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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第三幕~その手から零(こぼ)れ落ちるもの~
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足らない人材、その54~獣の宴⑰~

「え? 何、何なの?」

「御子よ、私に全て任せてもらおう。今は何も知らずとも仕方ない。だが貴女がそのままでは困るのだ。貴女の邪魔をするものは、全て私が吹き飛ばしてみせよう。たとえその結果、全てが滅ぶことになろうとも」

「何を言ってるの? さっぱり話が見えないわ」

「わからぬだろう、そうだろう。その原因となった者を、だからこそ倒すのだ。貴女の物語はオーランゼブルを倒した時にこそ始まる。それまでは隣にいる友を大事にするがよい。

 だが気をつけよ。そなたの運命を捻じ曲げる者はオーランゼブルだけにあらず。おそらくは――」

「ねえ、それは裏切りの言葉と受け取っていいんだよね?」


 立ち去ろうとするドラグレオの前に現れたのは、アノーマリー、サイレンス、ヒドゥンの三人。彼らは転移の魔方陣から出現すると、ドラグレオにつかつかと歩み寄った。


「あーあ、まさかこんな事態になるなんてね。念のため見張っておいてよかったよ」

「完全に予想外でしたね。色々な要因が重なり合った結果と言えますが、我々だけで抑えられるか。それが問題です」

「無理でもやるのだ。ティタニアもブラディマリアもこちらには来れん。それに今なら奴も消耗していよう」


 ヒドゥンがごきごきと手の骨を鳴らすと、アノーマリーがため息を大きくついた。


「本来頭脳労働者なんだってば、ボクは・・・人手がないからって駆り出さないでほしいな」

「私もあまり正面切って闘うのは向いていないと思うのですが」

「ぼやくな、それは俺も同じだ。やるぞ」


 ヒドゥンがドラグレオに向かおうとした刹那、彼らの間に割って入ったのはなんとヴァルサスであった。


「待て」

「なんだ貴様は?」

「戦うなら俺が優先だ、まだ先ほどの決着がついていないからな。後から出てきて横やりはやめてもらおうか」


 ヴァルサスの物言いに、ヒドゥンが明らかに不快感を示す。


「貴様のごとき人間に、そのような決定権があると思うのか? 図に乗るなよ、たかが傭兵ごときが」

「文句があるなら拳で語れ。貴様が何者であろうともここは戦場だ。戦場には戦場の習わしがある」

「ほう」


 ヴァルサスの言葉を聞いてヒドゥンは標的を変えた。ヒドゥンとヴァルサスの間に一瞬の緊張が走り、その姿がふっと消える。

 交差は一瞬。ヴァルサスはその瞼を切り裂かれたが、ヒドゥンは片手を失っていた。


「むぅ!?」

「ちっ!」


 二人はいち早く転回すると、ヒドゥンは流れた自分の血を利用して魔術を放った。血の弾丸は軌道を曲げながらヴァルサスの襲い掛かる。だがヴァルサスはその複雑な軌道を、片眼で前進しながら避けてヒドゥンに斬りかかる。ヴァルサスの剣が唸りを上げた。


「貴様ァ!」

「あまり俺を舐めない事だな」


 ヴァルサスの一撃はヒドゥンの腹を横に深く斬り割いた。だがその傷を受けて、逆にヒドゥンはニヤリとする。


「かかったな」


 ヒドゥンの傷からはさらに大量の血が吹き出し、それらは全て弾丸へと変化した。そして先ほどとは比べ物にならないほどの数の弾丸がヴァルサスに襲い掛かる。

 だがヴァルサスは眉一つ動かさず、


「だから舐めるなと言ったろう」


 と、ヒドゥンの血の弾丸を剣で叩き落とした。ヒドゥンの顔色が今度こそ変わる。


「私の魔術を叩き落とすだと!? その剣、普通の剣ではないな?」

「精霊鋼を使ってドワーフが竜の炎で鍛え、エルフの祝福を受けた剣だ。銘こそないが、そんじょそこらの剣とは違うだろうな」

「カアッ!」


 ヒドゥンが接近戦を挑もうとし、目にも止まらぬ速さで拳を繰り出したが、ヴァルサスは冷静にそれらをさばいてヒドゥンの顔面を斬り割いた。たまらずヒドゥンがたたらを踏んで後退する。


「ぐわぁああ!」

「騒がしい男だ、戦い慣れているとは思えんな。おそらくは虚を突き、背後から人を襲い続けてきたのだろう。貴様は戦いに向いてない」

「人間、人間ごときがぁ!」


 顔の傷を押さえるヒドゥンに、ヴァルサスが容赦なく追撃する。だがその剣を今度はサイレンスが止めた。正確には、サイレンスに気が付いてヴァルサスが剣を止めたのだが。


「なるほど、聞きしに勝る剛の者です。私も一手、よろしいか」

「断る必要などないだろう、全て相手してやる。来い」


 ヴァルサスとサイレンスの剣が交錯するなか、その様子を見守るドラグレオにアノーマリーの腕がからみついた。にゅるにゅると伸びるアノーマリーの腕に、ドラグレオは微動だにせず絡みつかれる。そして腕と同じように伸びたアノーマリーの首が、ドラグレオの顔の横に来てニタニタと得意げにしゃべり始めた。


「油断したね。ボクの体はこう見えて相当頑丈だ。斬っても突いても、引っ張ってもそう簡単にゃ壊れない。もう手も足も出ないし逃げられないよ、ドラグレオ」

「・・・お前、馬鹿だろ?」

「は? 馬鹿に馬鹿って言われたくな――」


 そう言った瞬間、アノーマリーは体の目の前の光景が一部ごっそりとなくなったことに気が付いた。わずかに感じたのは、自分の頭の右上がなくなったということ。そして残った左目の前には、口から血をしたたらせるドラグレオの得意げな顔があった。


「口は出せるぜ、この野郎」

「腹壊す、ぞ・・・ちく、しょ」


 最後の言葉と共に、ドラグレオに巻き付いていたアノーマリーはどさりと落ちた。ドラグレオは顎に手を当ててアノーマリーを吟味していた。


「ふーむ、ゲテモノだからまずいかと思ったが、不味くも旨くもない微妙な味だなこりゃあ・・・だが生命力だけはありやがる。力が漲るぜ」


 その言葉と共に、ドラグレオの生命力が膨れ上がった。はっとして戦いを止めるヴァルサスとサイレンス。


「何止めてんだよ、お前ら。俺も今から混じるぜ」

「ドラグレオ、君のその生命力は」

「おお、これが俺の魔術だ」


 ドラグレオは胸をどんと叩いて見せた。



続く

次回投稿は、5/2(木)14:00です。

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