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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第三幕~その手から零(こぼ)れ落ちるもの~
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足らない人材、その93~戦略家38~

「これでよし。あの汚い唾でもかけられた日には、気分が落ち込むどころの話ではないからねぇ。これでデカブツが傷ついてもこちらに被害はない、と。

 それにしてもライフレスも随分と勝手な事をしてくれたわ。あの男が炎の大魔法なんか使ったせいで、ここいらの精霊の組成がぐちゃぐちゃ。偉そうなことを言う割に、収まりが悪いのよね。美しいとは言い難いわ、ほとんど精霊がまともに起動しない。大地そのものに傷をつけるなんて、なんて傲慢な魔法の使い方なのかしら。

 まあ起こったことは仕方ないわね。そのまま風の精霊を使いますか。この体も疲弊しているし、今日は工夫が必要ね」


 そう語るアルフィリースの髪色が、緑にみるみるうちに変色していった。そして瞳まで緑に変色したアルフィリースはその眼を躍らせるようにラーナとミュスカデに向けた。


「ああ、2人は傍にいなさい。手伝ってもらうから」

「手伝う?」

「まあそこにいなさい。決して悪いようにはしないわ」


 アルフィリースはにこりともせず、ドルンの方を見た。その頃ドルンはアルフィリースが起こした風によって巨体を揺らされ、まともに立っているのも難しい状況であった。

 アルフィリースはドルンが背中の翼を広げて飛び立とうとしながらもままならない姿を見て、アルフィリースはくすくすと笑った。


「馬鹿じゃないの、わざわざ空に逃がすはずがないわ。まあ空に逃げてもどうにでもできるけど。それも面倒くさいから、ここで死んでもらうわ。

 とはいえ、この体も今日は相当ガタがきているから、ちょっとズルさせてもらうけど」


 アルフィリースは両手に魔力を込めて風を集めると、小さな円から始めて、両手を広げた大きな円を描くように、徐々に円を大きくした。するとアルフィリースの目の前に、竜巻を横にしたかのような風の流れができたのが見えた。


ブリーズ小剣ブリンガー


 アルフィリースが唱えたのは、詠唱すら必要ないほどの短呪。通常であれば木の板をなんとか貫通できるくらいの、殺傷能力に乏しい魔術。魔術教会では、風の魔術士が最初に覚える呪文だった。

 だがアルフィリースが放った魔術は直線に飛ばず、アルフィリースの前で風の渦に巻き込まれるようにして円を描いて飛んで行った。そして風の中で、風の小剣は威力を増し、ドルンに襲い掛かったのだ。木の板を打ち抜く程度の威力しかないはずの魔術は、咆哮のような風の音と共に、ドルンの羽を、体を貫通した。


「ギャオオオオ!」

「まずはこれで飛べないでしょう。次は・・・炎の魔女、来なさい」

「私か? 私に何をさせようって言うんだ?」

「小さい火球をできるだけ沢山作れるかしら?」

「? まあできなくはないが・・・」


 ミュスカデは出来る限りの炎の玉を空中に作り出した。それは明かりを灯す魔術の一種。光源としての火球なら一つで十分だが、別段難しい魔術でもないので、たくさん作れと言われれば30個ぐらいはなんとかなった。

 そしてその光景を見ると、アルフィリースは満足そうに微笑む。


「いいわね、そのまま維持してなさい。何があってもね」

「はあ?」

「背中を向けなさい」


 ミュスカデは言われるままに従ったが、アルフィリースがミュスカデの背中に手を当てると、背中を通じてまるで火を入れられたように体が熱くなるのを感じた。それは体の中にもう一つ別の血液を無理矢理入れられたような感覚。

 ミュスカデは湧きたつ力に声を上げることもできずに、ただただそのまま押されるように前に歩き始めた。ミュスカデが作った火球は勢いを増し、一つ一つが人の頭よりも大きくなり燃え盛っていた。


「こ、これ! どうするんだ?」

「そのままよ、そのまま進めばいいわ」

「! そういうことか」


 ミュスカデ納得すると同時に、最も前に作成された火球が竜巻の中に入った。そして一つの火球が風の流れに乗り引き延ばされると、まるで炎の槍のようになってドルンに突き刺さった。

 ドルンは悲鳴を上げたが、容赦なく炎の槍は襲い掛かり彼を串刺しにした。まだ命の予備があるドルンは再生を繰り返すのだが、再生する肉を後から後から削るように炎の槍は殺到した。

 そして炎の槍が尽きる前に、アルフィリースは次の行動に出た。ラーナの頭に手を置き、彼女の最も得意な魔術、≪ブラック呪縛スネイク≫を唱えさせていた。

 だがラーナが呼び出したのは蛇とはもはや程遠い、竜ともいえるほどの大きさの蛇だった。巨大に成長した蛇は竜として崇められる種類もあるのだが、ラーナが作り出した魔術はまさにその規模であった。


「これは――」

「別に驚くことはないわ。ちょっとした貴女の魔術の流れを活性化しただけよ。貴女に素養がなければこんなことはできない」

「それはつまり、私は将来的にこのような力を使いこなせる可能性があると?」


 ラーナの指摘にアルフィリースと化した影は不敵に笑った。


「私の意図、理解してくれたようで何よりだわ」

「狙いが見えません。私にこのような事を教えるのは不利では?」

「そうでもないわ、こんなのは魔術を扱う上でのコツの一旦よ。まだ精霊が豊富な頃は誰もが使えた技術。ライフレスも知っていることよ」

「? あなたは一体――」

「おしゃべりが過ぎたようね。放ちなさい」


 影がよりラーナの魔術を後押しすると、闇の蛇はラーナの意志とは関係なく放たれた。蛇は巨体をうねらせながら地面を這い、建物などを突き抜けながらドルンに殺到した。



続く

次回投稿は、7/9(火)21:00です。

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