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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第三幕~その手から零(こぼ)れ落ちるもの~
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足らない人材、その52~獣の宴⑮~

「貴様っ、いかに加減したとはいえあの魔法で怯まぬとは!」

「うーるるるるる・・・・るぁああああああ!」


 ドラグレオはライフレスの顔を睨むと、その顔に向けて白銀のブレスを吐こうと口を大きく開け始めた。ライフレスは変わり映えのしないドラグレオの攻撃を舐めていたが、ふと先ほどマンイーターが吹き飛ばされた光景を思い出し、マンイーターの方を見た。

 見るとマンイーターは体の再生もままならず、悪霊の姿も再生できずにオシリアに保護されていた。なんとかオシリアの援助でその姿をつないでいるが、明らかに霊体に傷を負っている。

 その姿を見てライフレスがある事実に気が付く。ドラグレオの口に中がまさに白銀に輝かんとしたとき、ライフレスは左手をドラグレオの口の中に突っ込んで魔術を詠唱した。


圧搾大気ディーププレス!≫


 咄嗟に出したその魔術はまさに間一髪だった。ライフレスは左手を犠牲に、その場を脱したのだ。犠牲にしたといっても、すぐに修復される身。それはアルフィリース達もそう思っていたのだが、


「え・・・なんで再生しないの?」

「くそっ! 想像以上に厄介な能力だ、あの男。あの白銀の吐息ブレス、破滅の吐息ブレスか!」


 ライフレスが初めて余裕のない顔をした。破滅の吐息。その言葉が何を意味するか誰もわからなかったが、なんとなく嫌な予感だけは気が付いていた。


「破滅の吐息って?」

「咄嗟にそう表現したがな。あいつの吐息ブレスにはあらゆるものを破壊する力がある。つまり俺のように不死でも、あるいは悪霊のような霊体でも当たりさえすれば関係なし。あらゆるものを破壊するだろう。

 南の大陸では砂漠が徐々に広がっていると言うが、それもあの男の影響か。あの吐息ブレスの効果だな、間違いなく。なんという男だ。自分は不死に近い体を持ちながら、相手は不死でも関係なく殺すことができるというのか。ただの馬鹿だと思っていたが、中々どうして。せめて戦士としてそれなりの頭脳すら持っていないことが幸いだな」


 ライフレスが魔術を周囲にさらに展開させながら説明した。


「これほど緊張感のある戦いは久しぶりだ。この体になってから緊張感のある戦いとは永遠に無縁になったかと思っていたが、まだこれほどの相手に出会えるとはな。俺の全力とこいつの全力・・・どちらが上か勝負してくれよう」

「盛り上がっているところ悪いけど、これ以上は駄目だよ。オシリア!」

「ええ、仕方ないわね」


 ドゥームに呼ばれたオシリアが取り出したのは、黒く小さな香炉だった。ライフレスはその香炉が取り出されたのを見ると、はっとして身を翻して遠のいた。香炉は一瞬黒い光を発すると、すぐにその光をドラグレオに向けて放出した。ドラグレオにはよけるという概念がないのか、その黒い光を真っ向から浴びる形になる。

 直後、マンイーターが再び結界を作動させてドラグレオを眠りに誘い込んだ。すると今までの暴れぶりがうそのようにその場に倒れ込むドラグレオ。何事が行われたのかと全員が訝しむ中、ドゥームが前に出て説明を始める。


「えー、お集まりの皆様方。ただいまの状況がまことに不思議がっておられる方も多いと思いますので、少しばかり説明させていただきます」

「ちょっと、勝手にまとめないでください」

「それがそういうわけにもいかないんだよ、リサちゃん。今回のドラグレオの暴走は、完全に僕の責任だからね。男として、この責任は取らないと」


 ドゥームがわざとらしくすまなさそうに項垂れて見せた。リサは明らかに不機嫌な顔でドゥームを見ている。ドゥームはわざとそのことは気にしないようにして話を続けた。


「今回のドラグレオの暴走は、僕が彼に狂化の魔眼を試したことが原因です。まさか彼に魔眼が効くなんて、思ってもいなかったもので。なのでいましがた、その魔眼を解除させていただきました。魔眼を解除しないと、それ以外の魔術は受け付けなくなるもので。魔眼を使用された状態では、眠りに誘うこともできませんでした」

「何? それでは奴が正気とも思えなかったのは――」

「実際おかしくなっていたから。有体に言って僕のせいです、はい」


 ドゥームの物言いに、ライフレスですらあきれるやら腹が立つやら。だが今はドゥームの非を咎めることが大切なのではない。どうせドゥームの辞書には反省の文字はないのだろうから。

 それよりも気にかかるのはドゥームが取り出した香炉。


「ドゥーム、その香炉はなんだ? まさかとは思うが・・・・」

「これ? 古代の遺物アーティファクトって奴さ。とある遺跡から発掘したんだよ。名前は『解珠ディスペルオーブ』って呼んでるよ。知ってる?」

「ディスペルオーブ・・・だと?」


 ライフレスがドゥームから離れて距離を置いた。その距離は先ほどドゥームとドラグレオとの間よりも少し遠い。ライフレスのその行動を見てもアルフィリース達は理解不能だったが、ドゥームには何らかの思い当たる節があったのか、にやにやとしてライフレスの方を眺めるのだった。


「あれぇ? どうしたのさライフレス。もっと仲良くしようよ?」

「貴様・・・何を考えている?」

「さぁ? なんだろうねぇ??」


 いつもと立場が逆だった。余裕たっぷりにライフレスの方を見るドゥームと、油断ならない目でドゥームを睨んでいるライフレス。二人の間に妙な緊張感が走ったかと思った矢先、マンイーターの結界下にあるはずのドラグレオがむくりと起き上ったのだ。



続く

次回投稿は、4/30(火)14:00です。

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