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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第三幕~その手から零(こぼ)れ落ちるもの~
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足らない人材、その85~戦略家30~


***


「なんだあのデカブツは?」

「んだよ、聞いてねぇぞ」

「どうやら事態は思わぬ方向に向かっているようだな」


 ドルンを飛竜の上から見下ろしながら焦るマックスとラグウェイを余所に、アマリナが冷静な意見を下した。アマリナは冷静に戦況を分析し、何をすべきかを探している。そして彼女は地面から何か光ったのを感じ、そちらに目を向けた。その方向には、呪氷剣で光を反射するルイがいた。

 そのままルイは反射を二回繰り返す。アマリナはその意味を理解した。


「このままルイの援護に入る。我々は空からあのデカブツの頭を押さえる。できるな?」

「げっ、あんなんとやるのかよ? 俺は嫌だぞ」

「俺もだ。かったりぃ」


 やる気のなさそうな男二人を見て、マックスの取り巻き達が不平不満を漏らす。


「あ~ん、マックスださぁい」

「ラグウェイのいけずぅ~」

「私の飛竜の上で騒ぐな、貴様ら。第一定員をかなり超えている。私の飛竜は我慢強いが、そろそろ限界だ。戦うのが嫌なら、ここから振り落とすが?」


 アマリナの冷たい物言いに、顔を見合わせるマックスとラグウェイ。


「しゃあねぇ、やりますか」

「あ~あ、とんだ貧乏くじだ。恨むぜ、ヴァルサス」

「あと私の竜の背中で煙草を吹かすのを止めろ。この子が怒ったら全員お陀仏だぞ」

「しょうがねぇだろ、仕込なんだよ」


 ラグウェイは面倒くさそうに背中の袋から掌に丁度乗るほどの黒い玉を取り出すと、ふかしていた煙草を押し付けた。すると黒い玉は赤く光りだし、熱を持つ。


「ラグウェイ様の仕掛け玉だ。派手に行こうぜ」


 ぽいと放り出した黒い玉は、ドルンに当たって背中を転がると、体の側面に落ち始める。そしてドルンの体に無数に出た目がその玉の動きに注目する。そして同時に、黒い玉は光を出して突如として爆発した。並みの爆薬の数倍の爆発に、ドルンの巨体が揺れる。


「ギャオオオオオ」

「おう、いい感じの悲鳴だ。どうやら傷を受けないわけじゃなさそうだな。お次はこいつだ」


 ラグウェイは今度は灰色の玉を懐から取り出すと、同じように煙草を押し付けてドルン目がけて投げつけた。灰色の玉は破裂すると、中から無数の破片を飛び出させる。その破片はドルンの体の表面にあった無数の目を貫いた。たまらずドルンが再び悲鳴を上げた。

 ラグウェイが得意そうに笑った。


「おいおい、こりゃ良い獲物だなぁ! 俺好みの声で泣きやがるぜ。前言撤回だ、意地でも仕留めてやる!」

「いやぁん、ラグウェイの変態~」

「るせぇ、変態神父よりゃましだ!」

「きゃはは、そうかも~。ウケる~」

「私達もいっちゃいますかぁ?」

「さんせ~」


 軽薄な掛け声と共に、シャイアとペネローペは後ろ向きに飛竜から落下した。だがその落下は正確で、彼女達は互いに糸を巻きつけた鉄輪を渡した。そのまま糸――ただし女の髪に鉄を混ぜ合わせて組んだ呪具だが――をぴんと張ったまま、ドルンの右腕目がけて落下した。

 シャイアとペネローペが張った鉄線はドルンの右腕に深く食い込み、右腕を支点に二人は円を描くように互いに交差する。


「たっのしい~!」

「腕を落とすよ~。せーの!」


 二人が空中で交差し体を捻ると、ドルンの右腕は落とされた。勢いをつけた振り子のように、慣性にまかせてシャイアとペネローペはそのまま鉄輪を放し、見事に建物の上に着地したのだ。


「一丁あがり~」

「あの体液、やっぱり酸なのねぇ。マックスの読みは今日も冴えてるわよぉ」


 くすくすと笑うペネローペだが、ドルンは自分が窮地に落ちいったことを悟ったのか、羽を広げて飛んで逃げようとした。そして羽を広げた瞬間、槍を構えたアマリナが猛烈な速度で突っ込んで来た。アマリナは四枚に広げられた羽の間を斜めに進むと、交差際に固定した槍でドルンの羽を二枚切り落としていった。


「これで思うように飛べまい」


 アマリナの働きは見事だったが、その姿を見ていたアルフィリース達にとって、その竜捌きは衝撃的だった。アマリナの竜は最高速度から急激に速度を0に近くして急旋回し、その後再度最大加速し離脱したのだ。あのような竜の使い方を、誰もが見たことがなかった。


「何アレ、すごい」

「とんでもねぇ竜捌きだ。ありゃ誰だ?」

「ワタシの仲間のアマリナだ。おそらく、大陸一の竜騎士だろう。ワタシの知る限りな」

「大陸一は大袈裟だろう。ローマンズランドにゃあれ以上がいるんじゃないかい? ほれ、最高位竜騎士ドラゴンマスターとかいうのが何人かいるらしいじゃないか」

「・・・さてな」


 ルイは知っている。アマリナがかつてローマンズランドで最高の竜騎士と言われていたのも、そしてその名誉は、彼女が平民出身であったがゆえに形として与えられなかったと。ルイの知るアマリナなら、あの程度朝飯前だとルイはよく知っていた。

 そしてルイはアマリナが作った勝機に、再び呪氷剣を生成する。今度は普段より大きく、そして剣だけではなく、腕までが氷におおわれていた。あまりに大きな剣を固定するためにそうしたのだろうか。


「よし、今が好機だな。仕留める」

「待って、様子がおかしいわ」


 アルフィリースが指さしたのは、アマリナの飛竜に乗るマックスの合図。マックスはこちらに来るなと、手を大きく振って合図していた。


「こっちに来るなって言っているのかしら」

「そのようだ。ならば行かぬがよかろうな」

「弱気じゃねぇか、どうしたよ?」


 ロゼッタの皮肉にも、ルイは全く動じない。


「・・・ああ見えてマックスは我々の中で一番慎重な男だ。熱くなりやすく、突っ込みやすい我々の間で最も冷静な男。その天才的な頭脳で予測できる未来を確率の高い物から選択し、結果を予想し、もっとも安全な未来を我々に指し示す。それが奴、一番隊の隊長だ。我々ブラックホークにかかせん男だよ」

「そんな風には見えませんが・・・」


 ラーナが思わず感想をぽつりと漏らした。そしてそれだけではないはずだと、コーウェンは気が付いていた。もし単純に予測する程度なら、体液が酸などとは考えはしない。確かにそういった魔王が出現したとの報告は何体かあるが、あの巨人がそうだとは誰も思わないだろう。

 コーウェンはふっと笑った。あの男は何か能力を備えているのだろう。興味深いことを見つけた時、コーウェンは口の端を邪悪に歪める癖がある。ニヤリと思わず笑ったその仕草にコーウェンが気が付き、はっとして顔を上げると、その目線がアルフィリースとぶつかった。だがその顔は何の驚きも感情も浮かべず、ただふいと目線をそらしただけであった。



続く

次回投稿は、6/25(火)8:00です。

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