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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第一章~平穏が終わる時~
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呪印の秘密とアルフィリースの過去、その2~最高教主の使い魔~


「で、どうするの。やる? やらない?」

「え、そうね・・・」


 逆にアルフィリースから戦うかどうかと話を持ちかけられ、アノルンは困ってしまった。


「アタシがやるって言ったら、アルフィはどうする?」

「うーん。私も死にたくはないから抵抗はするけど、シスターを斬るなんて考えたくもないわ」

「アタシも同じよ。アンタを殺すなんて考えたくもない」

「なんで? それが仕事じゃないの?」

「失礼ね。アタシの仕事は確かに通常のシスターとは違うわ。普通のシスターは決められた教区ごとに派遣いされて、1つの修道院や教会で祈りを捧げたり、孤児院や病院で奉仕活動を行うことが仕事だけど。アタシの場合は、もっと危険な仕事を請け負うだけよ」

「例えば?」


 アルフィリースの問いかけに、アノルンは手を顎にやり、少し悩む仕草を見せる。


「そうね・・・まだアタシの教会の影響下にない地域に赴いて布教や奉仕の可能性を検討したり、荒れ果てた土地に行っての原因調査。必要があれば都市や国との折衝も行うわ。それに、教会の影響下にある地域で、正しく我々の活動が行われているかどうかを調査するわ。残念ながら私たちのような組織ですら、私利私欲に走る連中がいるのよ。私の場合、さらに魔物の動向の調査なんてものまでやるわ。まあ言ってしまえば、監査官ってところかしらね」

「で、それを何年くらいやってるのかしら?」

「それはそろそろ十数年・・・」

「それならもう30どころじゃ・・・」

「な に か 言 っ た ?」

「な、なんでもない。私ちょっと用を足してくるね!」


 アノルンの額に青筋が走るのを見て、アルフィリースがすたこらと森の方に走っていく。


「あんまり遠くにいっちゃだめよー? ってアタシは保護者か」


 はぁ、とため息をつくアノルン。なんだかアルフィリースに上手く話を逸らされたような気もするが、まぁこれはこれで良しとしておくことにした。正直なところ、アノルンは個人的にはかなりアルフィリースを気に入っており、もう少し様子を見てみようと思っている。


「危険はないと個人的には思うんだけどねー、上はそう判断しないかな。本当はああいう人物がいるって報告だけでもするべきなんだろうけど、知られるだけでもあの子の行動にかなり制限かかりそうね。大司教とか、ハゲのくせに頭は堅いし」

「ハゲと頭の固さは関係ないじゃろうが」

「そういやそうか・・・って、誰?」


 きょろきょろとあたりを見回すが、だれもいない。だが、いつの間にかアノルンの隣に小鳥が止まっている。


「貴様、自分の主の声を忘れたか?」

「ってだから誰よ? ってかどこよ??」

「貴様の目の前におろうが」


 なんだか小鳥がじっとアノルンを見ている。小鳥のくせに、嫌に目線が鋭い。小鳥なのに、妙に貫禄がある。その目つきにもどこか見覚えがあるなと、アノルンは思うのだ。


「ま、まさか・・・」

「そう、そのまさかじゃ」

「アタシおかしくなったのー!?」

「いや、貴様はもともとちょっとおかしい・・・って違―う!」


 ついに小鳥がアノルンに飛びかかり、彼女をくちばしでつつき始めた。


「何よこの鳥! 丸焼きにして食っちゃうぞ!?」

「貴様、それがシスターのセリフか? 折檻せねばわからぬか??」

「その物言いは・・・・・・・・・ま、まさか最高教主マスタービショップ!?」

「やっと気付きおったか、このたわけめ!」


 アノルンが気付いたことで得意げにでもなったのか、小鳥がふんぞり返り始めた。ちょっとかわいいかもと思うアノルンだったが、小鳥の中身は残虐を絵にかいたような人物だということを忘れてもいない。

 アノルンが急にかしこまって問いかける。


「で、いつからいたんですか?」

「一ヶ月前位からちょいちょい観察しておったわい。鳥の体を使ってな」

「暇人ですか??」

「暇じゃないわ! というか、9カ月ほど貴様からの報告が全くないからじゃろが。3か月おきには報告せいよと、申しつけておったはずじゃがなぁ。どうなっとるんじゃ!?」

「そ、それは~。てへ」

「てへ、とか言うとる場合か! いうとくが、ごまかしはきかんぞ? ワシはかな~り頭に来ておる」


 鳥の目つきが鋭くなる。手のひらサイズの小鳥に、なぜか威圧感を感じるアノルン。


「ちなみにワシは今、ミーシアまで来ておる」

「げっ」

「日が沈むまでには街に到着せい。貴様から報告も受けねばならぬが、次に申しつける案件もある」

「報告すべきことでしたら、早急な件が」


 アノルンが、瞬間真面目な表情に切り変わる。


「わかっておる。魔王出没の可能性についての件じゃろ?」

「! 既に御存じでしたか」

「ワシを誰じゃと思っておる、その辺中に目や口があるわい。なんなら昨日の夜、貴様が酒場でタンカ切った××の内容をここで再生してやろうか??」

「そ、そんなことできるわけ」

「できるわい。なんなら、今日の貴様が履いておる下着の色形まで言ってやろうか?」

「セクハラですか!?」

「なーにがセクハラじゃ、シスターの分際であんな破廉恥なもん履きよってからに。貴様の携行物の内容見たら、うちの教会の信用がた落ちじゃわい」

「やーめーてー!!」


 どうも昔からアノルンは最高教主を苦手としていた。舌戦をしても勝てる気が全くしないのだ。まあ仕方ないといえば仕方ない。なぜなら、彼女はこの最高教主がいなければ明日をもしれない身であったのだから。昔拾われた恩を忘れるアノルンではない。

 そして予想通りと言えば予想通りに、アルフィリースのことについて言及を始める最高教主。


「ちなみに貴様の連れのことじゃがな」

「は、はい!」


 アノルンがさらにかしこまり、岩の上に正座をする。


「(気付かれて当然か、私と一緒にいたんだから。こと異端や、平穏を乱す者に厳しいこの人だ。何事もないはずがない。でもこの人に睨まれたら、世界中どこに行っても安全ではないだろう。あの子を追いつめたら私のせいだ・・・)」 


 アノルンの背中をつつ、と流れる嫌な汗。だが予想外なことに、最高教主の言葉は実にあっさりとしていた。


「とりあえず保留にしておいてやろう」

「へぇ?」

「間の抜けた声をだすでない。ワシは危険は少ないと判断した」

「なんで・・・」

「不服か?」

「い、いえ」


 あわててアノルンは否定する。


「ちなみにアルドリュースとワシは多少交流があっての。あれの育てた者なら、まず間違いは起こすまい。少なくとも本人からはな。それに我が教会の教義を忘れたか? 慈愛はその一つに入っておるぞ?」

「それはそうですが、あの子は異端では?」


 びくびくしながらアノルンは最高教主に尋ねる。だが最高教主の声は穏やかそのものだ。


「事件はまだ起こしておらぬし、事件を起こしそうにもない。貴様らの話をずっと聞いておったが、貴様に語った内容に嘘偽りは塵ほどもなかったよ。そんな者まで処罰しておったら、世の中罪人だらけじゃわい。仮に闇魔術の使い手だとして、闇が悪というのは違うからな。それよりも、慈愛の精神を持って正しき方向に導くことも我らが務め。違うか?」

「は・・・寛大なご処置、感謝いたします」


 ふぅ、と安心するアノルンだが、教主が鋭い指摘を入れる。


「まぁ貴様も気に入っておるようじゃしな、アレの行く末は貴様が見届けよ。一緒におれるうちはな。じゃが、貴様はあの子に嘘をつきよったな?」

「何をでしょう?」

「何が十数年じゃ、数十年の間違いじゃろうが? 貴様が現在の任務に就いてから、既に100年は経過しておるはずじゃ」

「それは・・・そのことを正直に伝えても、彼女は受け入れてくれないでしょう・・・」


 アノルンがうなだれるのを見て、最高教主は声の調子を柔らかくする。


「ワシはそうでもないと思うがな。あの子は『なぜか勝てる気がしない』と言った。本能で貴様が不老不死であることを見抜いたのかもしれん」

「そうでしょうか・・・」

「まあ言う、言わんは貴様の自由じゃ。じゃが、真に友でありたいと願うなら言った方がええ。少なくとも、ワシのようにはなるな」

「マスター・・・」

「っと、おしゃべりが過ぎた。アルフィリースが戻ってくるようじゃ。ちゃんと忘れず、日が沈むまでに町に到着するようにの。ちなみに間に合わなかったら、恥ずかしい折檻じゃ!」


 その言葉にアノルンが跳び上がる。


「恥ずかしい折檻って、ま、まさか??」

「ククク、例のあれじゃ。昔、貴様にやった時はひんひん良い顔で泣いたのう・・・今から楽しみじゃわい。ワシとしては間に合わんでも一向に構わんぞ? 間に合わんでもな。ククク・・・」


 不敵な言葉と共に、小鳥がニヤッとする。鳥に笑う筋肉はついてないはずなのだが。アノルンはとても嫌な光景を見た気がした。今夜は夢に見るかもしれない。


「では待っておるぞ!」


 言いたいこと散々言って、あっという間に行ってしまった最高教主。


「偉い人のくせに、なんて騒々しい・・・ん? そういえば・・・マスター! 合流場所、街のどこですか?? あんな大きい街でマスターを探せっての? 間に合うはずないし! ふ、不幸だわ」

「ただいま~って、どうしたのシスター?」

「早く付いてきなさい、アルフィ! 私の貞操がピンチだわ!!」

「いや、全くわけがわからないんだけど」


 と言いつつも、2人して町に馬を走らせんと急ぐ。この慌てぶりまで含めて、最高教主が2人の様子を観察していたのは言うまでもない。



続く



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