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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第三幕~その手から零(こぼ)れ落ちるもの~
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足らない人材、その90~戦略家35~

「おい!」


 ラインが思わず手をレイヤーに差し伸べたが、レイヤーはそれをぷいと無視し、逆に地面を蹴って勢いをつけ、6番の体に乗るようにして落下した。


「逃げてみろ、折れた両手でできるなら」


 レイヤーは6番の頭を押さえつけながらその言葉を吐いた。そして6番は本当に自分が動けない事を知ると、目を見開いたが、その直後穏やかな表情になった。その表情におかしなものを感じたレイヤーは口を押えていた手を思わず放した。そして確かに聞いたのだ。地面に落下し、6番の頭が砕けて死ぬまでに数秒もなかったであろうわずかな時に、確かに6番はこう言った。


「覚えましたよ、あなたの顔。またどこかで会いましょう」


 と。


***


 そのレイヤーが外に飛び出した建物の屋上で、激闘が繰り広げられていた。ルナティカ、レクサスと4番の戦いである。

 4番はルナティカとレクサスを相手にしても一歩もひかず、それどころか逆に二人を追い立てるような戦いぶりを見せていた。ルナティカやレクサスは尖塔をうまく使いながら4番の猛攻をしのいではいるが、それにも限界があった。行き着く暇もない攻防が一段落し、互いが距離を取る。


「ふい~、こりゃあしんどいっすわ。銀色のお姉さん、あの人何者です? こんなのが戦場にいるなんて、聞いたことねぇんすけど」

「余計なおしゃべりはしない。死ぬ」

「いいじゃないっすか~これから殺す相手の事はちょっとでも知っておきたいですし」


 レクサスの不遜な物言いに、ルナティカも4番もレクサスの方を見た。押しているのは4番だと、誰もが思っている。にもかかわらず、レクサスは自信満々だった。そのレクサスはへらへらしながら、剣をくるくると手の中で遊ばせていた。


「で、何者なんです?」

「・・・ある暗殺組織の教育係。私はあの男に殺しの手管を教わった」

「なるほど、戦い方が似てるっすね。でも本当にその仮面男は性格が悪い。戦い方を教えながら、敢えてお姉さんの戦い方に癖を作り、自分が仕留めやすいようにした。裏切られた時の事を想定してね。

 それでもここまで持ったのは、単純にお姉さんが素質でその男を上回るから。仮面男はお姉さんを恐れていたんすよ」

「馬鹿な、そんなことが」

「あるんでしょうねぇ。でもそれもここまでっす。残念だけど、やっぱりその仮面男は芯から暗殺者なんっすよ、お姉さんと同じで。暗殺には慣れていても、正面切っての戦いには慣れていない。圧迫感がないんすよね~、戦い方に。そろそろやり方も把握したんで、ちゃっちゃと死んでもらいましょう。

 ああ、ちょっと邪魔しないでくださいね。これから本気でやるんで、間違えると巻き込みかねないっすから」


 レクサスがゆらゆらと揺れながら4番に近づいていく。その動きは不自然で読みがたく、まるで酔っぱらいが歩いているようだが、動き自体の速度はとても常人では真似できない揺れ方だった。4番は小剣コルセスカを構えながらレクサスに対峙したが、明らかにレクサスの動きに幻惑されているようだった。

 レクサスはいつものへらへらしている様子で、無造作ともいえる動きで4番に近づいた。


「ほんじゃま、行くっすよ?」


 レクサスの掛け声とともに、ぬるりとした動きでレクサスが一気に距離を潰した。剣は振らず、肩を入れたり足を踏み込む動作だけで4番を後退させていた。そして近づくたび、レクサスの動きが速くなった。その動きに思わず4番は守勢に回ってしまう。この戦いの中、初めて4番が守りの動きを取らされた。

 ルナティカはレクサスの動きに目を見張った。レクサスの動きは非効率的だった。狙いは大雑把だし、当たっても4番を死に至らしめる事はない攻撃が多い。だが一見出鱈目に見える攻撃は速く鋭く、なによりレクサスに馴染んでいた。これが本来の戦い方であることは明白であったが、ルナティカには考え付かない戦い方だった。

 暗殺は一撃必殺。殺し損ねることは正体の露見にもつながるし、そのまま暗殺者としての終わりを意味した。だからルナティカは人を殺すということは、急所をいかに素早く確実に貫くかという事だと思っていたのだが。


「(なるほど、これは暗殺ではなく戦い。戦い方は多種多様ということか。それなら)」


 ルナティカがふと思いついたことを試そうとした瞬間、レクサスの攻撃がついに4番に何撃か命中した。一度相手に攻撃が当たると、獣の群れが群がるがごとくレクサスの攻撃は繰り出される。そのうちの一つが4番の仮面を斜めに斬り割いたのだが――



続く


次回投稿は、7/4(木)21:00です。

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