしたためた。アルフィリースはそれを受け取ると、満足そうに笑顔で足早に出て行った。何事かとラインとリサが続こうとするが、リサをファイファーが小声で引き留めた。センサーにしか聞こえないよう、本当の呟き程度で。


「・・・なんですか? リサに用事とは」

「最初はどうでもよいと思っていたが、死なすに惜しい女だ。しっかりと守ってやれ」

「貴方に言われるまでもなく。あんなデカ女ですが、私は友人と思っておりますので」

「友とは良いものだ、私にもそう言ってくれる者がいればよかったのだが。だが今の自分達の立場がいかに危ういかお前達はわかっていない。アルネリアの聖女ミリアザールの人となりは私も知らないが、怪しい噂はいくらでもある。たとえば、組織の頂点はミリアザールだとの噂もあるのだ」

「!?」


 リサはその言葉に心底驚いた。その話を否定したいと同時に、ファイファーの表情が今までになく真剣なので何も反論できなかった。

 ファイファーは続けた。


「騙し騙されることが日常に行われる国家の、私からの忠告だ。絶対に信用できる他人など存在しない。必要とあれば親、恋人すらも疑惑の対象になる。お前ならわかると思って伝えるのだ、無駄にするな」

「・・・しかと承りました。頭の隅に置いておきましょう」

「ああ、それでいい。私はこれからガルプス砦に戻り後陣をまとめる。もはやお前達と会うこともないだろう。息災でな」


 ファイファーはその言葉と共に悠然と去っていった。彼にもやることはこれから山積みなのだろうし、それに情にほだされるような人間にも見えなかった。一度たりともアルフィリース達の方を見もせず去っていく。

 リサはファイファーが去っていくのを見送ると、はっとしたようにアルフィリースの後を追うのであった。



続く

連日投稿します。次回投稿は、7/21(日)19:00です。

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