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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第三幕~その手から零(こぼ)れ落ちるもの~
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足らない人材、その73~戦略家⑱~


***


「うるあぁああ!」

「・・・!」


 ロゼッタとルナティカを前衛に、アルフィリース、ラーナ、フェンナが援護する。5人がかりの攻撃を、ルイは捌き続けていた。ルイは先ほどからずっと呪氷剣コキュートスセイバーを使い続けている。相当な魔力を消費しているはずなのだが、ルイは魔術士としても一級なのか、まるで魔力が尽きる様子がない。体力は言わずもがなである。

 呪氷剣を使われる限り、たとえフェンナの錬成術があったとしても、数合でルイの敵は武器を潰される。そのせいでロゼッタは周囲に剣を投げてもらって剣を取り換えながらの攻撃だったし、ルナティカもまた懐から武器を取り出しながら攻めたてていた。そのせいで、どうしてもルイをあと一歩攻めきることができない。

 だがそれにしても、先ほどからルイはずっとロゼッタとルナティカの攻撃を捌いているのだ。そろそろ集中力の一つも切らしてもよさそうなものであるが、隙の一つもルイはくれなかった。


「くそぉ、なんて女だ! いい加減にしろ!」

「(本当に強い、ここまでの大物は暗殺の対象にしたことがない。間違いなく、今までで最大の大物)」

「・・・そろそろか」


 ルイはちらりとあらぬ方向を向くと、すっと剣を下げた。その行為にロゼッタは腹を立て、ルナティカは眼光鋭く二人同時に迫る。

 その二人を遮ったのは、ルイの周囲に立ち込めるさらに圧倒的な冷気。ロゼッタとルナティカは危険を感じて咄嗟に飛びのいた。その立ち上がる静かな竜巻のような冷気に、ラーナの魔術も、オーリの矢も弾かれていた。


「あまり調子に乗るな。ワタシさえその気なら、いつでもお前達をまとめて潰すことができるんだ。だが、それもここまでだな。レクサス!」

「あいよ」


 レクサスとラインの剣戟が、ルイの一言で唐突にやんだ。レクサスが大きく飛びのき、ルイの傍に来たからだ。

 レクサスがふーっと、大きく息を吐いた。ルイは構わず話しかける。


「殺さず御するのは難しい状況だ。蹴散らすにしても、全力を出すのは憚られる。一度引くことも考慮にいれたいが・・・どうした?」


 ルイがふっとレクサスを見ると、レクサスは汗をびっしょりとかいていた。どれほど山を駆け通そうと、またルイが殴り飛ばそうと魔王を相手にしようと汗一つかかない男が、汗を大量にかいていた。それはラインも同じであるようだったが。

 レクサスは笑いながら答えた。


「姐さん、あいつ強いっすわ。惚れちゃうくらいすげえ強い奴っす。ヴァルサスとは違うけど、攻めきれないのは久しぶりだ。いいなぁ、こんなところで出会わなかったら、くたばるまで思う存分戦うのになぁ・・・」

「レクサス、ワタシの話を聞いていたか?」

「もちろんすよ」


 レクサスは恍惚とした表情から、すっと引き締まった表情に戻る。


「撤退、でしょうね。強引に突破できなくもないですが、相当危険が伴います。まだアルフィリース達には何か隠し持っているものがありそうっすね。それにどうも、嫌な雰囲気だ。あんまり長居しないほうがよさそうだ、ここは」

「勘だな?」

「勘です」


 レクサスの言葉に、ルイは決心した。


「いいだろう、お前の勘を信じる」

「えっ? 姐さん、俺の事を信じてくれるの!?」


 レクサスが突如として見せたキラキラした目を、ルイは目つぶしで攻撃した。


「ぎゃああああ!? どうしてー?」

「勘違いするな、ワタシが信じているのはお前の勘だけだ。その他の事は何一つ信用していないことを忘れるな」

「前、前が見えない~。姐さん、手を引いてください。これじゃ逃げられないっす!」

「自力で何とかしろ」

「目が見えないくらいでなんですか、ヘタレ」


 リサの厳しい一言に、さすがにそれは言い過ぎではないかと周りが思ったが、果たしてその考えも突如として聞こえた衝撃音にかき消された。

 その音にいち早く反応したのはリサだったが、その直後、凄まじい音量の咆哮が聞こえてくる。


「キイイイアァァァアアア!」

「なんだぁ?」

「砦の中から・・・だな」

「あそこは結界で探知できなかった場所ですね・・・これは?」


 リサが慌ててアルフィリースの元に駆け寄ってくる。その様子に全員がただならない事態を感じた。もちろん、アルフィリースが一番その緊急性を理解している。


「リサ、どうしたの?」

「まずいですよ、アルフィリース。結界のあった場所から巨大な何かが複数出てきます。その数、既に7体」

「敵?」

「センサーからわかる感覚としては、姿形はヘカトンケイルに近いですが・・・それにしては大きすぎます。大きさにして、サイクロプスの倍ほどでしょうか。あんな大きなお友達はリサの知り合いにはいませんね」

「そう、なら魔王の類だと思って対応した方がよさそうね。戦える者を全員招集して! ここが正念場よ」


 アルフィリースが命令したが、全員が半信半疑であった。だが森の一件もあり、傭兵達はアルフィリースの元に集まった。別段戦いたいからではない。アルフィリースの傍にいた方が生き延びられるかもしれないと、なんとなく全員がそう思い始めたのだった。

 そしてそんなアルフィリースは、ルイに問いかける。



続く

次回投稿は、6/2(日)11:00~です。

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