表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第三幕~その手から零(こぼ)れ落ちるもの~
680/2685

足らない人材、その59~戦略家④~

「相当まずいんだな、ヴァルサス?」

「そうだ、正直俺は生きた心地がしていない。俺はこの一晩で化け物を沢山見たよ。俺達が多くの魔王と関わってきた、その元凶とおそらくは出会った。いつぞやの赤いリボンで髪を束ねた女剣士のような、な」

「・・・なるほど、それはまずい」

「俺の情報源によると、悪霊の王、英雄王、百獣王、人形遣い、魔王使い、虫使い。全て見たはずだ。他にも部隊アテナのヴェルフラや、ヘカトンケイルの隊長らしき男も見た」

「俺にはそれだけの情報をいつの間にかつかんだお前も十分恐ろしいがな。だがよく考えればとんでもないことだ。よく命があったのものだな」

「そう思う」


 ひそひそと二人は話を続ける。


「ところでヴェルフラという女、結構な歳じゃなかったか?」

「いや、まだ少女のようだったな。風格は備わっていたから、見た目通りの年齢じゃないのだろうが。噂通り、いや、噂異常に尋常ならざる戦士だったよ」

「おかしいな・・・俺が若い頃にはもうアテナの怪力乙女の名前は知れ渡っていた。せめて俺と同じ世代のはずだが・・・」

「そちらも気になるが、俺が気になったのはもう一人の女の方だ」

「もう一人?」

「黒髪の、アルフィリースとか名乗っていたな」

「ああ、最近できた傭兵団の女団長だな」


 ベッツが頷く。


「アルネリア教会の小間使いじゃないかというもっぱらの噂だ。だが雇われた傭兵の待遇はいいし、何より部下の事をよく考えた運用をするらしい。今のところ戦場での評判は良いし、戦果もそれなりのようだ。新進気鋭であることに違いはないだろうが、戦場に定着するかどうかはまだわからんな。もう世の中には有名な傭兵団が多すぎる。行く末はこの戦いでどのくらい戦果が上がるかで決まるだろう。

 それがどうかしたか?」

「一番の化け物は・・・そのアルフィリースとかいう女だと俺が言ったら、お前は笑うか?」


 ヴァルサスの言葉にベッツが目を丸くする。


「そんなにゴツイ女なのか?」

「いや、比較的大柄ではあるがグレイスには負ける・・・何を言わせるんだ。そうではなく、あの女の行動がな」

「行動。どんな」

「あの女、あれほどの戦いを見た後で全く物怖じしていなかった。俺でさえ、内心では恐怖に震えていたというのにな」

「お前が? 冗談はよせ」


 ヴァルサスはちらりと他の団員の方を見てから、さらに声の調子を落としてベッツに話しかけた。


「冗談じゃない、俺は臆病な人間だ。だからこそここまで生き延びたし、自分でどうにかなる範囲の事はよく心得ているつもりだ。今回の戦い、前にこそ出たが正直俺ではどうにもならなかったろう。むしろ死中に活を見出すつもりで俺は剣を取った。

 だがあの女は違う。あの極限の戦いの中唯一人だけ冷静で、戦いがどこに行き着くかを楽しんでいたように見えた。事実、あの女はドラグレオとかいう化け物があの火球に耐えた時、密かに笑っていたのだから」

「・・・俄かには信じられんな。俺はその女を見ていないしな」

「俺は恐ろしいと思う状況には多数出会ったことがあるが、人を恐れたのは初めてかもしれん。しかも女を」


 ヴァルサスは自分だけがおそらく見たであろう光景を思い出す。アルフィリースとかいう傭兵は、間違いなくあの戦いの中、一人だけ余裕があった。それは何らかの確信をもっていたのか、あるいはそれすらなかったのか。仮に何の確信もなくあまりの恐怖に笑っていたのなら可愛い物だが、おそらくは違う。なぜなら、あの戦いの後同行を念のため申し出てみたが、あっさりと断られた。自分達はクライアの本陣に戻ると告げると、アルフィリース達はさっさと仲間をまとめてその場を去って行った。

 わけのわからぬこの戦場に、あの女はまだとどまる気でいるのだとヴァルサスは悟った。


「(何を隠し持っているのだ、あの女。まだこの戦場にこだわるなぞ、自殺行為としか思えん。それとも俺が読み違えているだけなのか。あの女、危険だな。機会があれば始末した方がいいのかもしれん・・・)」

「そういえば、まだルイとレクサスが戻っていないな」


 ヴァルサスの不穏な考えは、ベッツによって妨げられた。ヴァルサスを始め、全員が既にここに集まっていると思っていたのだが、まだ二番隊がいないようだ。


「三番隊の残りは来たのか?」

「クイエットは既に戻っている。やつらのおかげで脱出路は確保できている。まさに縁の下の力持ちだな」

「そうか・・・ルイとレクサスは何をやっているんだ?」

「気になる事があるとかで、クルムスの本陣の方に向かったらしいが・・・まさか奴らだけで本陣に押し入るような無謀な真似はすまい。用が済んだら帰って来るさ」

「だといいがな」


 時にルイは無謀な行動を取る。レクサスが上手く彼女に歯止めをかけるのだが、このような戦場においてはレクサスの勘もどこまで当てになるのかと、ヴァルサスもさすがに訝しんでいたのだ。自分達を見ていた視線の持ち主が誰かもわからぬ以上、仲間をまとめていち早く脱出したいというのがヴァルサスの本音であった。

 だがルイたちの動向を追うわけにもいかず、ヴァルサスはただ足早に戦場から遠ざかろうと歩を進める。その中でヴァルサスは密かにアマリナとラグウェイ、マックスを呼び寄せると彼らに命令を下したのであった。



続く

次回投稿は、5/8(水)13:00です。またしばし隔日投稿に戻します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ