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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第一章~平穏が終わる時~
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初心者の迷宮(ダンジョン)にて、その7~闇との邂逅~

「理由?」

「ええ。貴女が扉の先を危険だと判断した理由です」

「・・・この扉にはこう書いてあるわ。『この扉を永久に閉ざすことにより、邪鬼を封ず。なんびとたりともこの扉を開けることなかれ。再びこの扉開かれたる時、融和と信仰の土地ゼアと同じ命運を辿らん』とね。

 察するにこの扉の奥にいる何者かによりこのゼアは滅びたようね。まあこんな強力な封印術、普通の人間に破ることは不可能だからまず扉を開けることは不可能だけどね」

「その封印術というのは、この白骨の山から察するに呪印の一種ですよね。どうやら自らの命と引き換えに施したようだ。扉の赤い色は彼らの血なのでしょう。それほどする必要があった、と」

「・・・随分詳しいわね」

「それはそうですよ、呪印の女剣士アルフィリースさん?」

「! なぜ私の名前を!?」


 アルフィリースは瞬間的に身構える。この少年はいたってにこやかな笑顔を崩さないが、段々その笑顔が歪んできている。


「だって、暗黒系統の魔術はボクが最も得意とするところだから。それに貴女のことはよく見てるんだよ? 前回はボクのお気に入りの魔王を殺されたしね」

「あなた何者!?」

「その前に一仕事。どうせいるんだろ? 出ておいでよ!」

「・・・妙に鋭いね、君は・・・」


 壁の中からもう一人少年がぬるりと出てくる。音もなく出現した少年に傭兵たちが警戒心を露わにする。どうやら尋常ではないことが起きていると、全員が察し始めていた。


「あの結界さ、どのくらいの時間で無効化できそう?」

「・・・そうだね、2分もあれば十分かな・・・」

「なんですって!?」


 この結界はここにある白骨が自己の生命を引き換えに封印したものだろう。数にしておよそ30人余り。それをたった2分で無効化とは、どれほどの魔力だというのか。


「あなた、自分が何をしようとしているのかわかってるの? とんでもないモノを起こそうとしているのよ!?」

「いやー、むしろそれが狙いですけど」

「ここにいる人間が死んでもいいと言うの?」

「え、それは何か問題があるの?」

「・・・なんですって?」


 もはや少年の笑みはにこやかなものから、陰惨なものに変貌していた。口の端は歪み、アルフィリースが驚き怒る様子を楽しんでいるのは明らかだ。ここで初めてアルフィリースは背筋を冷たい汗が伝っていることに気が付いた。なぜ自分がこの少年に目が止まったのか。そのことをもっとあの段階で考えておくべきだったと。目の前にいる存在、それは、


「み、皆・・・逃げて・・・」


 リサが真っ青な顔をしてガタガタと震えだしている。


「どうした、リサ!?」


 ニアがその様子に気が付いてリサにかけよる。


「ど、どうしてリサは今まで気が付かなかったの・・・こんな・・・こんな存在は人間、いいえ、魔物とさえ呼べない」

「へえ? ボクのことがわかるの?」


 少年の姿がゆらいだかと思うと、一瞬でリサの正面に現れる。ニアは反射的に殴ろうとしたが、拳を振り上げた段階で、拳を止めてしまった。いや、殴りかかるなど土台無理な話だった。


「(なぜ拳が動かない? まさか、怯えていると言うのか、こんな少年に? だが、今動いたら・・・確実に死ぬ?)」


 そのようなニアの様子を気にかける様子もなく、少年は言葉を続ける。


「ボクのこと・・・どう見える?」

「あなたは・・・人間、いえ、生物ですらない」

「どうして?」

「たとえ魔物でも憐れみや慈しみといった感情を抱くことが普通。なぜなら魔物でも子孫は残すのだから、同族に対する愛情表現はあるのです。でもあなたの本質は・・・憎悪、快楽、破壊だけ。それだけしか・・・それだけしかない。生き物ならそんなことはありえない」

「アッハ!? いいね~キミはボクを理解できるんだ。気にいったよ! ボクのお嫁さんにしてあげようかな!?」


 少年の瞳に狂気が宿る。瞳には暗く、しかし爛々とした明りがともっている。


「おことわ――げほっ、うぇぇ――」


 その瞳に宿る感情を正面から感知してしまったリサが思わず吐いてしまう。


「(道理でセンサーが働かないはず、それは私の防衛本能だったのですね。こんな相手と正面から向き合ってたら、それだけで発狂してしまう。ジェイク、助けて――)」

「吐いちゃうなんてかわいいね~ボクの傍に置いたら何日で発狂するかな? 試してみよう♪」


 少年がリサに手を伸ばそうとした時、アルフィリースが予告なく少年を斬りつけていた。だが背後から斬りつけたにも関わらず、ひらりと鮮やかにかわす少年。


「リサに触れるな!」

「ひどいなお姉さん。こんないたいけな子どもに後ろから斬りつけるなんて」

「もはやあなたを子どもとは思わない。一体何者なの?」

「ああ、これは失礼しました」


 少年は大仰にお辞儀をしてみせる。


「ボクの名前はドゥーム、まあただの魔術士だよ。ちなみにそこの無口なのは・・・ねぇねぇ、キミの名前ってなんだっけ?」

「・・・どうでもよくないか?・・・それよりもうすぐ解呪が終わるが・・・」

「え!?」


 いつの間にかもう1人の少年が扉の前で解呪を行っている。本当にあと1分もなく封印は解けるだろう。


「すぐにやめなさい!」


 今度はフェンナがいち早く矢を少年に向ける。彼女にしてはいつになく厳しい声である。


「・・・聞けない相談だね・・・」

「ならば!」


 フェンナが矢を射る。矢は見事肩口に命中するが、まるで少年は気にかける様子もない。フェンナは内心動揺するが、既に次の矢を構えている。


「・・・急所をはずすなんて優しいね・・・」

「・・・次は頭に当てます」

「・・・どうぞ?・・・」


 フェンナも本来の気性は穏やかとはいえ、戦場において躊躇はしない。すぐさま解き放たれた矢は見事少年の頭を命中するが、それでも少年は気にかける様子がない。


「そんなバカな!?」


 フェンナは次々と矢を繰り出すが、何発頭に命中させようとも少年はびくともしない。その異様な光景にフェンナは完全に怯えていた。怯えていたからこそ次々と矢を放ったのかもしれない。少年の頭が刺さった矢でハリネズミのようになったところで、やっと少年が振り向いた。


「・・・いくらなんでも遠慮しなさすぎでしょ?・・・見えにくいったらありゃしない・・・」

「ひっ!」


 フェンナが思わず弓矢を落とし、手で口を覆っている。それもそのはず、矢の何本かは少年の顔面に突き抜けていた。一つは目を突いている。なのに血が一滴も出ていない。それは異常な光景だった。


「・・・ところで君はシーカーの王女様だったね・・・」

「そ、そうです」


 震える声を押し殺して、フェンナが必死に応答する。


「・・・君の仲間ね、まだ生きてるよ?・・・」

「えっ?」


 それは意外な発言だったので、フェンナは思わず相手が敵であることを忘れてしまった。


「・・・僕と来れば会わせてあげてもいい・・・どうする?・・・」

「そんな・・・私・・・」

「フェンナ、聞くな!」


 フェンナの迷いを遮るように、どこから出したか少年目がけて振り下ろされるミランダの巨大メイス。巨体のオークすら粉微塵にする一撃である。少年では受け止める術もないように思われたが、ぱしっ、といとも簡単に片手で受け止められてしまった。


「んな?」


 ミランダは驚いたが、さらに彼女が驚いたのは今度は少年がそのメイスを握力で握りつぶし始めたことだった。鋼鉄製のメイスを、である。


「は、離せ!」

「・・・いいよ?・・・」


 少年はミランダの言うとおり、メイスを放した。正確にはミランダごと天井に向けて、だが。


「ぐあっ!?」


 激しい激突音と共に、10mの高さはあるであろう天井にぶつかるミランダ。そしてそのまま落下してくるが、ニアが間髪受け止めに入る。


「・・・で、そうしてるうちに解呪が終わったけど?・・・」


 ギイイ~、と重苦しい音を立てて扉が開いて行く。本当に2分もかからず解呪してしまった。


「えー、俺はリサちゃんと遊びたーい!」

「・・・それはダメ・・・仕事が先だよ・・・」

「ぶー! じゃあ終わったらたっぷり遊ぼうね、リサちゃん。何日間でも夜通し付き合ってあげるから、フフフ・・・」


 怯えるアルフィリース達を尻目に、扉の先に向かおうとするドゥーム達。もはや気力的にまっとうに立ち向かえそうなのはアルフィリースだけだったが、彼女も追う気にはなれなかった。むしろ早くこの場を立ち去りたくて仕方がなかった。だがそんな彼女たちに無情な現実が付き付けられる。

 ガリガリガリ、と突然階段の入口に上から石の扉が下りてきて締まったのだ。おそらくは赤い扉が開いたときに発動する罠だったのだろう。あるいは封印されている者を出すまいとする予防措置。

 ここにきて事の成り行きをただ呆然と見守るだけだった傭兵達も、現実に引き戻された。石の扉が閉まる音は、彼らにとって捕虜を拷問死させる部屋の音に聞こえた。

 何人かの傭兵が出口に殺到する。


「くそ、開かない!」

「これは・・・魔術で補強されてる?」

「ここから出せー!」


 扉の周囲で騒ぐ者、事の成り行きをさらに見守る者、冷静に対処しようとする者など様々な様子だったが、扉に入る直前のドゥームの行動はさらに追い打ちをかけた。慌てふためく傭兵達を面白そうに眺めながら、面白い余興を思いついたとばかりに手を叩いた。


「ねえねえ、もう予定の人数は集まったから、後は好きにしてもいいんだっけ?」

「・・・いいんじゃないか・・・」

「そーゆーことなら。おいで、マンイーター!」


召喚サモン


 地上に魔法陣が描き出され、何か邪な気配をもった存在が召喚されてくる。全員がこれに気付き、怯えながらも戦闘態勢をとった。


「ボクが戻ってくるまでこの子相手に生き残れたら、命だけは助けてあげてもイイよ? そう、命だけはね・・・まあこの子は最近何も食べてないから相当に気が立ってると思うけど。アハハハハハ!」

「・・・悪趣味なやつだ・・・」


 高笑いと共に扉の向こうに消える少年二人。そして魔法陣から現れたのは、彼らの予想に反してガリガリに痩せこけた小さな子供であった。



続く


次回投稿は本日11/21(日)20:00です。



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