足らない人材、その79~戦略家24~
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その少し前。レイヤーはエルシア達と離れて一人砦の中を風のように駆けていた。目指す場所はアルフィリース達のところではない。その力を隠したレイヤーが、アルフィリース達のいる場所に向かうはずはないのだ。
レイヤーが向かったのは、巨人が歩いてきた方向。レイヤーは素早く建物の上に駆け上がると、巨人達が向かった方向を確認し、逆側に走った。出所を突き止めないと、どうにもならないと感じたからだ。レイヤーの足元には踏みつぶされたであろう人間達の死骸が転がるが、レイヤーは何の感情もわかずそれらに屍を無視した。むしろ、巨人達がわかりやすい脅威であるおかげで、兵士が逃げ出したことに感謝するくらいだった。
「あれか」
レイヤーが見つけたのは、巨人達が多数群がる建物。巨人たちはその建物にとりつき、殴り、齧り、あるいは体当たりでその建物を壊そうとしていた。
非能率的ながらもその執着を見せる巨人達に対し、レイヤーはなぜと原因を考える前に建物に入ってみることにした。何か重大な事が建物の中にあるかもしれないからだ。ルナティカがこちらに向かっていればよいが、もしアルフィリース達と共に戦っているならば、ここには誰もこないかもしれないとレイヤーは判断した。重大な事実を見落とすわけにはいかない。
「よし」
レイヤーは決意を新たにし、建物の中に巨人達の死角から忍び込むようにした。幸い巨人たちは鈍重である。見つかったとしても、自分の素早さなら何の問題もないとレイヤーは見て取った。
建物の中には破れた窓から侵入する。木造りの出窓も衝撃で取り払われ、建物の内側に落ちていた。だがレイヤーはその壊れ方にいち早く注目する。窓には鍵がかかる構造となっていたが、明らかに後から取り付けたであろう蝶番は見事に壊されていた。この壊れ方は明らかに人為的な行為によるもの。レイヤーは巨人だけでなく、別の一団がこの建物にいることを察知して、油断なく剣に手を伸ばした状態で中を進んでいく。
と、レイヤーは一つ目の部屋を空けた時点で異常に気が付いた。おそらくはこの建物を守っていたであろう兵士達が、椅子に座ったまま死んでいた。食事中に襲われたのだろう、食事に顏をうずめるようにして死んでいる者、配膳用の盆を投げ出すように死んでいる者色々いたが、明らかに外にいる巨人の仕業ではなかった。
「誰か来たのか・・・しかも相当手練れ揃いだな。これだけの人間を相手に、武器を抜く暇を与えていない」
死体は7つ。そのどれもが武器を手にしていなかった。人数を考えれば個人でやったとは考えにくいが、一斉に襲ったにしても、相当に連携のとれた者達の仕業である。
レイヤーは部屋をあとにすると建物の中の気配を鋭く探ったが、リサのようには上手くいかない。
「まだ人はいる・・・立てこもっているのか?」
一室に集まった10人ほどの人数が、何かに対して籠城を決め込んだように感じられなくもない。だがレイヤーはその部屋の外に誰がいるとも感じられない。
レイヤーは何が起きているのか確かめるために、階段を登ろうとして、階上から突然漂ってきた殺気に気が付いた。
「警告のつもりか」
だがレイヤーはためらわずに二階んい踏み込んだ。元々レイヤーに「恐れる」という感情はない。それに今はこの場には誰も味方はいないはず。ならば誰にも遠慮することもなく、その力を思う存分振るう機会でもある。
レイヤーが二階に上がる最後の階段を登った直後、レイヤー目がけていくつもの短剣が飛んできた。その軌道をレイヤーは一瞬で見て取ると、剣を数振りすることでその全てを叩き落とした。だがその剣を抜いたせいで、右腕にからみつく鎖。そして左足にも鎖がからみついた。同時に、頭上と左右から同時に襲いかかる敵。
明らかに危険な場面で、レイヤーは恐ろしく冷静に対処した。左足の鎖を引き寄せて左の敵の足を払うと、ためらいなく右手の剣を投げて右の敵の顔面を貫いた。そして頭上の敵はその剣を一歩後退することで外し、剣が目の前を通過したところでレイヤーがその敵の頭部を左腕で横なぎにした。男が転がって壁にぶつかった時、その首はあらぬ方向に向いていたのだった。
さらにレイヤーは鎖を二本ともぐいと引き抜いて、敵を引きずり出した。一人は完全に虚を突かれたのか、地面を転げるように出てきた敵の頭を躊躇なく踏み潰した。そして一人はなんとか立ったまま姿勢を保とうとしたが、レイヤーはとん、と踏み切って宙を飛ぶと、その首に鎖を巻きつけて盾にした。
「出てこい、さもなければこの男の首をへし折る。3秒数える、1・・・」
だがレイヤーが数え始めると同時に、今度は先ほどよりもさらに数の多い短刀が飛んできた。レイヤーは男を盾にするだけでは防ぎきれないと考え、男を短剣の方に突き出して自分は放り投げた剣の方に飛びのいた。レイヤーが剣を引き抜いて目の前にあった部屋の扉を突き破って中に飛び込むと同時に、先ほどまでいた場所に短刀が数本突き刺さっていた。もちろん突き出した男は串刺しになって倒れている。
レイヤーがその事実を確認した瞬間、目の前に弧を描くようにして風車のような刃物が飛んできた。レイヤーは反射的に手を差し出したが、果たしてその武器はレイヤーの目の前で止められていた。さしものレイヤーと言えど、指で挟んでその武器を止めることができたのは偶然と言わざるをえない。
レイヤーはその武器を腹立たし気に叩きつけると、レイヤーは部屋の中を見渡した。部屋はどうやら兵士の詰所の一つのようだった。
「敵の数が予想以上に多い。それに気配も上手く隠してある。なんとかしないと」
レイヤーは部屋の中を少し物色すると、いくつか目に留まったものがある。
「使ってみるか」
レイヤーの決断は早い。レイヤーはすぐに反撃の準備に取り掛かるのだった。
続く
次回投稿は、6/14(金)10:00です。