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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第三幕~その手から零(こぼ)れ落ちるもの~
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足らない人材、その19~防衛線⑧~

「狼狽えるな! また同じように破壊してやればいいだけだ! 昨日までの戦いを思いだせぇ!」


 大声で檄を飛ばしたのは大将とおぼしき男。髭を蓄え、毛をまとめた房を兜から垂らしたその中年の男は、太った腹を揺らして仲間を鼓舞する。


「さあ、今日の戦功一番は誰だ!? 城壁に一番に取りついた者には金貨10枚だ。ターラムで高級娼館にも連れて行ってやるぞ?」


 男が楽しそうに仲間を見渡すのを見て、徐々に傭兵達も落ち着きを取り戻し始めた。そして体勢を整え直す城攻め屋達。城壁からその様子をアルフィリース達が見下ろす。


「立て直しが早いわね」

「こっちからつっかけてないからな。やる前から戦意喪失されても拍子抜けってもんだが」

「相手は利につられた阿呆どもだ。だけど、こういう方が単純な分扱いやすいし、士気も高い。散るのも早いけどな」

「相手がどうあれ、損害が少ないのにこしたことはないですが。どうやらそうもいかないようですね」


 リサが感知するのは城攻め屋達の攻城道具。エブデンの話によると、城攻め屋達は特殊な攻城道具をいくつも用意していた。

 まずは巨大な投石機カタパルト。これのせいで城壁を飛び越えてサラモの砦は激しい攻めを受けた。そして投石器スリング。投石機よりも小型な分移動が楽で、投げ放てる物は直線に近いが、これに槍を搭載して直接城壁の上を攻めてくる。投げ放てる物は多様性に富むため、火のついた油の瓶や、発破なども飛んでくる。今回彼らは杭のようなものを多数城壁に打ち込むことで、城壁を登るための足場としていた。もちろん、シーカー達が既に撤去済みである。

 他にも彼らは色々な物を装備している。城壁に上るための鉤爪しかり、つま先に装着する刃しかり。梯子も通常用いられるものより長いし、城壁の上の兵士に対して毒弓も用いる。城攻め屋達は準備万端とばかりに横一列に整列していた。彼らを見て、エブデンが恐ろしそうに言った。


「あの距離から投石が来る。十分な量の投石を打ち込んだ後、近づいて投石器から様々なものを打ちこみ、そして白兵戦だ。白兵戦が始まる頃には、こちらの戦意はいつも無いに等しい。時にはこちらを弄ぶかのように、投石だけを繰り返していなくなる。いつもこちらから攻め入るどころではなくなるんだ。お前達、何か策はあるのか?」

「まあ見てて、としか言えないわね」


 アルフィリースは余裕を持って答えてみたが、内心ではなんとも不安であった。だがここはルナティカを信じるしかない。

 ブオン、と大きな何かが振りぬかれたような音が複数聞こえる。そして空に向けて、砦に向けて放たれた何か。アルフィリース達がそれを大きな岩だと認識する時には、城兵達は恐慌状態に陥っていた。城壁を越えて飛来した巨岩が、城内の施設の壁を打ち壊す。


「落ち着け! 数は大したことがない。早々当たるものではないんだ、城壁の内側にへばりつけ!」


 アルフィリースが声を張り上げて叫ぶ。声が聞こえた兵士達はアルフィリースの言うことを反射的に聞いたが、一つの岩が城壁の上に命中すると、今度は城壁の上でも混乱が起き始めた。さすがにロゼッタが目を開いて驚いている。


「おいアルフィ、本当に大丈夫なんだろうな?」

「確信はないわ。でもあの投石機の精度に自信があれば、兵士を突貫させながら攻撃してもいいはず。そうしないのは、自信がないからよ」

「まあ妥当な推測に聞こえるけどなぁ。いつまで我慢すりゃいいんだよ。あと何発か命中したら、収集がつかなくなるぜ」

「そうね」


 アルフィリースは短く答えると、自分の部下だけをまとめ始めた。この際クライアの兵士達にかかずらってはいられない。大体彼らは職業軍人ではなく、兵役を課されたただの農民が大半なのだ。元からアルフィリースも過度な期待はしていない。

 そしてもう一撃投石が来ると、やはりアルフィリースの目論見通り投石の精度にばらつきが出始めた。城壁の前に落ちている岩を見れば想像できたことではある。そして先ほどは一度に10発の岩が飛んできたが、今度は7つしか飛んでこなかった。


「(これは・・・)」


 アルフィリースが目を凝らす。敵陣の中には慌ただしい動きがみられていた。ルナティカが偵察時に行った仕掛けとは、投石機を固定する縄や継ぎ目に切れ込みを入れてきたことである。投擲を行うと、機械そのものが壊れるように。アルフィリースは投石機の対抗策を考えてはいたが、ルナティカの機転に感謝した。アルフィリースが考えたいくつかの策より、確実な方法だと思ったからだ。そして思惑通り、ルナティカの細工は功を奏していた。

 すかさずアルフィリースはエブデンに向けて叫ぶ。


「いつもなら、何回攻撃の波が来る!?」

「最低5回は来るな!」

「今日は来てもあと1、2回よ! 迎撃の準備をして!」


 アルフィリースが身を城壁から乗り出すと、城攻め屋達は既に前進の体勢を取り始めていた。アルフィリースが右手を挙げて叫ぶ。既に投石機の攻撃はやんでいた。


「迎撃準備! 弓兵、前へ!」

「弓兵、前へ!」


 ラインが復唱で続く。アルフィリースの傭兵達は流石に冷静で、彼らはすぐに弓矢を構えて城壁に身をかがめた。矢筒を足元に置くと、それぞれが矢を引き絞る。敵の突撃は既に、いつの間にか開始されていた。


「合図を待て」


 ラインの声で緊張が傭兵達に走る。そして敵たちが鬨の声と共に、なだらかな斜面を駆け昇ってきていた。


「進め、進めぇ!」

「サラモの砦、なにするものぞ!」

「戦功一番は俺だ!」

「馬鹿、小隊で山分けだ!」


 統率感のない声を口々に叫びながら、城攻め屋達は突貫を行う。士気は高いが、クライアを飲んでかかってくるのがよくわかった。

 アルフィリース達は彼らが斜面の半ばを過ぎたのを確認すると、上げた右手を振り下ろす。


「放て!」


 アルフィリースの叫びと共に、城壁に並んだ弓兵100人から矢が放たれる。矢は風切音と共に、城攻め屋達を一斉に襲った。


「ぎゃあ!」

「いてぇ、いてぇ!」

「なんだあの矢は。こんな距離から届くのか!?」


 予期せぬアルフィリース達の攻撃に、城攻め屋達から悲鳴が多数聞こえる。続けて迫る第二射に、完全に城攻め屋達の勢いが削がれた。城攻め屋達の小隊長が立て直すために叱咤する。


「大盾を出せ! 所詮は矢だ、盾で防げる」


 そうして大盾で凌ぎながら前進をしようと試みた城攻め屋達。そしてやや後方から号令を飛ばす小隊長の一人を、的確な矢が貫いた。脳天に突き刺さり、ぐるりと白目をむいて倒れる小隊長に、城攻め屋達の温度はまたしても一つ下がった。


「さすがオーリです」

「世辞はいりませんフェンナ様。この程度、シーカーの男なら造作もないこと」


 オーリの矢が続けて指揮官らしきものの頭を射抜く。三本の矢を同時に放つオーリの腕前は、彼の謙遜とは裏腹に既にシーカーの中でも突出していた。


「(すごい腕前だわ、また上達している。ウィラムの死がそうさせたの?)」


 フェンナはライフレスに殺されたオーリの上官を思い出すが、それも一瞬。次の瞬間にはアルフィリースの張りのある声が、フェンナの意識を戦場に引き戻していた。



続く


次回投稿は、2/27(水)19:00です。

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