足らない人材、その40~獣の宴③~
「あいつの名前は知らない。ただアノーマリーがとても優秀な素材を手に入れたと、喜び勇んで研究をしていたのは覚えている。おそらくは今までで最強の魔王ができるってね。そしてそいつは誕生した。新たに生を得たとでも言えばいいのかな。そいつはアノーマリーの期待通り、確かに歴代最強の魔王だった。以前ライフレスにはアノーマリーがとびきりの魔王を10体ほど貸したと聞いているけど、そんな連中はもうゴミに見えるくらい、それは優秀な奴だそうだ。
だけど優秀すぎた。一たび暴走すれば、おそらくは僕達でも抑えることが困難だろうとアノーマリーは予想した。おそらく抑えることは不可能で、処分することになると。それではもったいないし、せっかくの素材だからとアノーマリーは周りに内緒でさらに研究を続けていたんだ。僕はこっそり教えてもらってたけどね」
「それで、制御の方法がわからないまま暴走したと」
「平たく言えばね。死んだ時にあまりに恨みが強すぎて、まるでこちらの命令を聞きゃしない。本人自身ももはや恨み、復讐以外の事が考えられないだろうね。概念が固定されちまっている。まるで悪霊か魔具の類だよ。
だけどやはり優秀なんだよ、強すぎるんだよ。その強さに惹かれて、なんとそいつはオークやゴブリンではなく、魔王そのものを従えるようになってしまった。そいつを研究していた工房全てのね。運悪く、その工房はこの近隣に隠してあったのさ。そいつが部下にした魔王と一緒に、ここに迫ってるってわけ」
「何体かしら?」
「え?」
「何体の魔王を引き連れているのか、と聞いてるのよ」
カラミティが問いかける。ドゥームが腕を組んで悩んだ。
「言ってもいいのかな・・・」
「構わないでしょう。状況次第では我々の計画は全て撤退せざるを得なくなる。私達の手に余るようなら、ヒドゥンに指示を仰がなくてはならない。一応彼がここの現場責任者ですからね」
「そうだよねぇ・・・まあぶっちゃけると、ざっと100体ってとこかな」
「100?」
アルフィリースが思わず大きな声を上げた。ドゥームはアルフィリースの方を見ながら、説明を続けた。
「そう、100体だ。しかも、以前君達がルキアの森で戦った魔王前後の完成状態。あの当時、あの魔王はかなり優秀な個体だったけど、既にあの程度なら量産できるようになっている。だから、今回はあの魔王が100体いると思ってもらって結構だ。
だから言ったんだよ、まずいって。すぐにでも逃げた方がいいと思うけど、もう難しいね」
「相変わらずぺらぺらとよく喋る男です、気に入りませんね」
「そう言わないでよ、リサちゃん。僕は君の事がこんなに気に入っているのに!」
「キモいんですよ、ペラペラ男。それに今回は本当の意味でしゃべりすぎです、余計に気持ち悪いですね。あなた、何を考えているんですか?」
リサの指摘にドゥームは無表情で返した。それはリサの思うドゥームという人物像と、全く異なる印象を与えた。ただの考えの足らない、残虐な男。リサは少なくともそう思っていたのだが。
同じ事にライフレスも気が付いた。どうやらドゥームという存在の内面では、なにかしら知りえない事が起こっているのだとライフレスも気が付いたのだ。
だが今はそれとは別に、ライフレスには気になることがあった。
「ドゥーム。貴様はもう一つ、馬鹿が来ると言ったな。馬鹿というのはまさか・・・」
「ボク達が共通して知っている馬鹿って、一人しかいないでしょう?」
「ち・・・やはりそういうことか」
「ちょっと、私にもわかるように説明して頂戴」
アルフィリースがライフレスに迫ったが、ライフレスはそんなアルフィリースの頭をぐいとどけた。ついでにその頭をぐしゃぐしゃとかき乱す。
「そんな暇はない。今回ばかりはドゥームが正しいようだな」
「ちょ、ちょっと! 子どもじゃあないんだから、そんなに頭をかきまわさないで」
「?」
ライフレスはアルフィリースに指摘されて、初めて自分の動作に気が付いた。どうやらブランシェにしている癖がつい出てしまったようだ。ライフレスは一度手をひっこめると、おもむろにもう一度アルフィリースの頭をかきまわした。
「ちょっと! やめてってば!」
「ふむ・・・反応が大分違うな」
「なんの反応よ!?」
「知らんでいい」
ブランシェならばライフレスの手に身を任せるはずだが、思えばアルフィリースの反応が当然かと思う。ブランシェは自分に懐いているのだろうかと、今さらライフレスは実感した。
そして再び咆哮が聞こえた。今度は先ほどより、ずっと近くである。
続く
次回投稿は、4/8(月)16:00です。