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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第三幕~その手から零(こぼ)れ落ちるもの~
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足らない人材、その24~夜襲③~

***


 アルフィリース達は血路を切り開いて撤退した。リサの感知通り、森の中にはほとんど伏せ勢はおらず、また少しつっかけるだけで彼らはあっさりと引いた。手ごたえのない相手にアルフィリースは疑問を感じたが、今はそれよりも安全な場所を確保することが必要だった。

 そして一息ついたところで、アルフィリースが一度仲間を休ませる。そして何人が今生き残っているのか確認させた。


「何人こちらにいるかしら」

「夜襲に来たのが250人。その内こちらに逃げたのが3部隊150人。んで、今120人だ」

「減ったわね」

「いや、上々だな。死んだのを見たのはそうはいないし、捕虜になってりゃ後で身代金と引き換えに帰されるさ。はぐれたのもいるだろうしな。即死したのは数人しか見てねぇ。ヴェンとラインは別の方向に脱出したようだ」

「彼らなら大丈夫でしょう。さて、こうなると夜襲は失敗ね。どうして失敗したのかしら」

「しらねぇよ。相手に超優秀なセンサーでもいるんじゃねぇのか?」

「言っておきますが、リサよりも優れたセンサーというのはそういません。もちろん得手不得手はありますが、こと単純かつ広範囲な感知にかけてはリサよりも上の人は大陸中を探してもそういないというのは、ギルドのお墨付きです。そのリサですらわからなかったのですから、センサーがどうのという問題ではない気がしますね」


 リサが淡々と言ったので、とりあえず隊長格の人間達は黙ってしまった。アルフィリースは首を振ると、すぐに続ける。


「とにかく、今はやることが明確だわ。サラモには仲間も残っているし、まずは砦に帰還しましょう。それから今後の事を考えればいいわ」

「ラインやヴェンとも合流しなけりゃだしな。しゃーない、行きますか」


 ロゼッタが気怠けだるそうに背筋を伸ばした。そして一息入れていた仲間達に声をかけると、彼らを促して歩こうとする。その中にロゼッタは二人、いまだ息の整わぬ人間がいることに気が付いた。ゲイルとエルシアである。

 ロゼッタはにやりとすると、二人の所に歩み寄る。


「よう、お二人さん。本物の戦場はどうよ?」

「・・・たいしたことねぇよ」

「その割にゃ真っ青だがなぁ?」


 ロゼッタはにやにやしながら、ゲイルの頭をぐりぐりともみくちゃにし、からかっていた。そのロゼッタに、同じく青い顔をしたエルシアが食ってかかる。


「・・・ふざけてんじゃないわよ! 今、仲間が死んだのよ? どうしてそんなにへらへらしてられるの?」

「あん? そっちこそ何甘い事ぬかしてやがる」


 へらへらしていたロゼッタが一転、エルシアの胸倉をつかんで引き上げた。ロゼッタの腕力に完全に持ち上げられるエルシア。赤目がエルシアの茶色の瞳と対峙する。


「アタイらはなぁ、自分の命を対価に金稼いでんだ。相手の命を奪うことももちろんある。その覚悟がねぇ奴はこの仕事に足を踏み入れちゃならねえのさ。覚悟もないまま傭兵になれば、いいとこ小悪党、悪けりゃ外道になる。だが少なくともこの傭兵団に外道はいねぇ。だからお前の言葉は死んだ奴に対する侮辱だ。傭兵である以上仲間の死を悼んでもいいが、決して惜しむな、後悔するな。それができなきゃ傭兵をやめろ」

「そんな理屈!」

「分かれなんて言わねぇ。だが、いずれそうやって自分を納得させなきゃならない時も来るだろう。だから・・・」


 ロゼッタが言葉の途中で突如としてエルシアを放り投げ、背中の大剣を抜いた。放り出されたエルシアは確かに金属音が響くのを感じ、転がりながらも体勢を立て直した。さながら猫の如くである。口に入る泥を吐き出しながらエルシアが聞いたのは、愉しそうな男の声だった。


「ヒャハハハ~! ロゼッタ、久しぶりだぁ!」

「その声・・・ケルスーか!」


 笑い声と共に、大剣を担いだ小男が木の陰から姿を現した。その至近距離から現れた敵に、リサが驚く。


「馬鹿な! こんな至近距離まで私がわからないなんて?」

「おおっとぉ、素人丸出しだなお嬢ちゃん。センサーから気配を隠す魔術道具アイテムなんざ、戦場じゃ常識だぜ? もっとも、高いし滅多なことじゃ手に入らない貴重品だがね。もっとも天然で同じことをやれる奴もいるけどなぁ。

 それより『赤目のロゼッタ』とこんなところで会うとはなぁ。どこかの傭兵団に入ったって聞いたが、本当だったようだなぁ?」

「こっちこそ驚きだ、ケルスー。お前がこんな南まで来るなんてな。北東で暴れまわってるって聞いてたが」

「あっちの猟場は稼げなくなってきてねぇ。ちょっとばかし名前を売り過ぎちまったせいで、ナイツオブナイツなんて厄介な連中に目をつけられちまったのさ。おかげさまでこんなつまらねぇ地方にまで出番なきゃならねぇ」

「そりゃご愁傷様だ。どうせならそのまま死んでくれりゃよかったのにさ」


 ロゼッタの悪態にを楽しむように、大笑いするケルスー。


「ヒャハハハ、やっぱりお前は面白れぇなぁ、ロゼッタ。こんな戦場に来た甲斐もあるってもんよぉ。お前とやりあうのも久しぶりだ、決着をつけとくかい?」

「生憎と、こちとらそんなに暇じゃねぇよ」

「まあそう言うなよ」


 そう言ったケルスーが、突如としてロゼッタに斬りかかってきた。


「遊んでけよ、楽しませてやるからよぉ!」

「チィ! アルフィ、脱出の準備だ! こいつの部隊が来るぞ!」


 ロゼッタがケルスーを打ち払いながら叫ぶ。同時に、宵闇からいくつもの影が飛び出し、アルフィリース達に襲いかかってきた。全身黒装束に手甲鉤を両手に装備した部隊は、人間離れした身のこなしでまるで猿のようにアルフィリース達に襲いかかってきた。不意を突かれたアルフィリース達は一気に混乱へと陥り、夜の森に戦闘の喚声が響く。


「ロゼッタ! あれは誰?」

「グランディ兄弟の兄貴、ケルスーだ! 『闇猿シャドウエイプ』って傭兵団の団長だよ。主に夜間の森林戦を専門に請け負っている。どうやらヴィーゼル側についたらしいな」

「強いの?」

「アタイの一勝三敗!」


 ロゼッタの言葉と同時に、再びケルスーが斬り込んできた。小兵な男だが、打ち込みの速度、俊敏性共にロゼッタを大きく上回っている。それに大剣を軽々と振り回しロゼッタと切り結ぶところを見ても、どうやら見た目以上に腕力もありそうである。

 厄介な敵にこんなところで出会うとは。アルフィリースは自分のツキのなさを恨みながらも、剣を夢中に振るっていた。確かに闇猿の団員も手練れぞろい。ロゼッタと初めてやりあった時と同じような印象を受けた。一人を仕留めるのも上手くいかず、傷つけば下がり、新手が前に出てくる。それに闇の中で一撃離脱を繰り返す連中との戦いは、精神的にも疲弊する。アルフィリースは叫んだ。



続く

次回投稿は、3/9(土)18:00です。

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