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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第三幕~その手から零(こぼ)れ落ちるもの~
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足りない人材、その3~少女の退屈~

「一方が勝ちすぎると、何がどうまずいの?」

「交渉時に対等の調停がやりにくくなる。戦争ってのは勝ちすぎるとまずい。恨みが残るからね。双方それなりに痛み分けってのが理想なのさ。

 だけど今回はヴィーゼルが圧倒的に有利なんだ。この状況じゃ、五分の内容で休戦調停を結ぶのは難しい。そこでアルフィの出番ってことになる」

「国家が直接介入する前にクライアの側につき、戦争を五分にもっていけばいいのね?」

「そう、勝ってはだめ。ここが難しい」


 ミランダの言葉にアルフィリースはしばし悩むと、首を縦に振った。


「・・・いいわ、この話受けましょう。ただし条件がいくつか。遠征のための費用はアルネリア持ち。後は飛竜を手配して。依頼を達成した暁には50万ペント頂くわ」

「随分と足元を見よったな」

「アルネリアにも、今の依頼を行えるだけの人的余裕もないんでしょう? それに調停側が直接介入するわけにもいかないでしょうし。調停役には誰を寄越してくれるの?」

「巡礼の誰かを向かわせることになるじゃろう。それも上位の者をな」

「いいわ、それで手を打ちましょう」


 アルフィリースはあっさりと依頼を引き受けると、早々に暇を告げてミリアザールの元を後にした。残ったミランダとミリアザールはややぽかんとして、アルフィリースの後姿を見送った。


「・・・いやにあっさり引き受けたのう」

「アルフィの傭兵団は上昇気流にあるからね。色々やってみたくて、アルフィリース自身がうずうずしているんだろうさ。そういう時期って、誰にでもあることだあろう?」

「確かにの。そういう時にこそ、落とし穴が待ち受けるもんじゃが」

「そうだね。でも、それもいい経験さ。万が一なんて心配していたら、何もできないしね。それより、黒の魔術士達の情報があるって?」


 ミランダがミリアザールの手元に残った書簡に手を伸ばす。ミランダが広げてその書簡をなんとなく見ていたが、しばらくしてその目が見開かれた。


「・・・なんだこりゃ。どうやってこれを調べたんだ?」

「さて、な。やはりテトラスティンは不気味な奴よ。じゃがこれでワシの得た情報と併せて、奴らの切り崩し方が見えてきたぞ。

 ミランダ、人員を準備しておけ。機を見つけて、こちらから仕掛けてやる」


 ミリアザールは不敵に笑う一方で、ミランダは深刻な顔をしていた。


「・・・なあミリアザール。確かにオーランゼブル達に対して光明は見えてきたが、疑問点はまだ山ほど残っているんだ。確かに奴らについての情報が集まってきたが、その意図はいまだ明確には見えない。

 それにアルフィに対してもだ。やっぱりアルフィは征伐部隊の連中を皆殺しにした件を、覚えていないようだ。マスター、あんたなら何らかの考えを持っているんだろう?」

「うむ・・・いくつかの可能性はあるがな。その辺をテトラスティンの奴に聞いてみたかったのじゃが、行方不明ときた。どうしたもんかの」


 ミリアザールは手の中で茶飲みをあそばせながら、残りを一気にあおるのだった。


***


 アルフィリースは傭兵団の本拠に帰ると、即座に戦の手配を始めた。隊長達を招集し、必要な物品と人員を選抜する。急遽計画された依頼のため、エアリアル、ダロンなどは別件で留守にしていが、他の者達は幸いにも招集に応じてくれた。

 短時間で行われた会議と、まだアルネリアに残っていた人数を考えて、今回は傭兵団総数の半分にあたる500人での遠征となった。それに応じてアルネリア教会に連絡がなされ、必要な食糧、飛竜が準備される。装備品はある程度新調されるとの通達もあったが、傭兵達は多くが使い込んだ自らの武器を持っていくことを主張した。それはジェシアが彼らに用意した装備の質が、当座十二分であったことを示していた。

 そしてアルフィリース達が傭兵団を留守にすることで、傭兵団で開講されている学校なども一時休止となる。講義の教官がルナティカの時、その知らせはもたらされた。


「・・・わかった。では今日の護身術の講義はここまで」

「えー、そりゃあないぜルナ。体が暖まってきたところなのによ」


 文句を言ったのはゲイル。成長期の彼は体も最近一回り大きくなり、もはや成人とあまり遜色ないくらいの体格をしていた。このまま成長を続ければ、かなり大柄な人間となることだろう。発達した筋肉は彼が鍛錬を怠らず、また戦いに向いた人間であることを示していた。

 体の大きくなったゲイルは、ルナティカの体術の講義だけでなく、傭兵達にも剣の手ほどきをしてもらっていた。ゲイルは筋が良いので、傭兵達も面白がって教えていたのである。

 そのゲイルは体を動かしたくてたまらない。アルフィリースが許可しないため傭兵としての依頼こそ受けていない分、町娘達向けの護身術でさえ、顔を出して体を鍛えたいと言い出す始末だった。


「よしなさいよ、ゲイル。脳みそまで筋肉になるわよ」


 と、エルシアが茶々を入れる。ゲイルはふくれっ面になりながら、不満を口にした。


「なんだよ、エルシアはサボるのに丁度いいと思っているだろ」

「その通りよ。これから花の乙女になるのに、筋肉ばかり身についたら誰にも見向きされなくなるわ」

「なんだよ、娼婦にでもなるつもりかよ」

「それもいいわね。ターラムの高級娼館にくるわ入りすれば、その辺の貴族なんかより遥かにお金持ちになれるらしいから」


 ふふん、と余裕の返しをするエルシアに対し、ゲイルは不満を顔にあらわにしたまま、その場を去った。エルシアの事を憎からず思っているゲイルにとって面白くないエルシアの返事であったが、これ以上何かを口にしても泥沼にはまるくらいの分別はついたのだ。

 エルシアもまた最近口論のし甲斐の無いゲイルに面白みを感じなくなり、彼をからかう以上に興味を持てる何かを見つけようとしていた。面白くもない護身術の講義に顔を出したのも、そのためである。

 そのエルシアにルナティカが近寄った。


「エルシア、レイヤーはどこか知らないか」

「さあ? あいつって最近仕事ばかり引き受けているから、一日中アルネリアの中を走り回っているわ。配達業がほとんどみたいだけど。日が暮れるときっちり部屋に帰っているみたいだから、もうそろそろ居るんじゃない?」

「そうか」


 それだけ言うと、ルナティカはさっさと去ろうとする。講義を受けに来ていた町人達にしばらくの休講を告げると、最低限の伝達だけ残して宿舎の方に向かって歩いていく。そのルナティカを、エルシアは呼び止めた。



続く

次回投稿は、1/26(土)21:00です。

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