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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第一章~平穏が終わる時~
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首脳会談、その2~密約~

「この事は内密にしてほしい。教会でも何人かしか知らないし、当人にも決して話さないように。実はアルフィリースの誕生前後、占星術や何やらがおかしくてね」

「おかしい?」

「ああ、実は彼女の誕生した年月の前後で不思議な占星術が多発している。最初に出た占星術は『この地に祝福されし子が生まれる』だった。別に魔術的な要素は示されておらず、最初は偉人の誕生を示すような予言だった。だがそれからしばらくしてその予言は変わり・・・『この世を闇に閉ざす魔王が誕生する』になっていた」

「なんじゃそれは? 占星術が変化するなどありうるのか?」


 ミリアザールはテトラスティンを問い詰めるような表情であったが、テトラスティンも渋面をするのみであった。


「わからない。そもそも予言が同一人物を指しているとも限らないし、そもそもそれがアルフィリースのことだったのかという確証は何もない。占星術は所詮占星術だ。占星術を元に優れた魔術士を探すとはいえ、必ずしも当たるとは限らない。調査はさせたが何も分からずじまいだった。で、しばらくしてアルフィリースの存在が報告された。最初はあの子を滅びの魔王と関連付ける説もあったんだ」

「なんじゃと?」

「何の訓練もされてない10歳の女の子が、征伐部隊の精鋭10人をいとも簡単に退ければそれはねぇ・・・教会としてもさらなる戦力をだすことはできたけど、その前にアルドリュースが助けに来た。彼の名前を知らない者は魔術教会にもいなかったし、彼の特性も相まって教会は納得したのさ」

「たしかあやつは・・・封印魔術が専門じゃったか?」

「そうだね、しかも歴代でも有数だった。だから皆納得したのさ。アルドリュースが監督するならって。だけど・・・」

「奴は死んだ」

「そう。それでその問題を蒸し返す奴らがいる。アルフィリースを放置するのは危険なんじゃないかって。過激な連中は今のうちに彼女を暗殺してはどうか、という者までいる」

「そんなバカな話があるかっ!」


 ミリアザールが思わず激昂するのを取らスティンが抑えた。


「確かにそうだが、さらにバカな話がある。彼女がアルネリアのシスター・・・アノルンだったか? と共に行動しているのを見て、アルネリア教がアルフィリースを抱き込んで何か企んでいるとする者までいるくらいだ」

「・・・暴論も極みじゃのう」

「僕も同意見だ。心配しなくてもその意見はまだごく一部。ただなんにせよ統率がとれているとは言い難い集団だ。警戒するにこしたことはないし、彼女たちにもそれとなく伝えておくといいだろう。魔術教会は必ずしも信用ならないってね。

 こんな世の中の状況で魔術教会とアルネリア教会が真っ向対立、なんてまっぴらごめんだ」

「わかった。特にお主が教会の長を外される、なんてことにはなるなよ?」

「それはわかってる。だが彼女がもしうちの教会の者を手にかけでもしたら・・・その時は僕の権力では抑えられない行動が起きるかもしれない。その行動にうかつに反発すれば僕自身が今の権力の座から追われかねない。その点だけは承知しておいてくれ」

「いいだろう」

「で、だ。君とはこれからも頻繁に連絡を取りたい。それで僕の信頼できる部下を連絡に使いたい。エレオノール、ニックス、出てこい」


 そして音も無く出てくる、青いマントとフードをすっぽりとかぶった2人。名前から男女1人ずつだろうと推測できた。


「この2人を連絡役に使う。以後彼らへの連絡方法は2人それぞれから聞いてくれ。2人とも連絡方法は違うだろうからね」

「えらく準備がいいことじゃな」

「これぐらいじゃないと、こっちの教会ではやっていけないんだよ」


 その時リシーがドアをノックする。


「ご主人様、召喚士派閥のエスメラルダ様がお見えになっております。お取り次ぎなさいますか?」

「5分待てと伝えろ」

「ではそのように」

「だ、そうだ。短い時間しか確保できなくて済まないね、ミリアザール」

「いや、有意義であった。こちらこそ礼を言う」

「今度はゆっくり晩御飯でも食べたいところだ」

「それはこちらも構わんが、なにせ互いに自由な時間がないでの」

「全くだ。ではまた会おう」


 そういって書斎の本をテトラスティンががたんと動かすと、机の下に隠し階段が出現する。


「既に転送魔術は起動させてある。即座にアルネリア教会の自室まで帰れるはずさ」

「よく座標設定ができたのう」

「この前使い魔で部屋まで行ったろう? その時にちょっとね」

「油断も隙もないの・・・転送魔術で夜這いなんぞかけにくるなよ?」

「それは来て欲しいっていうネタ振りかい?」

「違うわ!」


 悪態をつきながらミリアザールが部屋を後にする。その姿を笑顔で見送った後、威圧感さえ感じる真剣な表情に戻るテトラスティン。彼はミリアザールの前でこそこんなくだけたキャラだが、魔術教会内では屈指の武闘派として知られており、恐怖と力でもって他の派閥を押さえつけている。自分に面と向かって逆らい、魔術教会の結束を乱そうとした物を全員の前で粛清したこともある。そんな側面は好いた人には見せたくないものだと考えるテトラスティンだった。


***


 ここはアルネリア教会、ミリアザールが執務を行う深緑宮に通じる門の前。見張りの兵士達が会話をしている。彼らの会話の内容はおおよそ自分の娘がどうだとか、今日の晩飯は何にするだとかという他愛もないものだった。

 世界一平和とされるここアルネリアで、彼らが見張るのは目の前を通る通行人の数くらいのものである。盗人すらほとんど出ないこの土地なのだ。見張りの人数をもっと削減しろという苦情まで出る始末なのである。

 当然、今日の見張りである兵士達にもさほどのやる気は感じられない。


「ふあ~あ、眠いなぁオーディス」

「しっ! ラファティ様に見つかったら罰として都市外周とかになるぞ、ランドー?」

「だってよお・・・こんなアルネリア教会本部の正門の守衛なんて暇じゃないか? 誰が攻めてくるわけでもなし、偉い人の対応は別の取り次ぎ役がやるわけだし」

「確かにそうだが・・・」

「ちょっとくらい気を抜いたって罰はあたらないよ」


 ランドーはその場にあぐらをかいてみる。さすがにそれはまずいとオーディスがたしなめようとした時だった。


「そうとはいえ・・・お、おい」

「だいたいラファティ様は確かに強いけど、まだまだ20になったばかりの若造じゃん? そんなにビビらなくてもいいっての」

「ランドー、う、う、後ろ・・・」

「後ろが何・・・ひぇっ!?」


 後ろにニコニコしながら立っているのは、彼らにラファティと呼ばれた青年。とても優しそうな風貌に、まだどこか少年の雰囲気を残す好青年。それがニコニコしながら愛想よく立っている。だがその通称は『微笑みの悪魔』と言われる青年である。


「なかなか面白そうな話をしているね」

「いえ、あの、その・・・」

「な、なんでもありません!」

「うん、それならいいんだ。1つだけ間違ってるところがあるから訂正してもいいかな?」

「「何なりと!!」」

「外周は1周じゃなくて、5周だよ。はい、すぐに行ってきなさい」

「えーと、確か一周10kmはあるから・・・50km??」

「そ、そんな無茶な・・・」

「おっと、言い忘れてた・・・もちろんフル装備で走るんだよ?」

「う、うへぇ!」

「私が悪うございました!」

「早く行かないと行軍装備もつくけど・・・」

「「喜んで行かせていただきます!!」」


 全速力で走り去るオーディスとランドー。その2人に笑顔で手を振るラファティ。周囲はその様子をガタガタふるえながら見守っていた。

 ラファティ。フルネームをラファティ=ファイディリティ=ラザール。アルベルトの弟で、3人兄弟の次男である。彼は20歳という若者ながら、既に結婚して1子をもうけている。現在の立場はアルベルトの副官補佐。もちろん武勇の程は神殿騎士団内中に知られる豪傑の1人である。獲物はアルベルトと異なり、双剣ではあるが。いつも笑顔を絶やさないが、部下にも自分にも人一倍厳しい人物として知られ、神殿騎士団内ではアルベルト以上に恐怖の対象でもあった。そしてあのあだ名がついたと。そんな彼が目にとめたのは1人の少年。


「やあ、ジェイク」

「げっ! ラファティ!!」

「目上には『さん』をつけなさい?」

「な、何のようでしょうかラファティ『さん』」

「うん、時間が空いたから君に稽古をつけてあげようと思ってね」

「慎んで遠慮させていただきます!」

「ははは、慣れない丁寧な言葉づかいをするもんじゃないよ。そこは『はい』でいいんだよ?」

「い、いやだー!」

「ははは、可愛い子だ。そんなに遠慮しなくてもいいのに」

「ダレカタスケテー」


 だが全員がジェイクに向かって合掌をしている。ラファティにしてみればジェイクはいつも兄のアルベルトにまとわりついているので、少しでも兄の時間的負担を減らそうとジェイクの相手を買って出ているのだが、それがジェイクにとってはただの拷問であることはあまり意識されていない。ただ数年後にはジェイクはこの拷問に感謝することになるのだが。


***


 そしてこちらは外周を走るため外に向かおうとするオーディスとランドー。


「20kgの装備を背負って50km走れって? 死んじまうよ・・・」

「昔それで死んだ奴いたよな。伝令競技の発症だっけ?」

「いや、それより長いだろうよ」

「これは・・・死ぬな」

「トホホ・・・」


 そんなうなだれた2人が外に出ようとすると、正面にフードを深くかぶった少年が立っている。少年の様子から彼らは旅人だろうと察し、純粋な老婆心から声をかけた。


「おや、坊や。何かアルネリア教会に用事かな?」

「ええ、アルネリア教会の本部へはこちらでいいのですか?」

「そうだよ。でも通常の参拝や祈りはここから500m程向うに行った門だけど。本部に用がある人は予約か紹介がないとだめだけど、何か紹介状のようなものはあるかい?」

「いえいえ、そんなものはありません。だって・・・それじゃ面白くないじゃありませんか?」

「! いかんランドー、離れ・・・」


ゴキィ!


 ランドーは剣を抜く暇さえなく首をへし折られた。目の前でこと切れる友人の様子を見もせず、オーディスは非常用の笛を吹く。


ピイィィィィー!


 高い音が一瞬にして響き渡り、アルネリア教会の空気が一瞬で緊張するのがわかった。その行動を見て少年が素直に賛辞を贈る。


「やるね。剣を抜くより早く、仲間の生死よりも警笛とは。自分の身より教会を優先ね。よく訓練されていて、やるべきことがわかってる。さすが、と褒めておくべきかな」

「何者だ小僧! 魔物の類いか?」

「さあ・・・どうでしょう?」

「ふざけるな!」


 剣を抜くと同時に少年に斬りかかるオーディス。一般兵士にしては見事な判断、剣速、身のこなし。が・・・


「相手が悪いね」


 手を捻じ曲げ、自分の剣で喉元を突き刺すように仕向けた少年。その剣が喉を貫通し、ガクガクと痙攣しながら断末魔すらあげることなく倒れるオーディス。

 だがそれと同時に門からはバラバラと他の守衛達がかけつけてくるのが見える。


「フフフ・・・対応が流石に早い。これは楽しめそうだね」


 フードを外しその中から出てきたのは、もちろんドゥーム。


「さあ、お楽しみの時間だ!! あらん限り楽しもうぜ、ボクの女神達!」


 そして姿を現した4人の女達。いままさにドゥームとアルネリア教の戦いが始まろうとしていた。



続く


次回投稿は12/2(木)15:00です。

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