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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第三幕~その手から零(こぼ)れ落ちるもの~
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足らない人材、その92~戦略家37~

「どきなさい、混血児」

「ああ!? テメェ、アタシにその言葉を言うってことは命がいらねえってこと―」


 ロゼッタは激昂しかけて口をつぐんだ。獣は本能で戦ってよいかどうかを悟る。ロゼッタもまた同様であった。ゆえに気が付く。今アルフィリースに逆らうのは、木の枝で竜に挑むのと同じくらい無謀だと。ロゼッタは無言で青ざめながら、アルフィリースに道を譲った。

 そのアルフィリースは、首を鳴らしながらドルンに対峙していた。まき散らす殺気に、ドルンが反応する。そして上空のアマリナや、あるいはマックスの取り巻き達も。


「何アレ」

「マックス、忠告するわ。あれは今殺した方がいいかもしれない」

「そうね、陰に生きる我々だからわかる。あれは今殺した方がいいわ。巨人よりも厄介かも」

「待て、様子を見る。どうやらデカブツとやってくれそうだ。やるならその後がいいだろう」

「ならばその準備をするべきね。仕掛けておくわ」

「そうしてくれ」


 マックスの号令一下、彼の取り巻きは散っていった。マックスはアルフィリースの危険を感じてしまったので、今彼女が別の傭兵団の団長などということはすっかり忘れていた。ただマックスは戦士の本能に従い、危険な敵を排除することにのみ意識が集まっていた。この後どうするのかなどとは、本当に考えていなかった。

 そして彼らの動きを見ながら、フォスティナもまた背筋に嫌なものを感じていた。


「自然なのに、自然じゃない。あれを何と表現すればいいのだろう。異質だね、私が出会ったどの存在よりも。殺すべきか守るべきなのか、まるで判断がつかない」

「君でも迷うことがあるのだね、フォスティナ」


 フォスティナの背後からふっと声がした。フォスティナはぎくりとしながらも、その声の正体には気がついていた。自分の背後を取れるものなど限られているのだ。


「いつも背後から忍び寄るのはやめてくれないか、アーシュハントラ」

「忍び寄ってはいないさ。私の気配が風に紛れてしまうだけさ、なにせ私は風来坊だからね。あるいは、私は君の驚く顔が見たくてそうするのかも」

「またそんな減らず口を」


 フォスティナは呆れたようにため息をついたが、決して気は抜いていなかった。まだ今は戦闘中なのだ。だが不思議な安堵感はある。アーシュハントラがいれば、なんとかなる。勇者として先輩にあたるこの男は、不思議と誰よりもそのような安堵感をフォスティナに与えてくれた。


「なぜここに来た」

「風に導かれて」

「私を煙に巻く気か?」

「本当に風に導かれたんだよ。だけど、時は満ちていなかったみたいだ。私はこの場は見守るとしよう。だがあれが例の傭兵か・・・ふむ」

「珍しいな、あなたが他人に興味を示すなんて」

「風向きによってはそんなこともあるさ」


 気まぐれなアーシュハントラが特定の人物に興味を示すのは珍しい。アルネリアの最高教主の依頼すら気分次第で反故にするこの男が、誰かに興味を持っているのをフォスティナは初めて見た。

 その気性さえ風のようでなかったら。一人で世界平和を成し遂げてしまうのではないかというくらい偉大な男だと、フォスティナは密かに尊敬しているのだが。そんなフォスティナの思惑など、まさにどこ吹く風だと言わざるをえない。

 アーシュハントラがアルフィリースを見て、面白そうに眼を輝かせていた。


「フォスティナ、剣の準備をしておくといい。君があの巨人にとどめを刺すんだ」

「まるで予知のようだな」

「予知ではないさ。精霊がそう教えてくれる」

「またそれか。私には魔術の素養はないんだ、もっとわかりやすく教えてくれ」

「君には素質はあるよ。いや、この大地に生きる者は皆素質があるんだ。そのことを皆忘れている、あるいは気づかないだけさ。

 だがあの少女、随分と面白い育ち方をしたね。そうか、彼女はああなったのか。それはそれで面白いが――多少釣り合いが取れないか」

「? 何の話をしている?」

「いや、独り言さ」


 いつまでも傍観者気取りではいられないか、とアーシュハントラはひとりごちた。だが自分が表に出る時のための準備もしている。今日ここに来たのは時節を見計らうためなのだが、アーシュハントラは先ほどから心がざわついて仕方がなかった。それがアルフィリースの力のせいだということもわかってはいたのだが、いざ目の前で見ると想像以上の出来事ではあったのだ。


「(ふふ、私もまだ若い。あのような少女に心乱されるようでは)」


 アーシュハントラがフォスティナに悟られぬように笑った時、アルフィリースの方から今度は殺気ではなく、本物の風が吹いてきていた。

 アルフィリースから放出される風は不思議な事に、ドルンにとっては暴風のように感じられたが、アルフィリースの後ろにいる仲間にとっては微風より少し強い程度の風だった。

 その風はどんどん強くなると、ドルンが前に歩くのも難しいくらいの強さになる。ドルンが少しよろめくのを見て、アルフィリースとなった影はニタリと笑った。



続く

次回投稿は、7/7(日)21:00に投稿します。

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