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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第三幕~その手から零(こぼ)れ落ちるもの~
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魔術総会、その19~会長選の裏側~

「テトラスティンよぉ、これで俺はお役御免かい?」

「まあそうだな。また保管庫に戻るもよし、どこかに行くも良し。長い間ご苦労だったな」

「別に長くねぇよ。何千年だか生きてる俺にしたら、こんなのは星が瞬くごとくってことよ。まあ面白かったぜ、この何十年かは。昔の魔術士ってのはもっとギラギラしてたが、最近じゃ物足りねぇ人間が多いと思ってたんだ。魔術士の戒律だか何だかに縛られてて、どいつもこいつも自分の欲に素直じゃねぇ。魔術士である前に、一人の人間だろうがお前らって話だよ。その点お前は合格だぜぇ、テトラスティン。

 それにしてもうまいことを考えたもんだ。俺を使ってのイカサマたぁな」


 パンドラが煙草を吹かす。その煙で部屋が少し白くなるのを、ウィンストンが迷惑そうに眺めていた。


「あまり煙草をふかさないでくれるか、パンドラよ。部屋に匂いが残る」

「いいじゃねぇかよウィンストン、イカサマの相棒よ。どうせ ばれたって構いやしねぇんだ。俺達のイカサマの方法に気が付く奴はいねぇだろうが、フーミルネなら何かが怪しいとは当然思っただろう。特に今回はな。フーミルネが馬鹿じゃけりゃ、選挙の方法自体を変えて、人事を一新するはずだ。選挙に参加できる18の派閥も顔ぶれが変わるだろうな。

 フーミルネの欠点は、腹黒い、後ろ暗いところを多く抱えているくせに、やり方が現実の範疇を超えていないところだ。そういう奴でもうまいこといくだろうが、なんせ今度の相手はオーランゼブルなんだろう? まともなやり方じゃ負ける。フーミルネはそこんとこがわかってねぇ。ああいう化け物みたいなやつが相手なら、こっちも倫理だなんだにかまけてたら負けるんだよ。

 そう、そこのテトラスティンみたいに外法を使うのもいいだろう。俺が魔術を吸収できる箱だと全員に信じ込ませ、何の害もなさそうで実は自分とグルなウィンストンに選挙を仕切らせるとか、な」


 パンドラは再び煙草をふかした。そう、テトラスティンが会長に就任している時の選挙は全てイカサマである。

 パンドラはただの遺物アーティファクトだと周囲からは思われている。だが、現実には意思を持つ世にも稀な遺物であり、その歴史は本人も覚えていないほど古い。おぼろげな記憶では、古竜の時代から存在したはずだとパンドラは自分を語る。

 そして魔術を吸収するかどうかは、パンドラの意思一つである。そしてパンドラの箱の中は、彼が自ら手を入れた時に限り、無限に広がる空間に変貌する。つまり、パンドラの中身はまさに魔法にも等しいのだ。

 そしてウィンストンの魔術の一つに、書かれた文字を移動するというものがある。そしてウィンストンはその魔術を使い、投票用紙に書かれた記号を移動した。記号は全て線で出来ている。それぞれの線を移動すれば、記号はいくらでも変更できる。そして余った線は、ウィンストンが自分のパンドラそのものに残しておいたのだ。そして線が足らないと困るので、多くの票を獲得しそうな者に対し、線の多い記号を割り振った。

 ウィンストンの魔術の性質をテトラスティンだけが知るからこそ、できる芸当であった。誰も弱小派閥であるウィンストンがどのような魔術を使えるかなど、正確には知らなかったのだ。

 テトラスティンがにやりと笑った。


「そう言うな、パンドラ。ウィンストンがこの魔術教会でも五本の指に入る魔術士だと、見抜いた私が幸運だっただけだ。それに魔術教会の保管庫の隅にしか私も居場所がなかったからこそお前に気が付き、そしてこのようなイカサマを思いついた。それだけのことだ」

「俺が言ってんのは、お前の魔術の事もなんだがなぁ。まあいいや。だが一つ忘れてねぇか。俺とも契約をお前はかわしたぜ?」

「ああ、そうだったな。他の遺物アーティファクトの情報か。しかも、人格を備えるものに関して」

「おうよ」


 パンドラはひょいと机から飛ぶと、リシーの肩に移動した。どうやら居心地がよいらしい。リシーの方が邪魔そうに顔をしかめたが、パンドラは構わず煙草をふかした。


「何か情報はあったかい? なんせこんな体じゃ表もろくろく歩けねぇもんでな」

「残念だが、特に新しい情報はない。ただ各地の遺物が次々と紛失、強奪されているという情報が入ってきた。それを行っているのは間違いなく、黒の魔術士達。彼らの元に行けば何らかの情報を得られるかもな」

「へえ~、じゃあ俺を奴らの元に案内してくれるのかい?」

「それはまずいだろう。それに奴らの強奪している遺物は、どれも比較的新しいものだ。古竜の時代からのものではなさそうだな。お前の起源を知ってそうなものはないだろう」

「ちぇっ、そうかい。それはつまんねぇな」


 パンドラは短くなった煙草をぱくりと口の中に入れて処分すると、次の葉巻を取り出して火を点けた。火もパンドラの中から出てくるから不思議である。

 テトラスティンは続ける。


「逆にパンドラ、お前の方は何か思い出したのか?」

「ん~、どうかな? ここ最近起きて活動しているせいか、だいぶ頭ははっきりしてきたんだがな。いくつか単語は思い浮かんだぜ」

「たとえば?」

「レーヴァンティン、レメゲート、ウッコ。どれもこれもヤバい予感がするぜ。特にレメゲートってのは、世にだしちゃいけねぇな」

「そのレメゲートは知らんが、レーヴァンティンだと? 確か、次の東側諸国の平和会議で同時に開催される統一武術大会の優勝者に授けられる武器が、レーヴァンティンとかいう剣だったはずだ」

「んだとぉ!?」


 パンドラが慌てて葉巻を落とした。と、地面に落ちる前にリシーがうまくつかまえたのだが。



続く

次回投稿は、1/18(金)22:00です。

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