足らない人材、その99~戦略家44~
「この一連の戦争を持ちかけてきたのは組織の方だ」
「組織、とは?」
アルフィリースが問いかける。そういえばルナティカから聞いたことがあるが、ルナティカも自分は駒だから組織の全貌は知りようもないし、知ろうと考えたこともないと言っていた。アルフィリースも当座関係ないと考えていたため放っておいたが、どうやら無関係の話ではないらしい。
ファイファーもここにきて観念したのか、アルフィリースの問いかけにも素直に応じた。
「知らん。大陸に昔からある武器商人かつ、暗殺集団だということくらいしか知識がない。国の運営に携わる王侯貴族ならだれでも知っていて、そして誰もその実態を知らない。運営者はおろか、規模や人数すら不明だ。
だがその連中はある日忽然と現れ、そして私に話を持ちかけてきた。絶対に勝てる戦争をしないか、とな」
「うさん臭いですね」
「その通りだ」
リサの言葉にファイファーは素直に頷いた。
「だが使者の話は的確だったし、何より魅力的だった。正直クライアは国として行き詰っている。戦争がなくなり、自給力に乏しい我が国は他国との国力差が開くばかり。今回のこの戦争となった場所は、黎明期の最後に我が国が奪い損ねた領地だ。何度となく国の上層部ではこの土地を奪う算段がなされたことがある。
だが議論の決着がつかないまま強硬派の者達は高齢や病気などで一線を退き、この話は棚上げになっていた。そこに援助の話だ。食いつきもしよう」
「そして戦争のための工作が行われた、と」
「その通りだ。戦争を起こすまでは組織が仕込み、私の役目は指揮官の任務を請け負う事と、アルネリアの介入を食い止めることだった。幸いにして上層部の議論も私に味方した。名目は立つ戦争だし、私という辺境の公子が死んでも国に大きな痛手はない」
「自分で言うなんて悲しくない?」
「だが事実だ。私も自分国内での立場くらいはわきまえているつもりだ。だがそれでも私には国を愛する気持ちがある。多少強引な手段を使っても、現状を打破せねば遠からずクライアという国家は解体される。おそらく見た目は平和的に、アルネリアという組織に都合の良いようにな」
ファイファーの言葉にアルフィリースはむっとした。ミランダとミリアザールというアルネリアの頂点の二人を知っているアルフィリースにとって、ファイファーの言葉は受け入れがたいものであった。
「アルネリアが? 聞き捨てならないわね」
「そうか、貴様達はアルネリアの尖兵だったな。今回の仕事、アルネリアに依頼されたのではないか? たとえば、自分達が介入できるように隙を作れ、などとな」
「なっ・・・」
「図星か」
ファイファーがふん、と鼻を鳴らした。アルフィリースはしまったという顔をしたが、リサがちらりとアルフィリースを睨んだだけで、誰も大きく反応をしなかった。
だがアルフィリースは負けじと言い返した。
「アルネリアの上層部には私の友人もいるわ。確かに彼らに借りはあるけど、彼らが私を利用するとは思えないわ。私は彼らの事をよく知っているのよ」
「人間など立場によってどうとでも変わるものよ。特に権力者というものは嘘が上手い。いや、嘘と自分ですら認識せずに嘘をつく。自身すら騙す嘘は、もはや誰も嘘とは見抜けない」
「ならば嘘もやがて真実となるわ。私は友人を信じたい」
「若いな、だがそれもよいかもしれん。私には既にないものだ。だからこそ私の計画は失敗したのだな。おそらく裏切り者はグランツだろう。奴を捕まえて吐かせてみろ、組織とのつながりが何らか出てくるかもしれん」
ファイファーの冷めた言葉に、今度はラインが反応した。
「公子殿、グランツってのはあんたの副官じゃないか。それが裏切っているって言うのか?」
「そうだ、俺以外に計画の全容を知るのはグランツしかいない。今回の計画に不手際があったとしたら、奴に違いないだろう。それに奴は私と先ほど別行動をしていた。私を消すように命じたのも奴かもな」
「・・・なるほど、その可能性はあるか。まあ捕まえて聞いてみるにこしたことはないか」
「すぐに誰か人を向かわせる。アタイの部下がいいだろうな」
「頼む」
「リサのセンサーにはひっかかりません。まだセンサー阻害の魔術が生きている建物の中にいるか、あるいは遠く脱出したかのどちらかです。まずは建物の中をくまなく探した方がいいでしょう」
「そうするよ」
ロゼッタがすぐさま部屋を出てグランツを捕まえる手筈を取った。既にどこかに脱出した可能性も否めないが、そうなればもはやグランツを追うのは難しいだろう。
ファイファーは今までの強気の態度が嘘であったかのように、静かに話し続けた。
続く
次回投稿は、7/20(土)20:00です。