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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第三幕~その手から零(こぼ)れ落ちるもの~
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足らない人材、その46~獣の宴⑨~

「今のは・・・」

「アルフィリース、お前が俺との戦いで使った魔術の、上級魔術だ」

「そんなわけないわ! あの魔術は私の使用したものが最上位のはず。雷撃剣っていう魔術はあるけど、もっと威力が低いはずだし」

「お前は並みの人間とは違う思考過程を持っていると思っていたが、俺の買いかぶりか? 魔術の詠唱の原義とはなんだ」

「・・・精霊への語りかけ」

「そうだ」


 ライフレスはさも弟子に語り聞かせるように、アルフィリースに話してみせる。


「詠唱などというものは一定の形を持たん。そうでなければ竜種や妖精族など我々と言語が違う者もいるにも関わらず、彼らが魔術を使用できることの説明がつかんからな。所詮はその個体が精霊と更新する一手段にすぎんのだよ、詠唱などというものはな。

 ならば精霊との正しい交信手段を持つ者にとって、詠唱などというものはもはや自己暗示のようなものだ。別の言葉で言い換えれば制約ともいうな。正しく語りかけられるなら、既存の魔術の形にとらわれず精霊の力を引き出すことが可能だ」

「そんなことが・・・」

「できるのだよ。そうでなければ、魔術の研究が進んで新しい魔術を開発することなど不可能だろう? もっとも精霊の声を正しく聞ける者など、今ではほとんどいなくなったようだがな。魔術を開発するためにじめじめとした部屋にこもって書物をあさるなど、陰気くさいにもほどがある。本来魔術の開発とは、自然あふれる美しい場所で行うものだ」

「貴方はできるのですか?」


 ラーナが思わず問いかけた。ライフレスはしたり、とばかりに頷いた。


「もちろんだ。昔から精霊が俺の耳元でざわめくもので鬱陶しくてな。幼い頃は眠れぬ夜を過ごしたものだ」

「そこまで精霊と・・・魔女の私ですら、ある程度意識しないと彼らの聞こえない時もあるのに」


 ラーナが悔しそうに項垂れた。闇系統の魔術ならばわずかでもライフレスと対抗しうるかと考えていたのに、その道が絶たれたからだ。だがライフレスの言葉は意外にも優しかった。意図したわけでは、きっとないのだろうが。


「そうでもないぞ、魔女の小娘。俺も最近ではあまり精霊の声を聞かぬ。精霊の力は以前よりも弱まっているのかもしれんな」

「精霊の力が?」

「ああ、そういえば・・・」


 ライフレスが何かを言いかけて、そこに顔を腫らしたドゥームが戻ってきた。よろめきながら、半分涙目になっている。


「ちくしょう、ひどい目にあった」

「だけどあなたのおかげで私達は勝機を得ました。ちょっとは役に立ちましたね」

「こればかりはリサちゃんに褒められてもうれしかないよ」


 ドゥームは殴られた右の顔面を戻しながら答えた。そして戻った右の目でライフレスの魔術の跡を確認すると、おお、と声を上げた。


「すごい魔術だねぇ! これならアイツも死んだかな?」

「どうだかな。だが少なくとも雷撃で痺れて動けないだろうよ。この電撃は『残る』からな。奴の事を確認に行くならば、この新しくできた道は通らない事だ」

「忠告どうも。じゃあっちょっと外れた場所から確認に・・・ん?」


 ドゥームが何かに気が付いた時、今度は左の顔面に拳がめり込んでいた。やったのは言うまでもなく、ドラグレオである。


「なんで僕ばっかりいぃぃぃぃぃ・・・・」

「徳が高いわけでもないでしょうに、両頬を差し出しましたね」

「冗談言ってる場合じゃないわ!」

「あれでも止まらんとはな。さすがにオーランゼブルが仲間に引き入れるだけあるか。だがしかし、これはどうだ」


 ライフレスは素直に驚いた。ドラグレオは確かに電撃の直撃を受けたのだ。それが証拠に、皮膚のほとんどは黒く焦げていて、服などは完全に炭化していた。だがその炭化した皮膚が、目の前でみるみる修復されていく。そして傷があっという間に塞がると、今度は先ほどにも勝る闘気と生命力がドラグレオからは放出されたのだった。

 一歩下がる周囲をよそに再び突撃してきたドラグレオはドゥームを吹き飛ばすと、目の端に次の獲物を捕らえた。その視線の先にはリサがいた。


「次にこのリサに目をつけるとは、中々目端がきくようですね」


 リサは口調でこそ余裕だったが、その足は奮えていた。そもそも炎獣ファランクスと一騎打ちで打ち勝つような化け物が相手である。また今の耐久力、移動速度、攻撃力。どれをとってもにらまれたら最後、生き残れる確率は限りなく0である。リサもそれがわかっているからこそ、あえて無駄口を叩いた。そのくらいしかすることがないからだ。

 だが狂ったドラグレオには躊躇も逡巡もない。その破壊的な拳を握りしめると、振り向きざまにリサに向けて全力で繰り出した。リサは感知してよけようとしたが、拳の速度が凄まじすぎてよけることなどできないとわかってしまった。誰もがドラグレオの拳を止めることなどできないと思ったが、彼の拳はリサには届かず、途中で受け止められていた。ドラグレオの拳が止まった衝撃に、リサの髪がふわりと揺れる。



続く

次回投稿は、4/20(金)15:00です。

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