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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第三幕~その手から零(こぼ)れ落ちるもの~
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不帰(かえらず)の館、その34~意外な救援?~

「誰?」

「安心しなよ、君に危害を加えるつもりはない」


 声の主はドゥームであった。彼は姿も隠さず、敵意がないことを示すように両手を挙げたまま近づいてきた。ルナティカは警戒したまま、彼をしばし離した場所で止まらせた。


「大したもんだ、ホーンティングを仕留めるなんてね。アノーマリー作の魔王の中でも、出来はかなり良い方だったのに」

「用は?」

「せっかちさんだね、まあいいけど。実は君に選んでほしいことがあるんだ」

「?」


 ルナティカは疑問に思ったが、口にすることはなかった。だが表情に乏しいルナティカの内心を悟ったのか、ドゥームはぺらぺらと話し始めた。どちらにしても、話をするつもりではあったのだが。


「今現在、君を除いてアルネリアの部隊は三分割されている。一つはラファティ率いる本隊。ここには今、ほとんどの人間が集結している。一つはリサちゃんとアリストの部隊。さっきまで君がいたところだね。もう一つはジェイクの小僧と、その連れ。君に選んでほしいのは、リサちゃんを助けに行くのか、あるいジェイクを助けに行くのかってことさ」

「なぜそんなことを聞く」


 今までのルナティカならば相手と交渉などはしない。殺すだけなら交渉など不要なことがほとんどだからだ。だが今のルナティカは、守る者がある。守りながら倒すべき敵だけを排除するには、単に相手を殺す時よりも情報が必要だった。それに先ほどの件もある。

 ドゥームはルナティカが食いついたことに気をよくしたのか、さらに饒舌に話す。


「君に理解は難しいかもしれないけど、僕としては今回の戦いの勝ち負けなんて非常にどうでもよくてね。まあぶっちゃけ今回の戦いはこちらとしても望んでないし、単に成り行きでこういうことになったけど、こちらとしても困っているのさ。だからリサちゃんとか、アルフィリースの関係者にはなんとか無事で帰ってもらいたいというわけさ。

 実はこの城を作っているのは僕の部下でね。結界に自由に出入りできるのも僕くらいだし、そういうわけで手助けしたいんだけど、こっちの部下も優秀でね。こんなに見事に彼らを分断するとは思っていなかった。だからこっちとしても手が足りないのよ、正直」

「言っていることがよくわからない。望まない戦いなら、そちらが逃げればいい」

「それができれば苦労はしないさあ。確かにそれが双方にとって一番なのかもしれないけどね、残念ながら自分の領域を土足で踏み荒らされて、僕の部下は既に怒り心頭なのさ。いつも無表情で発語すらろくにないけど、もう僕の命令なんざ聞きゃしないだろうね。このまま、とことんまでやるだろう。

それにアルネリアの方は殺してまずいことなんか一つもない。格好の実験台として、むしろ戦えってのが他の連中の意見みたい。難しいことを言ってくれるよね、人に仕事させといてさ」

「それだけか?」


 ルナティカの鋭い指摘にドゥームの眉がぴくりと動いたが、ドゥームもまただんまりを決め込んだ。これ以上を語る気は最初からなかったからだ。ドゥームもこの先の展開は博打に等しいのだ。

 そしてドゥームは交渉の詰めに入る。


「それだけだよ。それだけでなくとも、今回は少なくとも関係がない。それにもうどちらを助けに行くにしても時間があまりないよ。さあ、どうする?」

「待て、このままでは結局のところお前の願いを聞いているだけで、こちらに有利かどうかもわからない。もう一つ条件を付ける。教えてくれるなら、そちらの言うことに従ってもいい」

「ほほう、いいだろう。言ってごらん?」

「今回の戦い、誰が仕組んだ?」


 ルナティカの指摘に、ドゥームが面白い物を見た時の顔をする。ドゥームは初めて、目の前のルナティカに興味を持っていた。


「誰が仕組んだ、とは?」

「言葉の通り。依頼を受けた時に感じた。こんな近くの街の出来事が、なぜこんなにも長い間アルネリアにばれなかったのか。小規模だといえば、被害届がなかったからといえばそう。だが、アルネリアにいればわかる。彼らは『ぼんくら』ではない。つまり・・・」

「ああ、そのことか。確かにアルネリアには、裏切り者がいるよ?」


 ドゥームがあまりにあっさりと認めたので、ルナティカでさえ次の言葉を失った。ドゥームはいちいちルナティカの反応を面白そうに眺めている。彼の癖ともいえるだろう。


「いるってことだけは知っている。そうでなければ、最初の襲撃時にあんなに深緑宮まで迷わず一直線にいけますかっての。けど誰かまでは知らない。僕が関わっている仕事じゃないからねぇ。別の人に聞いてみなよ?」

「そう。ではお前は何の仕事を?」

「そうだねぇ。主に特殊な武具や道具の収集、かな? 他にある程度悪霊の育ちやすい場所の作成とか、あるいは町や村の単位で滅ぼすこともある。後は雑用だよ」

「いやにペラペラ喋る。信用できない」

「自分から聞いておいて、なんて言い草だい? こっちは正直に話したのにさ」


 ドゥームが呆れ顔でルナティカを非難したが、彼にとってもルナティカに非難されるのは織り込み済みだったようだ。態度がいかにもわざとらしい。


「まあいいさ。僕だって計画の全容を知っているわけじゃないのさ。それは誰でもそうなのかもしれないね。ただ一人、ヒドゥンだけを除いては」

「ヒドゥン?」

「ああ。オーランゼブルの手伝いを最初からしているであろう男さ。もっとも、彼の目的はオーランゼブルとは一致していない気がするけどね。それに本当に計画の全貌を知っているとは、とてもじゃないが思えない。結局のところ、オーランゼブルは誰一人信用していない気がするんだよねぇ。

 さて。情報の対価としてはこんなところが妥当かと思うんだけど、どちらに向かうか心は決まったかな?」


 ドゥームが試すようにルナティカに問いかけたが、ルナティカの心は既に決まっていた。


「ジェイクの方に向かう。案内しろ」

「え、いいの? てっきりリサちゃんの方だとばかり」

「リサならそう言うはず。案内するのか、しないのか」

「そりゃ案内するけどね。取引ってのは対等に行うからこそ面白いんだから。オシリア!」


 ドゥームの呼びかけに応じ、オシリアがふわりと姿を現す。オシリアはルナティカを一瞥すると、口もきかずに案内を始めた。ルナティカは慎重にオシリアと距離を取りながらも、彼女の後に従った。ドゥームに向けて、約束を破ればどういった目に合わせるかを目で訴えながら。

 彼女達が去って、残されたドゥームはしばし考えていた。どうやらドゥームが思っている以上に、ジェイクに対するリサの愛情は深いらしい。


「まったく理解不可能だね・・・あの小僧のどこがそんなにいいのやら。僕の方が死んでからも楽しめるんだけどなぁ。まあ約束だしね、リサちゃんを助けに行きますか」


 ドゥームは戸惑ったようにしながらも、リサがいる方に向けてその姿を消したのであった。



続く

次回投稿は、11/26(月)9:00です。

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