足らない人材、その98~戦略家43~
「お邪魔してもよろしいでしょうか~?」
「・・・忙しいわ、後でもいいかしら?」
「私ならその忙しさ、解決できるかもしれませんよ~?」
コーウェンの間の抜けた口調とは裏腹の内容に、アルフィリースだけでなくファイファーも興味を惹かれたようだった。
ファイファーが皮肉を込めてコーウェンに言葉を投げかけた。
「ほう、それは貴様が俺をどうにかすると言う事か?」
「そうです~。っていうか、もう少し危機感を持たれた方がいいかと思いますよ、辺境の公子様ぁ~? 貴方のお立場、今この場でアルフィリース様と私の一存にかかっていることをお忘れなきよう~」
コーウェンはそう告げると、懐から一通の手紙を取り出した。その手紙は既に封を切っており、内容を確認した後だと言うことが見てとれる。
ファイファーが訝しむ中、コーウェンはその中身を読み上げた。
「ここにはとある重大な秘密が書かれています~。なんだと思いますかぁ~?」
「知らんな。私の関わる事はおおよそが国の一大事だ。思い当ることが多すぎるな」
「貴方の領地の詳細な金の動き、それに領地からの兵士の徴収状況ですよ~」
ファイファーの眉がぴくりと動く。アルフィリース達はまだこの話の流れにぴんと来ていない。だがファイファーには何かまずいという思いがあるのか、口調が先ほどと違い、コーウェンを咎めるような口調になっていた。
「だからどうだと? というより、どうやってその情報を手に入れた?」
「入手方法はいくらでも~、クライアは貧しい国~。ちょっとお金を支払えば、欲しい物はたいてい手に入りますよ~。それより~、ここに書いてある情報が驚きです~。ファイファー様は随分と前から大量の税を領民から徴収していますね~、領民の暮らしはおかげで相当厳しいもののようです~。でも一般会計の帳簿からは出て行っていないお金ようですから~、一体何に使われたんでしょうね~?
さらに、兵士の徴収も半年以上も前から行われていますが~、この戦いを起こす気満々だったと思ってよろしいですか~?」
「・・・違うな。クライア国内では魔物の発生が非常に多い。今回は大規模な征伐のために新たに兵士を徴収したのだ。訓練の期間を考えればそのくらい当然だ。
金も彼らの装備を整えるために使用した。色々な場所から装備品を取り寄せたから、記録が散逸しているのかもな。領民は私の子どもも同然、無暗に死なせるわけにはいかんからな」
「魔物との戦いを想定した物資の動きには見えませんが~・・・まあそこはよいでしょう~。この証拠はあまり出したくなかったのですが~仕方ありませんね~」
コーウェンは懐から小瓶を取り出した。その中には赤い液体が入っている。その液体を見て、ファイファーの顔色が変わった。
「貴様、それは・・・」
「この建物の下にはほとんど残っていませんでした~、誰かが既に破壊・証拠隠滅工作を行った後のようですね~。ですが私は別の経路でこの液体を入手していましたが~、建物の下にあったものはこれと一致しました~。魔女のミュスカデに確認させましたから、間違いありません~。
さてファイファー様に質問です~。この液体はなんですかぁ~? 私は既に知っておりますが~、正直に申していただけないのなら~、しかるべき場所~たとえば魔術教会や国際司法府などに提出してしかるべき裁きを受けていただくこともできます~。
もしそうなれば~、さすがに王家に連なる者を処刑はしないでしょうが~、領地は没収、お家は断絶~。まあ王位を奪うなんてことは夢のまた夢~なんてことに~」
「!?」
ファイファーの顔色は青を通り越して、完全に真っ白になっていた。そして徐々にではあるが、コーウェンのたたずまいには凄味が出てきていた。小柄で細身で、知性的ではあるがお世辞にも迫力のある顔つきではないのに、コーウェンは威圧感を持って確かにファイファーを圧倒していた。
コーウェンは続けた。
「まあ私としてもそこまでするつもりはありませんので~、ここで今までの全ての流れを包み隠さず話していただければ十分かと~。これは取り引きです~」
「それでこの話を忘れるだと? 都合がよすぎて信用できんな」
「クライアが人を信用しない国民性なのは知っていますが~私も冗談で取引という言葉は使いません~。それに私には十分な旨味がある話なので~、信用して包み隠さず話してほしいかと~。
そうしなければ、貴方の身も危険でしょう~。さきほどまでみたいに~組織に狙われ続けますよ~?」
コーウェンの最後の一言は決定的だった。ファイファーはしばし考えると、先ほどまでの強固な態度が嘘のように滔々と話し始めたのだ。
続く
次回は連日投稿です。7/18(木)20:00です。