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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第三幕~その手から零(こぼ)れ落ちるもの~
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足りない人材、その2~出撃の理由~

「そのフーミルネじゃがな、部下にイングヴィルという男がおる。その男は魔術教会で略奪者プランドラーという部隊を率いているのじゃ」

「プランドラー?」

「通称征伐部隊、といえばわかるかの?」


 ミリアザールの言葉にアルフィリースは息が詰まりそうになった。アルフィリースにわからぬ名前ではなかったからだ。そう、自分が故郷を追われることになった直接の原因。それが略奪者達との争いであり、またアルドリュースの運命を変えた出来事でもある。

 アルフィリースがお茶でむせこむ中、ミランダがその背を叩く。


「そ、それは・・・」

「アルフィリースよ、なんのためにお主をここに呼んだと思っておる? まさか世間話の相手位に思っていたのか」

「えーと」


 そうです、そして私が仕事をさぼる口実です、とは口が裂けても言えないアルフィリースである。ミリアザールはそんなアルフィリースの内心を読んだかのように話を続ける。


「・・・まあよいわ。そしてそのフーミルネとイングヴィルが今度、このアルネリアにやってきそうなのじゃ」

「え、なんで?」

「魔術教会との折衝は定期的に行われている。特に会長が変われば、当然むこうとしても今後のことについて色々話合いたいと思うさ。当然だろ?

 ってことは、アルフィはこのアルネリアを離れていた方がよさそうだね。その算段が本題ってことか?」

「その通り」


 ミリアザールは話が早くて助かるといわんばかりに、机の引き出しから数枚の文書を取り出した。


「ここより南西になるが、クライアとその東にあるヴィーゼルの間で戦争が起きた。と言っても、まだ国家間の戦争には至ってないがの。その戦争に介入してもらいたい」

「はあ? そりゃまあ戦争だからアルフィのような傭兵にとっては絶好の稼ぎ時だけどさ、話がおかしいだろ」

「何がおかしいの?」


 アルフィリースは事情がわからず、困惑しながら質問した。ミランダが答える。


「んーとね、クライアって国は比較的新しい国家なんだけど、もとは盗賊が建国した国でね。建国自体どさくさ紛れだったんだけど、国土の大半が砂漠のせいで資源に乏しくてね。攻めるに難しく、奪って旨味なしってことで黎明期を生き延びたんだ。

 だけど国土の大半が砂漠じゃ、当然国民の暮らしは厳しい。それに国民の大半が狩猟民族のせいで、気性が荒い。しょっちゅう他国に突っかかっては、恫喝のようにして何かを要求する。威圧外交といえば言葉はいいが、野盗の所業だね。まあ中原の困ったちゃんって扱いなのさ」

「じゃあ今回もクライアがきっかけで?」

「いや。奴らは脅すことに慣れているし、そんな露骨な事ばかりしていたら現在の情勢じゃ国家として相手にされなくなる。だから奴らとしては、まさに他国を威圧するように軍隊を動かすことで他国を威すだけで、まずもって実際の戦闘を仕掛けない。戦争をしたらアルネリアが出張って調停をするだろうし、そうなれば責任を取るのは仕掛けた側だ。今の世の中じゃ戦争をして良いことなんて、ほとんどありゃしないのさ。

 そのことが分かっているからこそ、クライアも牽制行動だけにしていたんだ。むしろ砂漠での交通や通路開拓。それに魔物退治なんかでは、はるかに他国よりも貢献度が高い。変な国だが、国家として一つの形は成していた」

「それがどういうわけか、今回は戦争までに至った。経緯は調べさせたが、実にくだらんと言えばくだらんし、なるほどと言えば納得の部分もある。経緯はこうじゃ。

 クライアとヴィーゼルの国境にある村同士での子供が喧嘩をした。ところが喧嘩は非常に一方的であり、事情も言いがかりのようなものじゃったそうな。ヴィーゼルの子供が一方的にやられたのじゃが、程度がひどかった。子供は右腕が一生使い物にならなくなったそうな。

 そこでヴィーゼル側の子供の両親が相手に謝罪と補償を求めたが、クライア側の親がこれを拒否。今度は大人同士の喧嘩になったが、今度はヴィーゼルがやりすぎた。相手の家に火をつけたのじゃ」

「過激ね」


 ミリアザールの話に、アルフィリースが驚く。ミリアザールはなおも続ける。


「話はここで終わらん。そして報復として、今度は町の自警団同士の抗争になった。クライアが勝ち、ヴィーゼルの町に火をつけた。そしてヴィーゼルは領主に泣きついて、地方軍を動員させてその町を焼き払った。そしてクライアもまた地方軍を動かした。今がここじゃ」

「なるほど。で、アルネリアとしては今後どうしたいわけ?」

「当然、国家間の本格的な戦争になる前に調停に乗りだす。だが問題が一つ。現時点でヴィーゼルの側が勝ちすぎている」

「へぇ、アタシはてっきりクライアの方が強いと思ってたけど。ヴィーゼルって資源が豊富だから、あまり戦闘慣れしていない軍隊の印象だけどな」


 ミランダが意見を述べたが、ミリアザールも頷いた。


「その通りじゃが、ヴィーゼルには金がある。彼らはその金で傭兵団を雇った。カラツェル騎兵隊をな」

「・・・何色?」

「確認されておるのは3つ。青と、黄色と、緑」

「それでも一方的か。他の部隊が来たら・・・」

「一瞬でクライアが負ける。ワシとしては、特に赤と茶が乗り込んでくる前に争いを収めたい。それに総隊長が来る前にもな」

「ねぇ。話が見えないんだけど、私は結局どうしたら良いわけ?」


 アルフィリースがふてくされたように頬を膨らませた。



続く

次回投稿は、1/24(木)21:00です。

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