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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第三幕~その手から零(こぼ)れ落ちるもの~
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魔術総会、その13~処断~

「ヤーレンセンよ、何をするつもりだ?」

「これは会長。私は力を証明しに行きます」

「誰に対して、どこに?」

「それは――」

「なるほど、答えられないのか」


 テトラスティンは魔術で水鏡を作り出した。そこにヤーレンセンの姿が映る。


「お前は既に人ではない。その姿を持って、何を誰に証明する?」

「・・・はて、会長はおかしなことをおっしゃる。そこには私が映っているだけではないですか」


 ヤーレンセンは本当にわからないといった顔で、テトラスティンを見つめた。テトラスティンは一瞬考えた後、水鏡を元の水に戻す。


「・・・そうか。会話は成立するようで、そうでもないのだな」

「会長は不思議なことをおっしゃる」

「そうだな、今のお前にはそう思えるのだな――時にヤーレンセンよ、貴様の力を証明したいのなら、丁度良い相手が目の前にいるぞ」

「ほう。どなたです?」

「私だ」


 テトラスティンがローブを翻す。


「一度は教会を追い出され、それでもなお教会での立身出世が諦めきれなかったお前の執念、わからぬでもない。貴様の集大成が今だというなら、それを受け止めるのも魔術協会の長たる私の役目なのだろう――受けて立とうではないか」

「なるほど、それは一理ございますな」

「会長!」


 カラバルがテトラスティンに縋る様に前に出たが、テトラスティンはカラバルを突き飛ばした。


「邪魔だ。カラバルよ、下がれ。もはやこやつは見ての通り、人間ではない。消滅させてやるのが慈悲だろう」

「下がりません! 父がこのように堕落したのは、子である私の責任もあります。せめて私の手で――」


 カラバルが言うが早いか、理魔術を作動させる。理魔術とは、いわゆる旧式の魔術の発展形だと派閥の者達は主張する。魔術が使用されるまでには大雑把に3つの過程があり、1つは大気中の魔力を自らの使用しやすいように変換する過程。2つ目は集めた魔力を収束する過程。そして3つ目は、集めた魔力を放出する過程。それら3つの過程の効率を上げれば、少ない魔力でより高威力の魔術を使用できるというのが、理魔術の命題である。細かい問題は多々あるが、それはまたの機会に語ろう。

 手で印を組み、詠唱にて魔術を発動させるのは通常の魔術と同じ。だが彼らは印の組み方を独特に変化させることによって、さらに魔術効率を上げることに成功した。その印の組み方は個人によって異なり、腕や体に掘った文様によって異なるらしい。つまり、理論を知らない理魔術派閥以外の者には真似できないと言われているのだった。

 カラバルが使用するのは、『圧搾大気ディーププレス』。それもまだ派閥でも上位の者以外は知らない、詠唱簡略型の『圧搾大気ディーププレス』であった。つまり、魔力を溜めて魔術名だけを叫ぶだけで発動するように簡略したのである。


圧搾大気ディーププレス


 カラバルが唱える。詠唱を簡略化した分威力は落ちるが、テトラスティンに先んじて放つには都合がよかった。それでも、並みの魔術士が放つよりは多少なりとも威力がある。カラバルの魔術は不意を突き、ヤーレンセンに命中したと思われた。

 だがしかし。魔術はヤーレンセンの目の前で霧散したのである。


「そんな、馬鹿な・・・あれは、魔術障壁!?」

「そのようだな。しかも、かなり強力だ」


 ヤーレンセンの目の前に展開されたのは、紛れもなく魔術障壁だった。テトラスティンはヤーレンセンの変化を見て、先ほどの液体は人を魔王に変じさせる類のものだと検討をつけていた。だが、今までの報告では魔王は魔術を使用できないはずだった。なぜならば、作られた魔王には知性がないものがほとんどだったからだ。

 だがこのヤーレンセンは知性をある程度残しつつ、かつ魔術も使用している。新たな魔王の展開。テトラスティンもそうだが、この場にいる多くの者がこの脅威を察していた。

 そしてヤーレンセンが高らかに笑う。


「フハハ! 息子よ、なんだその貧弱な魔術は! だからお前はオービタスに劣るのだ。私が手塩にかけて育ててもこの程度か! そんなことではこの父に傷一つつけることはできん!」

「そんな・・・」

「育てたのがお前程度の者だからこそ、この程度なのだろうよ」


 テトラスティンがヤーレンセンを挑発する。ヤーレンセンは敵意に満ちた目をテトラスティンに向けた。


「なんだと? 今、何と言った?」

「何度でも言ってやろう。貴様のような小物に育てられれば、カラバルの才能も腐ろうというものだ。私が育てていればよかったな」

「何ぃ!?」


 ヤーレンセンがぎろりとテトラスティンを睨む間、リシーがカラバルを担ぎ上げて部屋から撤退した。そして部屋では他の魔術士達が応戦準備をしようとしたが、テトラスティンはそれすらも邪魔だという仕草をしたのだ。


「お前達も下がれ、邪魔だ」

「会長、しかし!」

「わからんか。巻き添えを食らいたくなければ下がれと言っている」


 テトラスティンが徐々に魔力を解放すると、吹き上がる魔力によってテトラスティンの服がぱたぱたと揺れる。そのさなか、イングヴィルは確かに見た。朝見た時にはなかったはずの、傷のような者がテトラスティンの体に浮き上がるのを。

 だがリシーが一堂に部屋を出るように促したので、イングヴィルも外に出ざるをえなかった。ただ、その場に蝶の使い魔だけを残して。

 部屋には魔術により結界が施され、中にはテトラスティンとヤーレンセンだけが残された。


「さて・・・これで十分に戦えるな、ヤーレンセン」

「後悔するぞ、テトラスティン」

「だと、いいな」


 テトラスティンは意味深な言葉を言い、上半身の服を脱ぎ捨てた。その上半身にはつぎはぎのように、確かにいくつもの傷があったのだ。

 そしてテトラスティンの口から言葉が紡がれる。


解呪リリース


 と――



続く

次回投稿は1/6(日)22:00です。しばし隔日投稿に戻すので、よろしくお願いします。

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