魔術総会、その20~魔王の誘惑~
「そいつはやべぇな・・・テトラスティンよぉ、俺をなんとかしてその場所までつれてけねぇかい?」
「そうだな・・・なんとかなるように手配してみよう。ウィンストン、いけるか?」
「なんとかしないといけないのでしょうね。わかりました、やってみましょう」
「済まんな」
「まあこれも何かの縁でしょうね」
ウィンストンとしても、既に諦めの境地に近かった。彼らは思いもよらぬ事態に、夜遅くまで相談に耽るのであった。
***
「ふう・・・疲れたな」
「ええ、長かったですね」
ウィンストン、パンドラとの話し合いを終え、テトラスティンとリシーは教会を後にしていた。あと半刻もしないうちに夜は明け始めるだろう。彼らも不老不死に限りなく近いとはいえ、睡眠をとらないで生きていける体ではない。既に疲労はかなり溜まっていた。そうでなくとも、ここ最近は残務処理が多くて気が休まる暇もなかったのだ。
テトラスティンは落ちそうになる自分の瞼を堪えながら、ふっと手元の資料を見た。結局、誰にもわたせなかった資料がいくつかある。一つは、各地で魔術の使用できない土地が増えていることについての資料。これは各地で行動する魔術士達から寄せられたものだが、テトラスティンはいくつかの派閥に命じて実態を調査させた。今までそのような土地が点在することは知っていたが、誰も追及しようとはしなかった。あが今回の調査で、そのような土地が新たに10か所以上も発生していることがわかった。
そして一つは、アルフィリースの記憶の錯乱について。彼女の身辺を調査させたところによると、アルフィリースは子供の時に殺した征伐部隊の事を覚えていない節がある。それに、アルドリュースの元を離れた後、ひそかに向けられたアルフィリース暗殺のための征伐部隊。イングヴィルすら知らず、テトラスティンとフーミルネのみの独断により派遣されたその部隊は、アルフィリースの前に呆気なく全滅させられた。その回数、実に三度。だが、そのことすらアルフィリースは覚えている節がなかったのだ。
そしてフーミルネも知らないが、テトラスティンが導師の一人に頼んで、催眠術を彼女に施したこともある。全てはアルフィリースから情報を引き出すためだった。だがアルフィリースは催眠中で完全に意識がないにも関わらず、その導師を殺し、死体を処分するところまで手落ちなくやったのだ。導師達の何人かは知っているが、アルフィリースは導師殺害も行ったことになる。彼女は永久に導師からの援助を受けることはないだろう。
テトラスティンは考えた。アルフィリースは確実に誰かの手によって守られている。それがアルドリュースの仕掛けた本当の呪印なのか、あるいは別の可能性か。そのためになぜ彼女が魔術の才能を誰にも気が付かれなかったのかを探ったのだが、その答えは出ずじまいだった。
魔術教会で調べられないのなら、別の連中に任せるしかない。テトラスティンは、この続きはミリアザールの方がやりやすいだろうと考えた。資料をまとめ、使い魔に持たせてミリアザールの元に転移させる。そこには黒の魔術士達の情報も書かれていた。そこまでやったところでリシーが話しかけてきた。
「テトラ、これからどこへ?」
「俺達の生まれ育った村に行こう、あそこが俺達の原点だからな。その後は東へ。必要があれば大陸も渡ろう。浄偽白楽が最近何もこちらに圧力をかけてこないことが気になる。東の大陸からの人材の輸出も止まっているようだし、貿易も制限がかかっているようだ。気になるだろう」
「・・・そうね。時には思いを風化させないことも必要だわ。それで東といってもどこへ・・・」
リシーが何かを言いかけて、背後の木に向けて投げ斧を放った。投げ斧は命中音を残したが、その音は気に当たった高い音ではなく、肉にぶつかった鈍い音であった。
「ひどいなぁ、痛いんだけど」
「・・・お前は、アノーマリーか」
木の前に立っていたのはアノーマリーだった。どうやら姿を消す魔術を使っていたらしい。リシーの斧が脳天に命中していた。その斧を取ると血が吹きだしたが、そのまま話し続けるアノーマリー。
「中々素敵な助手を持ってるね。どう、ちょっと貸してみない? もっと色々やってほしいんだけど」
「お前のような変態に貸すにはもったいない女だ。諦めろ」
「しょうがないな、じゃあ用件だけ。テトラスティンさぁ、ボク達の仲間になりたいって、本気?」
アノーマリーはぎろりと、その歪んだ目を彼らの向けたのであった。
続く
次回より新シリーズです。評価・感想などお待ちしています。
次回投稿は、1/20(日)21:00です。