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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第三幕~その手から零(こぼ)れ落ちるもの~
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足らない人材、その77~戦略家22~

 ウィスパーもまた、少し声を落ち着けたようにして話す。もっとも、彼の声はいつもほとんど同じように聞こえるのだが。


「(私に個人的な望みはありません。ただ大老の命に従うのみ)」

「僕も大概嘘つきだけどさぁ、嘘はいけないよウィスパー。君の今日の行動は、本当に大老様はご存知かい?」

「(もちろんですとも)」

「ふ~ん、どうも嘘つきの匂いがするけどねぇ。まあいいけど」


 アノーマリーがあえて追及をしなかったので、会話は一度そこで途絶えた。そしてしばしの間をおいて、ウィスパーが再び話しかける。その間にも、巨人達は次々と砦の中に放たれていた。


「(攻城兵器、といったところですか)」

「その通り。ヘカトンケイルは局地戦、こいつらは攻城兵器だ。君に託した実験材料は実にうまく運用された。おかげで良い判定ができそうだよ」

「(戦争を想定して、の運用ですね。貴方達はどこかに戦争を仕掛けるおつもりで?)」

「違うよ、僕達はあくまで裏方。戦争をするのは人間達の方さ。あともう一つ試したいものがあるけど、そちらについてはもうどっちでもいいさ。代用品はあるからね」

「(空中を飛ぶ魔物、でしょうか?)」


 ウィスパーの予想に対して、アノーマリーが顔をしかめた。


「君、嫌な奴だねぇ。頭が良いのをあまりひけらかすものじゃないよ?」

「(褒め言葉として受け取っておきましょう。ではこれからもどうぞよしなに、良い商品をどんどん回してください。こちらはいくらでも素体を用意できますから)」

「さすが大陸最大の闇組織の幹部は言うことが違うねえ。こちらこそよろしく頼むよ、そろそろ僕達だけで素材の調達をするのに限界を感じていたから」

「(よく言いますよ、大量にこの前手に入れたくせに。では)」


 それだけ言い残してウィスパーの声は消えた。気配が全くなかったところを見ると、本体はいなかったのか、はたまた気配すら感じさせないのか。アノーマリーはなんとも言えない気持ちになったが、一言だけぽつりと漏らした。


「・・・本当に油断のならない奴だな。どこまで知っているんだ? あいつ、本当にただの人間なんだろうね。大老とやらにも興味はなかったけど、ちょいと調べてみますか。

 おお、それより注目だね。あの個体がどう動くか見ものだ。はたしてこの数年の成果はどうかな・・・?」


 と、興味深々にアノーマリーは身を乗り出すようにして砦の様子を見降ろすのだった。


***


 アルフィリース達は必死の戦いを繰り広げていた。アルフィリースの先制攻撃は予想以上の効果があった。敵の体は思ったよりもはるかにもろく、アルフィリースの爆炎の魔法剣でいともたやすく頭が吹き飛んだ。まるで饅頭に剣を突き立てたような手ごたえにアルフィリースは拍子抜けしながらも、好機と見てさらに攻め立てた。

 確かに巨体の一撃は脅威ではあるが、動きが想像以上に鈍重であるため回避するのは楽であった。また巨人たちも統制は取れておらず、互いにつまずいたり、また争ったりと付け入る隙はいくらでもあったのだ。アルフィリースの傭兵団50人と、その場で踏みとどまった兵士50人。また駆けつけてきた増援数十人とルイで、なんとでもなる敵だった。


「これで最後か」


 ルイが足を斬って倒れた巨人の首を斬り落とす。魔術で大剣に仕立て上げた呪氷剣で、一刀の元に切り捨てたのだった。丁度その巨人で10体目となった。残り一体はやや遠くにおり、こちらに向かってくる様子はない。


「なんだぁ、意外と拍子抜けだな」

「指揮官のいない敵なんざそんなもんさ。知能が低いのも幸いしたな」

「逆に言えば、指揮官がいるとこいつらは脅威ね。徒党を組んで襲ってくる巨人なんて、恐ろしくて考えたくもないわ」

「統制・・・」


 アルフィリースの言葉に、リサはふっとある事を思い出していた。それは先ほどアルネリア教会と共に参加した、悪霊征伐の時の話。統制のない知性の低い個体だと思っていたヘカトンケイルは、突如として集団行動を取っていた。その時、彼らには確かに話ができる個体や、指揮官がいたように記憶している。何より、リサ自身が相手をしたのだから。


「アルフィには言っておくべきかもしれませんね」


 リサがアルフィリースに言おうと歩み寄るが、アルフィリースは仲間からの賛辞を受けている真っ最中だった。


「さすが団長だ! あの巨体を一撃かよ!」

「惚れるねぇ、大した女だ」

「とんでもねぇ女の所で働いてんな、俺ら」

「たまたまよ、たまたま」


 そう言ってはにかむアルフィリースにも、さすがに安堵の色が見られた。近くにいるロゼッタが、群がる男達を押しのけながら語る。


「で、あの残りはどうするんだ?」

「もちろん倒すわ。でも無理に追わず、何重かに円を組んでちょっとずつ追い込みましょう」

「よしきた。野郎共、さっさとするぞ!」


 完全に調子を取り戻したロゼッタの元、血の気の多い連中が巨人の方に向かっていく。その中にはサラモの砦の兵士も混じっていた。アルフィリースやラインはその光景に呆れるやら頼もしいやらの複雑な感情を抱きながら見守っていた。完全に戦いは自分達の手を離れたと思っていたからだ。

 だが、巨人は自分の方に兵士達が向かってくるのを見て、逃げ出し始めた。知能は低くとも、防衛本能のようなものは一人前にあるのか。逃げ出す巨人を見て、追う兵士達はますます鼻息を荒げる。


「逃げるぞ、あいつ!」

「待ちやがれ、この砦に踏み込んでおいて、そうそう簡単に逃げられると思うな!」

「追え!」


 兵士達はいつしか隊列を組むのも忘れ、追撃を始めた。だが逃げる巨人は一つの建物を曲がったところで、ありえないほど大きく吹き飛んだのだ。完全に宙を舞い、一回転して闇雲に突撃していた兵士達の頭上に落ちてきた。何人かの兵士が下敷きになり、巨人の下から赤い河が流れ出る。



続く

次回投稿は、6/10(月)10:00です。

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