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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第三幕~その手から零(こぼ)れ落ちるもの~
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足りない人材、その8~戦いの報酬~

***


「負けましたね」

「ああ、負けた」


 イライザと手合せしたその後、ジェイクはリサと深緑宮を離れる方向に歩いていた。まだジェイクが先の戦いから帰還してから、それほど時間は経っていない。先の戦いでの功績をもって、ジェイクは正規の神殿騎士団として認められた。これから彼はその年齢にかかわらず、神殿騎士団の任務を請け負うことになる。それは、ジェイクが他の兵士と同様に最前線に送られる可能性を示していた。

 そしてジェイクは現在の自分の実力を知るため、ミリアザールに言われた通りイライザと一騎打ちをすることになった。イライザの実力は、神殿騎士団でもかなり上位に位置する。10傑に入るかどうかはわからないが、その彼女がジェイクの実力を判定することになった。

 だがイライザも普段の双剣ではなく、長さのみを双剣と同じにした棒でジェイクの相手をすることになった。もちろん練習用の、刃先を潰した木製である。一騎打ちに立ち会ったリサを含めて、その戦いを見ていた人間達は「ひょっとすると」という期待感を抱いたが、結果はイライザがあっさりとジェイクを仕留めたのであった。

 だがジェイクは気落ちするではなく、言い訳もなくその場を去った。それにはリサも意外に思っていた。


「随分とあっさり引き下がりましたね、ジェイク?」

「真剣勝負だったから。真剣勝負は、そう何度もするものじゃない。それに、あれが俺の今の実力だと思う」

「謙虚なのですね」

「そうならざるを得ない。前回の戦いで、俺は嫌というほど自分の実力を知ったから。途中で戦った魔物達、魔王の数々と、とてもじゃないけど戦えなかった。最後の悪霊も、仲間の援護なしじゃ倒せなかった。何も自慢できるところなんて、ない」


 ジェイクの言葉には重みがあった。彼が心から話しており、また強く感じたことだとリサは思った。センサーでなくとも、ジェイクの感情はわかるだろう。


「ジェイクは英雄にでもなるつもりだったのですか?」

「できればそうなりたかった。だけど、リサの事を守りにすら行けなかった・・・俺は何一つ強くなってないのかと・・・」

「前回の戦いでは、十分リサは助けられました。現に貴方が敵の悪霊を倒したおかげで、多くの者が助かりました。あの場に赴いていいた者は、全員理解していることです」

「そうなのかな。あまり実感がなくて」


 自身のなさそうなジェイクを前にリサはどう言葉をかけるべきか悩んだ。が、


「しっかりしなさい。確かにこんなところで満足してもらっては困ります。大陸一の騎士になるのでしょう? こんなところで愚痴をこぼしていて、何か前進できるのですか?」


 リサは敢えて厳しい言葉を選んだ。リサの言葉にジェイクは驚いたようにリサの顔を見たが、すぐにその面を引き締めた。


「そう・・・だよな。確かにリサの言う通りだ」

「では何を成すべきか、わかりますね?」

「ああ、すぐにでも剣を振ってくるよ。さすがだね」

「?」

「リサはいつも俺に正しいことを言ってくれる」

「・・・もちろんです。私は貴方の母代りであり、姉役であり、そしてあなたの恋人なのですから。剣を振るのはイイですが、ちゃんと勉学の方もなさい? あまり成績が芳しいとは聞いていませんよ」

「ちぇっ、勉強は苦手なんだよなぁ」


 そう言いながら、ジェイクは足早に駆けて行った。深緑宮を出たところで、ブルンズやドーラが彼の帰りを待ちわびていた。午後にはまたグローリアの授業に出席するように言われているから、律儀に迎えに来たのだろう。単に、ジェイクがどのくらい出世したのか知りたいだけなのかもしれない。

 ロッテだけがリサの方にぺこりと礼をすると、彼らは少年らしくふざけ合いながら駆けて行った。その後ろ姿を見送りながら、リサは内心でため息をついた。


「(やれやれです。少し見ないうちに、どんどん男の子は成長する。こっちは会うたび驚かされてばかりです。ミルチェの絵が高値で売れたので、チビどもを引き取って全員で住む家でも買おうかと思ったのですが、その相談はまた今度にしましょう)」


 リサはくすりと笑うと、楽しい思案を巡らせながら、傭兵団イェーガーの方に戻るのであった。


***


 傭兵団イェーガーに戻ったアルフィリースは、せわしなく準備をしていた。傭兵派遣のためのギルドへの申請、そして報酬の確認と、派遣受理証。これから受理する予定であった依頼の解約と、代替案。遠征に参加できる人間の選定と、部隊編成。加担する陣営への申請はギルドが魔術で行ってくれるので、まあ数日で返事が来るだろうと思っていたが、余程彼らは戦力に乏しいのか、即日で返事が来た。しかも通常よりもかなり高額の報酬である。

 負けている側への加勢なのだから高額報酬になるのは当然だが、あまりに負けかけていると、仮に勝っても報酬すら支払われないこともある。そのあたりの調査も含めて、ギルドが慎重に交渉を進めてくれる。もし報酬が正当に支払われない場合、ギルドが何割かを補填する制度になっている。その代わり、ギルドは契約を違反した国に対して、仕事を受理しないなどの措置を取る。そのため交渉するギルドはかなり慎重に相手の査定を行っており、また派遣した傭兵団が契約を反故にした場合は、同様に傭兵団に対して厳しい罰則が待っていた。

 その上での契約なのでアルフィリースは素直に受理したのだが、相手からの要求は7日以内に到着するようにとのことだった。ギルドの交渉係は引き続き交渉を続け、到着日時を伸ばすように言ってくれるようだが、あまり猶予が持てないほどの戦況なのかもしれない。ここから目的地までは飛竜で4日ほどかかるため、アルフィリースは急ぎ準備を整えるようにアルネリアと傭兵団に伝え、リサに頼んであらゆる情報を集めるようした。そしてジェシアも呼び出して、必要になりそうな武器、防具、糧食の手配を頼んだのである。

 先ほどジェシアがアルフィリースの元を訪問し、現地へ全ての荷物が到着するように手配を終えたとのことだった。ジェシアがどういった物流の流れを持っているかはアルフィリースもよくわかっていないが、どうやら大陸のほぼ全域に対して荷物の運搬を行えるらしい。アルフィリースは頼もしく思いながらも、ジェシアの正体について多少なりとも危ぶみ始めていた。いつかは彼女に、その真意を確かめる必要があると。

 そして既にエクラに自分が留守の間を頼むと伝えると、既に時刻は日が変わるところであった。廊下に置いたねじまき時計が、既に日が変わったことを示していた。アルフィリースは私室に帰ると、重苦しいブーツや外套を脱ぎ捨て、肌着のみになる。ふっと鏡を見ると、表情はかなりくたびれていた。最近書類仕事や調整が多く、あまりアルネリアの外に出かけていないからからもしれない。

 体を多少動かすべきかと思いつつ、さすがに明日にしようと考えベッドに向かう。大浴場の水は既にないだろうから、明日の朝にでも湯浴みする必要がありそうだと、ため息をついた。そろそろ蒸す時期になりつつあるから、体を拭かずに寝るのはなんともいえず不快になりつつある。

 アルフィリースが疲れた体を引きずって部屋に向かうと、窓をこんこんと叩く者がいた。ユーティである。窓を開けろと、身振りをしている。


「何の用?」


 アルフィリースは面倒くさいとおもいつつも、窓を開けてやった。夜の涼しい風と共に、ユーティが入ってきた。



続く

次回投稿は、2/5(火)20:00です。

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